2022年10月4日火曜日
つまみを回す指の本数の研究でイグ・ノーベル賞を受賞した千葉工業大教授の松崎元さん 「時の人」
2022年10月3日 (月)配信共同通信社
水道の蛇口など「つまみ」を回す時、人は何本の指を使うのか―。
つまみの太さで本数を無意識に変えると証明した実験結果が評価され、
ユーモラスな独自の研究に贈られる今年の「イグ・ノーベル賞」に輝いた。
手を触れなくても水が出る洗面台やタッチパネルが増える中、
蛇口のハンドルやドアノブが少数派となる日も遠くない。
自らの研究を「時代遅れ」とし、
「受賞は不思議な感じ。誰も気にしないことを真面目に研究したのが評価されたのかな」と控えめだ。
工学系のデザイナーを志望して、千葉工業大に入学。
大学院に進んでから目を付けたのは、さまざまなサイズや形状がある蛇口だった。
「本当に指に合って使いやすい形はどれだろう」。
探求の日々が始まった。
実験では、つまみを模した直径の異なる円柱を多数用意し、被験者につかんで回してもらった。
直径が約1センチ、約2・5センチと大きくなるごとに使う指が増え、
9センチになるとほぼ全員5本だった。
大学で教壇に立ちながら、機能的な日用品を開発するプロダクトデザイナーとしても活躍し多忙を極める。
「きれいでかわいいものではなく、使いやすいものを」。
計量カップとしても利用できる紙コップや、握りやすいかばんの持ち手の開発にも携わってきた。
受賞を機に、蛇口メーカーから新製品のデザインの依頼も絶えない。
1999年に発表した論文が再び日の目を見たことに、「改めて研究もしっかり頑張らないと」と襟を正した。
東京都出身、50歳。
https://www.m3.com/news/general/1083425
ノーベル医学生理学賞、沖縄科学技術大学院大学の客員教授に
2022年10月3日 (月)配信m3.com編集部
スウェーデンのカロリンスカ研究所は10月3日、
2022年のノーベル医学生理学賞の受賞者をスバンテ・ペーボ氏に授与すると発表。
古代人と人類の進化に関するゲノム解析に関する研究が評価。
2018年の本庶佑・京都大特別教授以来、4年ぶりの日本人研究者の受賞は残念ながら逃したが、
ペーボ氏は沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヒト進化ゲノミクスユニットの客員教授を務める。
スバンテ・ペーボ氏は、1955年ストックホルム生まれ。
ドイツのミュンヘン大学、マックス・プランク研究所などで研究に従事。
古代骨を用いてDNA解析を行い、ヒトの先祖のDNA配列を明らかにしてきた。
2010年、ネアンデルタール人のゲノムを解読したことや、
新系統のヒト属、「デニソワ人」を発見したこと等が評価された。
2020年にはJapan Prizeを受賞。
●ネアンデルタール人のゲノム解析に成功
カロリンスカ研究所のプレスリリースによると、
ホモ・サピエンスに最も近いとされるネアンデルタール人は、
約40万年前から約3万年前までヨーロッパと西アジアに住んでいたが絶滅した。
約7万年前、ホモ・サピエンスがアフリカから中東に移動し、そこから世界に広がっていった。
同時期にユーラシア大陸で共存していたホモ・サピエンスとネアンデルタール人がどう異なるのか、
考古学上の長年の課題だった。
これを知るには、古代の標本から回収したゲノムDNAの配列決定が必要だ。
長年が経過したDNAは細かい断片になっていたり、現代人のDNAで汚染されていたりするため、
現代の遺伝学的手法で解読するのは困難だ。
1990年、ペーボ氏はネアンデルタール人のミトコンドリアから採取したDNAを使用して分析を開始した。
ミトコンドリアゲノムは何千ものコピーがあるため成功確率が高いと言い、DNAの配列の決定に成功した。
ペーボ氏はさらに解析方法の改善を続け、2010年にネアンデルタール人のゲノム配列を発表した。
●新たなヒト属「デニソワ人」の発見
2008年、シベリア南部のデニソバ洞窟で、4万年前の指の骨の断片が発見された。
ペーボ氏は、非常に保存状態が良かったこの骨のDNAの塩基配列を決定した。
その結果、現生人類やネアンデルタール人といった既に知られているヒト属動物のいずれとも異なることが分かった。
新たなヒト属の発見だった。
ペーボ氏は、このヒト科を「デニソワ」と名付けた。
現生人類との比較を続けると、現在の東南アジアに住む集団の一部では、
最大で6%デニソワのDNAの塩基配列を持つ個体が存在することが分かった。
絶滅したヒト属とホモ・サピエンスの違いや共通点を明らかにする中で、
ネアンデルタール人のゲノムは感染症に対する免疫反応に影響を及ぼしていることも分かってきている。
カロリンスカ研究所は、ホモ・サピエンスと絶滅したヒト属の遺伝的な違いを明らかにした
ペーボ氏の研究を「画期的」と称え、
「何がこれらを分けたのか、何が我々を人間たらしめているのかを明らかにするのが、
現在も行われている精力的な研究の目標だ」とこの分野の発展に期待を示した。
【OIST学長兼理事長のピーターグルース氏のコメント】(OISTのホームページより)
「この度のスバンテ・ペーボ氏のノーベル生理学・医学賞受賞に際し、
OIST教職員一同、心よりお祝い申し上げます。
私自身も、マックス・プランク協会時代の同僚であるスバンテ氏をOISTの教員として迎え入れることに
貢献できたことを大変誇りに思います。
スバンテ氏は古遺伝学の創始者の一人で、ネアンデルタール人及びデニソワ人のゲノム解読に成功。
ホモ・サピエンスのゲノムとの比較解析により、すでに重要な機能データが得られています。
スバンテ氏は今後、ここOISTでネアンデルタール人とホモ・サピエンスのゲノムの比較解析に取り組むことを希望しており、
本学としても大変喜ばしく思っています。
この研究を通して、何が私たちを人間たらしめるのかという問いに重要な知見がもたらされることでしょう」
https://www.m3.com/news/iryoishin/1083727
2022年9月5日月曜日
脳への「優しい刺激」で高齢者の記憶力が向上、1カ月持続か
2022年9月5日(月)
年を取ると、だれもが記憶力が低下することは避けられない。
脳の特定の部位に電気パルスを送ることで、高齢者の記憶力が向上することを示す研究成果が、
ボストン大学の研究チームから発表。
私たちの多くは、歳を重ねるにつれて、記憶力の低下に悩まされることになる。
新たな研究によると、脳を優しく刺激することで、記憶力の低下を改善できるかもしれない。
年配の人々の記憶力が向上し、単語のリストが覚えやすくなるようだ。
長期記憶の向上にも短期記憶の向上にも適用できる手法で、
効果は少なくとも1カ月持続すると見られている。
実験を実施した研究チームによると、この種の脳の刺激によって、
ヒトの記憶力改善効果がこれほど長期的に持続することが示されたのは今回が初めて。
ニューヨーク市立大学シティカレッジで神経工学を研究するマロム・ビクソン教授は、
「非常に短時間の介入で直ちに効果が現れ、同時に極めて長期的な効果もあることを示す結果」
(同教授は今回の研究には関与していない)。
「さらなる研究が必要だが、うまくいけば、この機器はあらゆるクリニックに導入される可能性がある。
最終的には、家庭で使われるようになるかも」。
●電気信号が行き交う脳
今回の研究を主導したボストン大学の神経科学者ロブ・ラインハート助教授は、
「人生では避けられない事実として、歳を重ねるにつれて誰しも少し忘れっぽくなる」。
認知、注意、記憶などの脳のネットワークの機能や、こうした機能が老化や幾つかの疾患によって
どのように低下していくかを研究している。
脳細胞は、電気パルスを用いて互いに情報をやり取りしている。
脳の各ネットワークや各部位には、それぞれ固有の電気活動のパルスがある。
ネットワークに電気刺激を与えることで、ネットワークの機能を変えられることを示す証拠が次々と明らかになっている。
脳の部位間の接続を強化できる可能性さえある。
電気刺激を与える手法で記憶力を向上できるかどうか確認するため、
ラインハート助教授の研究チームは、経頭蓋交流電気刺激(transcranial alternating current stimulation:tACS)と
呼ばれる種類の刺激を脳に与えてみた。
経頭蓋交流電気刺激とは、大雑把にいうとスイムキャップのような形をしたものをかぶり、
そこに埋め込まれた電極から頭蓋骨に優しい電気パルスを送る手法だ。
経頭蓋交流電気刺では脳の各部位に電気を送るが、脳細胞の発火を誘発するほどの強力な電気を送るわけではなく、
脳細胞がどのように発火するかを調整するくらいの電気を送る。
自身による経頭蓋交流電気刺激の使用法を、脳への刺激ではなく、脳の調整と呼ぶことを好み、
「非侵襲的、安全、そして非常に少量の交流電流を使う」。
ラインハート助教授らは、高精度で制御可能なタイプの最新式の経頭蓋交流電気刺激装置を使用。
このタイプを使用することで、脳の小さな部位にターゲットを絞ることができる。
記憶に関連することが知られている2つの脳の部位に焦点を絞ることを決めた。
1つは、脳の前側にある前頭前皮質の一部だ。
前頭前皮質は、長期記憶に関連している。
もう1つは、脳の後ろ側にある下頭頂小葉だ。
下頭頂小葉は、短期記憶に関連していると考えられている。
これら2つの脳部位の活動は、それぞれ特有のパターンの電気パルスに従っている。
このパルスは、脳波とも呼ばれている。
1つめの実験では、研究チームは、それぞれの部位に本来のリズムに合わせて電気パルスを送り込んだ。
前頭前皮質には高周波、下頭頂小葉には低周波だ。
●チクチク感、痒み、そして温感
研究では、65歳から88歳の被験者を60人集めて、3群に分けた。
20個の単語を読み上げて、後ほど思い出すタスクを被験者に実行してもらいながら、
3群のうち1群に対しては、脳の前頭前皮質に対して経頭蓋交流電気刺激による調整を実施した。
他の1群に対しては、下頭頂小葉にターゲットを絞って電気パルスを送った。
残りの1群は、電極付きのキャップを着用したが、刺激は一切送らなかった。
ラインハート助教授によると、実際に刺激を脳に送られた人も、特に何かを強烈に感じたわけではなかった。
「電流が流れている間は、わずかにチクチクしたり、痒みを感じたり、突っつかれたように感じたり、
温かさを感じたりするだけ」。
20分のセッションは、4日連続して繰り返された。
4日間で脳に刺激を受けた被験者は、単語を覚えて思い出す能力が向上した。
刺激を受けなかった人の間では、そのような向上は見られなかった。
どのような種類の記憶力が向上したかは、脳のどの部位が刺激されたかによって異なっていた。
脳の前側に刺激を受けた被験者は、リストの冒頭付近の単語を覚えて思い出す能力がより高くなっていた。
これは、長期記憶が向上したことを示唆する結果だ。
下頭頂小葉に刺激を受けた被験者は、短期記憶に改善が見られた。
ラインハート助教授によると、実験の4日目が終わる頃には、
脳に刺激を受けた被験者は単語を覚えて思い出す力が50%から65%ほども向上していた。
リストにある20個の単語のうち、平均して4個から6個も余分に覚えて思い出せていた。
サリー大学の認知神経科学者ロイ・コーエン・カドシュ教授は、「これは大変驚くべき結果」
(同教授は今回の研究には関与していない)。
「日を追うごとに、記憶力が累積的に高まっていることが見て取れる」(ラインハート助教授)。
同助教授の研究チームによる知見は、
科学雑誌『ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)』に8月22日付けで発表。
最も大きな改善が見られたのは、研究開始時点で認知機能が最も低かった被験者たちだ。
ラインハート助教授は、今回の手法がいつの日か、アルツハイマー病やその他の認知症などの
記憶障害を抱える人々を救うことになるかもしれない。
研究チームは、電気パルスの周波数を入れ替えた実験も実施した。
脳の前側には低周波を、脳の後ろ側には高周波を送ったのだ。
すると、短期記憶にも長期記憶にも改善は見られなかった。
刺激が奏効するには、脳波の本来のパターンに合わせたタイプの刺激を送らなければならない可能性を示している。
研究チームは、実験後1カ月あけて被験者の記憶力を再確認しただけだ。
その時点を超えて記憶力の向上効果が維持されたかどうかは分からない。
今回の研究では、被験者が単語リストを覚えて思い出す能力が向上したことは確認できたものの、
より一般的に記憶力全体が向上しているのかどうか、
刺激によって日常生活に何らかの改善があったかどうかは、分からない。
コーエン・カドシュ教授は、「効果は極めて特定のタスクで測定したものであり、
より一般的に記憶力を向上させたいと考えている人々の役に立つようなものではない」との見解を示す。
カドシュ教授は、たとえば試験に向けて暗記をしたいという人は、
読んだ内容の最初と最後を覚えるだけでは足りず、全てを覚えたいと考えているはずだと指摘し、
「日常生活の機能において、本当に効果があるのかどうか確認する必要がある」。
ビクソン教授も、こうした懸念は抱かれても当然だと同意する。
「脳訓練」ゲームなるものの中には、プレイすると認知力が向上すると謳うものがあるが、
実際にはそのゲームのプレイが上手くなるだけで、幅広い効果はないことが研究で示されている。
ビクソン教授は、ラインハート助教授の今回の手法はそれとは異なると指摘し、
「一般的に認知の何らかの側面に関与している脳のネットワークを刺激しているわけで、
より幅広く効果が得られる可能性があるという考えには信憑性がある」。
https://medicalai.m3.com/news/220905-news-mittr
2022年8月5日金曜日
TVConalースポーツ向けのビデオ解析プラットフォーム
2022年8月3日(水)
シンガポール拠点のスタートアップ・TVConal社は、
NVIDIA Metropolisを活用し、「スポーツ向けのビデオ解析プラットフォーム」を構築した。
NVIDIAがこのほど明らかにしたところによると、
ビジョンAI向けアプリケーションフレームワークのNVIDIA Metropolisをベースとしたこのプラットフォームは、
ゲーム内の重要な出来事の検知、アスリートの動作のモデル化、動きの予測などを行い、
膨大なデータに基づいて「プレイに関する洞察」をリアルタイムで提供する。
スポーツチームやリーグ、テレビ局などのユーザーは、
スポーツの細部を速やかに切り取ることが可能となり、「チームはフィールドでより優れた判断を下せるようになる」。
現在、スポーツコンテンツの数は増加の一途にあり、
全世界のスポーツアナリティクス市場の規模は、2028年までに20%増加するとの予測。
医学的見地からは、プレイヤーの動きに準じた故障識別や疾患予測、事故予測などへの発展によって
「スポーツにおける安全性の担保」への活用も期待したい。
TVConalは、NVIDIA Inceptionのメンバーであり、
NVIDIAによる技術リソースや業界エキスパートへのアクセスの提供、市場進出の支援などを受けている。
https://medicalai.m3.com/news/220803-news-mat2
iPadでアルツハイマー病を識別するデジタルソリューション
2022年8月2日(火)
米マサチューセッツ州ボストンに所在するデジタルヘルス企業のLinus Health社は、
アルツハイマー病を含む認知機能障害を識別するAIプラットフォームを、
ヘルスケアプロバイダー向けに提供を開始することを明らかにした。
認知症患者の40%が修正可能な危険因子を有する一方で、適切なスクリーニングが実施されない現状がある。
実用的でアクセスしやすいプラットフォームの提供を通し、
高齢化の進展に伴って深刻化する認知機能を巡る課題に対処する。
Linusの「Core Cognitive Evaluation」は、新プラットフォームの基盤であり、
10分以内に認知機能について定量的・定性的なインサイトを提供するもの。
同社の「DCTclock」テストを基にした客観的な次世代評価とデジタル質問票を組み合わせることで、
患者の現在の認知状態と将来の認知症リスクの両方を可視化し、医療機関や患者への推奨事項を提供する。
DCTclockは、長年紙ベースで行われてきた時計描画テストをiPadベースで実施し、
さらにその評価・解釈をAIで拡張させたもの。
AIを使用することで完成物としての時計の絵だけでなく、
描画プロセスも評価することで従来よりも高い疾患検出感度を実現した。
この技術は、TIME誌の2021年における「100 Best Inventions」にも選出。
Linusの最高医学責任者であるAlvaro Pascual-Leone氏は
「プライマリケアでより多様な脳ケアを実現するためには、
効率的な評価と実用的なガイダンスの両方を提供する必要がある」とした上で、
「我々のプラットフォームは、認知に関する問題を早期にスクリーニング・特定し、対処することを可能にした。
このプラットフォームでは、患者ごとにパーソナライズされた行動計画を作成することで、
脳の健康を維持・促進するための対策を講じることができる」。
https://medicalai.m3.com/news/220802-news-mat1
2022年7月26日火曜日
BA.5を含むオミクロン株に対する新型コロナ治療薬の効果の検証結果
医療ニュース2022年7月25日 (月)
東京大学医科学研究所は7月21日、臨床検体から分離した
新型コロナウイルス・オミクロン株 BA.2.12.1、BA.4、BA.5系統に対する治療薬の効果を検証し、その結果を発表。
この研究は、同研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らと国立感染症研究所、
国立国際医療研究センターが共同で行ったもの。
研究成果は、「New England Journal of Medicine」に掲載。
2021年末から始まった新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は現在も続いている。
オミクロン株は、5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類。
オミクロン株の流行が始まってから数か月間は、BA.1系統に属する株が世界の主流だったが、
その後BA.2系統への置き換わりが進み、同系統が世界の主流となっている。
7月以降、国内を含む多くの国々でBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが急速に進んでいる。
海外では、BA.2系統からBA.4系統あるいはBA.2.12.1系統への置き換わりが進んでいる地域がある。
国内では、カシリビマブ・イムデビマブ(製品名:ロナプリーブ注射液セット)、
ソトロビマブ(製品名:ゼビュディ点滴静注液)の抗体薬、レムデシビル(製品名:ベクルリー点滴静注液)、
モルヌピラビル(製品名:ラゲブリオ)、ニルマトレルビル・リトナビル(製品名:パキロビッドパック)の
抗ウイルス薬が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬として承認を受けている。
これらの治療薬が、オミクロン株のBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対して有効かどうかについては明らかではなかった。
●抗体薬は種類により効果に差、ベブテロビマブは各系統いずれに対しても高い中和活性
研究グループは始めに、4種類の抗体薬(ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、
チキサゲビマブ・シルガビマブ)が、オミクロン株のBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の感染を阻害(中和活性)するかどうかを調べた。
各系統に対する中和活性は、ソトロビマブではどの系統に対しても著しく低いことがわかった。
カシリビマブ・イムデビマブとチキサゲビマブ・シルガビマブは、いずれに対しても中和活性を維持していることが判明。
カシリビマブ・イムデビマブのBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対する効果は、
従来株(中国武漢由来の株)に対する効果と比較すると著しく低い。
チキサゲビマブ・シルガビマブの効果も、従来株に対する効果と比較すると低下。
ベブテロビマブは、各系統いずれに対しても高い中和活性を示し、
その効果は従来株に対するそれと同等であることがわかった。
●抗ウイルス薬3種はいずれも、各系統の増殖を抑制
3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)の効果を解析した結果、
全ての薬剤がBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の増殖を効果的に抑制することがわかった。
「得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、
オミクロン株の各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となる」。
https://www.m3.com/clinical/news/1062851
新型コロナ「貼るだけ」で診断、東大がパッチデバイス
2022年7月7日(木)
東京大学の研究チームは、従来の注射針を用いた採血に代えて、
低侵襲(無痛)で、皮膚に貼るだけで抗体検出ができる、新しいパッチ型抗体検出デバイスを開発。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体の検出に同デバイスを適用したところ、
市販の検査キットと同等以上の感度を実現したとしており、今後、ヒトへの臨床応用を検証し、実用化を進める。
同デバイスは、生分解性多孔質マイクロニードルと、液体を滴下することで抗原や抗体の有無を検査できる
イムノクロマト・バイオセンサーで構成されている。
多孔質マイクロニードルが皮膚に刺さると、毛細管現象により、
連続した微細孔を通して細胞間質液が採取されてセンサーに運ばれる。
センサーで抗体が捕捉されると、色のついた線で表示されるため目視で読み取ることが可能となる仕組みである。
デバイスに装備する多孔質マイクロニードルは、生体分解性のポリ乳酸を使用して独自に製作。
動物実験により、ラットの皮膚から細胞間質液を迅速に抽出できることと、
マイクロニードルを除去した後で速やかに皮膚が元の状態に回復したことを確認した。
新型コロナウイルス感染症の感染経過を調べるために、
PCR検査などの補完として、新型コロナウイルスに対する抗体の検査が用いられている。
検査のための採血には痛みを伴うほか、針による感染の危険性があるといった問題がある。
今回開発したデバイスは、小型、低侵襲で簡単に使用できるため、
さまざまな感染症の迅速なスクリーニングへの応用が期待される。
研究成果は、国際学術誌サイエンティフィック・レポーツ(Scientific Reports)のオンライン版で、2022年7月1日付けで公開。
https://medicalai.m3.com/news/220707-news-mittr?dcf_doctor=false&portalId=mailmag&mmp=AI220715&mc.l=878018086
2022年7月7日木曜日
唾液中タンパクが感染防止 高齢者の重症化と関連か コロナ、大阪公立大
2022年7月7日 (木)配信共同通信
大阪公立大のチームは6日、唾液に含まれる特定のタンパク質に、
新型コロナウイルスの感染を防ぐ働きがあることが分かったと国際科学誌に発表。
加齢に伴って唾液の分泌量が減少している高齢者の発症や重症化に関連している可能性がある。
チームの松原三佐子准教授(細胞分子生物学)は、
「感染予防薬の開発につなげたい」としている。
チームによると、唾液の分泌量は乳幼児ほど多く、高齢になるにつれて減少。
感染防止の役割を果たすタンパク質の量も同様に減少するとみられる。
新型コロナは、ウイルス表面の突起「スパイクタンパク質」と、
人の細胞表面にある受容体タンパク質が結合することで感染する。
チームは、人の細胞に薄めた唾液を加え、新型コロナと感染の仕組みが同じ別のウイルスを振りかけて分析。
唾液の濃度が高くなるほど、ウイルスと細胞表面の受容体が結合しにくくなることが分かった。
チームは、人の受容体と結合する唾液中のタンパク質を4種類特定。
中でも「ヒストンH2A」と「好中球エラスターゼ」の二つが、
両者の結合を防止する働きが特に強いことも判明した。
松原准教授は「ウイルスを攻撃する薬ではなく、
私たちの体がもともと持っている力に着眼した薬の開発を目指したい」
https://www.m3.com/news/general/1057666
2022年4月19日火曜日
順天堂学長「メタバース・ホスピタルは無尽蔵の可能性を秘めている」
2022年4月15日(金)
順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社は2022年4月13日、
メタバースを用いた医療サービス構築に向けての共同研究を開始すると発表。
「メディカル・メタバース共同研究講座」を設置し、産学連携の取り組みを開始する。
順天堂医院の実物をオンライン空間で模した「順天堂バーチャルホスピタル」を構築。
患者や家族が来院前に、バーチャルで病院内を体験できる環境を作る。
説明が複雑な治療の疑似体験やリハビリ、生活習慣病の生活指導、パーキンソン病の歩行トレーニング、
オンライン診療への応用、病院内外のコミュニティなど、時間と距離を超えた新たな医療サービスの研究・開発に取り組む。
会見で、順天堂大学学長の新井一氏は「医療、医学は大きな社会の課題だが、様々な取り組みをして質を上げていきたい」。
日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役社長の山口明夫氏は
「順天堂大学とは過去3年間にわたって、パーキンソン病や認知症へのAI活用法について研究を行ってきた。
電子カルテを含む医療情報システムの構築も進めている。
今回の取り組みは共同活動を一歩先へ進めていくもので、患者の生活向上や働き方改革に貢献するだろう」。
「仮想空間に、物理世界と同じものを再現できるようになっている。
我々の入社式もメタバースで行うことで、祖父母も参加することができた。
テクノロジーには冷たい印象を持たれる可能性があるが、今まではできなかった体験や気付きが生まれる。
新しい医療のあり方、そして人に優しい社会の構築に役に立てられると考えている」
「メディカル・メタバース共同研究講座」の講座代表者である順天堂大学医学部長・医学研究科長の服部信孝氏は
「病院は、検査に行くまで複雑な通路を通る必要がある。
病院内部の案内に使えるのではないか。
脳深部刺激療法のような複雑な治療法のインフォームドコンセントは、口頭で伝えてもなかなか分かりにくい。
そういった場合、患者さん自身のアバターを使えば、ストーリー性をもって副作用や治療過程を示すことができる」
サービス開発の領域としては、まずは精神疾患を対象とする。
パーキンソン病患者には「すくみ足」が起きるが、仮想空間のなかで元気に自分のアバターが歩いている姿を見てもらうことで、
患者本人の脳に「こうすれば歩けるんだ」ということを覚えてもらうことが歩行改善につながるのではないか。
仮想空間がメンタルに及ぼす影響を調べることで、
うつ病などもある程度改善できるかもしれないと考えていると述べ、
「将来性があり、かつ現実の臨床応用に繋がるのではないか」と期待を示した。
研究の詳細は、日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員の金子達哉氏が紹介。
なぜヘルスケアの共同研究なのか、という背景から紹介。
「人生100年時代」と言われ、健康寿命の延伸が叫ばれるなか、一人一人が健康・治療・介護といった
ライフイベントを自らデザインする時代が到来している。
順天堂大学の医療情報システムおよび情報基盤の構築を担当するIBMは、
服部氏と「新たなイノベーションの源泉」としてメタバースについて議論を行った。
メタバースは、これまでに推進してきたオンライン診療との親和性も高い。
今後パーソナルヘルスレコード(PHR)の普及が見込まれるなか、
PHRを通じて仮想とリアルを行き来する医療世界の実現が見込めると考えて、
ライフイベントを自らデザインする場を共同で作り出せるのではないかとこの取り組みを開始した。
目指す姿は⼤きく分けて3つ。
1)患者の満足度の向上と医療従事者の働き方改革
2)医療の質の向上と新たな治療法の確立
3)新たな市場の創出
コンセプトは、患者と患者の家族に喜んでもらえる新しい価値を提供することを第1優先とする。
様々なプレイヤーに参画してもらうことで、新たヘルスケア医療のエコシステムを形成していく。
患者の満足度の向上および医療従事者の働き方改革については、
メバタース空間に「順天堂バーチャルホスピタル」を構築し、
患者や患者家族が来院前に病院をバーチャルで体験したり、医療関係者と交流できたりするようにする。
バーチャル集会所も作り、外出が困難な患者が病院内外の人と仮想空間でアバターを用いて訪問したり、
患者同士がコミュニケーションを取れたりできる世界とする。
説明が複雑な治療を疑似体験することで不安や心配を取り除き、病院の予約や問診などをバーチャルホスピタル上で代替することで、
医療事務の人たちの負担を軽減して働き方改革に貢献することも目指す。
2つ目の柱、医療の質の向上、新たな治療法の確立については、中長期的に取り組む。
メンタルヘルスを対象として、バーチャル上の活動や体験で疾患の改善が図れるかを学術的に検証し、新たな治療法に繋げる。
3つ目、新たな市場の創出については、
IBM一社で全てできるものではないと考え各社からなるエコシステム構築を目指す。
製薬企業の目線で見ると、デジタル上で未来の自分と現実世界の今の自分とが「薬を飲んでいたから、いま健康でいられる」
といった会話をすることで、服薬アドヒアランスを向上させることができるのではないか。
薬効の説明をメタバースで行うことで、より効率的に治験のマッチングなどができる可能性もある。
保険会社にとっても、デジタルツインに基づくリスクモデルの構築や、
生の声を収集することによる新製品の開発なども可能ではないか。
リアルな病院ではおしゃれはしづらいが、バーチャル空間ではそのような制限はない。
アパレル企業に参画してもらうことで、そういったニーズも満たしていきたい。
順天堂バーチャルホスピタルをキーとして、最終的に、ヘルスケア医療のエコシステムを形成していくことを目指す。
スケジュールはこれから詳細化していくが、3年間で成果を出すことを目標とする。
年内には、患者・家族が利用できるようにする。
短期的に成果を出しやすい「コミュニケーション広場」などは早めに提供して、多くの人が利用しやすいようにする。
コミュニティ広場の場合、没入感が重要なのでゴーグル型のディスプレイの貸し出しなどを検討し、
病院案内はPCやスマホで提供する予定。
3年間での利用者数については、金子氏は「累計1万人を一つの目標としたい」。
金子氏は「患者にとって、デジタルやテクノロジーは冷たいイメージを持たれやすい。
COVID-19のような面会が難しい状況下でも、バーチャル上であれば交流ができる。
デジタルテクノロジーを用いて、人の温かみを届けられる世界を一緒に作り上げていきたい」
順天堂大学の新井学長は、「メタバースは無尽蔵の可能性を秘めている。
メタバース・ホスピタルを用いることで、本当の意味での患者中心医療ができるのではないか。
仮想空間と実空間をうまく融合できる方向に持っていければ、個々の疾患治療だけではなく、
良い医療を甘受してもらえるようになると思う。色々な可能性がある。
共同研究講座でそれぞれの理想を集約していきたい」
https://medicalai.m3.com/news/220415-report-metaverse
スギ花粉症「舌下免疫療法」の効果、遺伝子型で予測可能に 福井大など
2022年4月11日 (月)
福井大と筑波大などでつくる研究グループは五日、スギ花粉症の治療法「舌下免疫療法」の効果を
患者ごとに判別できる遺伝子型を特定したと発表。
数千円程度の比較的安価な検査方法も確立し、臨床検査としての実用化を目指している。
実現すれば、治療前に患者の血液や唾液から遺伝子型を調べることで、治療効果の出やすさを医師が説明できるようになる。
研究を主導した福井大医学部の藤枝重治学部長と、解析を担当した木戸口正典特命助教が福井市の文京キャンパスで会見。
舌下免疫療法は、アレルギーの原因となる物質を含む錠剤を毎日舌の裏に投与する治療法で、
二年以上続けることで七割以上の患者に効果がみられるが、残りの患者の効果は低い。
これまでは治療効果を事前に予測する方法がなかった。
研究グループは、免疫反応に関わるHLA遺伝子に着目。
遺伝子型に個人差があるため、三重県の耳鼻咽喉科で舌下免疫療法を二年以上受けているスギ花粉症患者二百三人について、
この遺伝子型と治療効果の関連性を調べた。
その結果、スギによる花粉症で、舌下免疫療法が効きやすい患者と効きにくい患者を判別できる遺伝子型を発見した。
血液や唾液からDNAの特異的な塩基配列を調べることで、
舌下免疫療法が効きにくい遺伝子型の有無を判別できる検査方法も確立。
HLAの遺伝子型を調べるのに比べ、十分の一ほどの費用で済む。
藤枝医学部長は「これまでは二年間治療をしてみると効果があるのかどうか分かる、としか言えなかった。
遺伝子型で効きやすさを説明できるようになり、患者は安心して治療を受けられるようになる」と研究の意義を強調。
木戸口特命助教は、臨床検査で「必要のない遺伝子情報まで知る可能性がある」として、
患者のカウンセリングを課題に挙げた。
研究成果は二月、欧州のアレルギー学会誌「アレルギー」の電子版に掲載。
福井大と筑波大は検査方法などの特許を出願している。
※舌下免疫療法
アレルギーの原因となる物質を含む錠剤を毎日舌の裏に投与する治療法で、
治療後も長期間にわたって効果が持続する。
保険が適用され、五歳以上から治療が可能。
https://www.m3.com/news/general/1034259?dcf_doctor=false&portalId=mailmag&mmp=MT220419&mc.l=848624093&eml=12b55b931cb52b4152963c77864c5aec
パーキンソン病に鼻から入れる薬 新日本科学が臨床試験 操作簡単、即効性に期待
2022年4月19日 (火)
新日本科学(本店鹿児島市)は、鼻から入れるパーキンソン病の症状を緩和する経鼻薬の臨床試験(治験)を始めたと発表。
注射に比べ操作が簡単で、飲み薬より即効性が期待できる。
2028年の医薬品承認申請を目指している。
パーキンソン病は、脳の情報伝達を担うドーパミンを出す神経細胞が減り、手足の震えや運動機能低下などの症状がみられる。
病気の進行に伴って現れる、体の動きが急に止まるなどの「オフ症状」改善が課題とされる。
経鼻薬の開発は、同社の子会社が取り組んでいる。
既存の飲み薬で使われている成分を鼻粘膜に吸収しやすく独自に粉末製剤化。
高い噴射性能を持つプッシュ式の医療用具で投入する。
「5~10分程度でオフ症状の緩和が可能」としている。
治験は3段階のうちの第1段階で、健常者21人を対象に安全性などを評価する。
第2段階で少人数の患者を対象に投与量などを決め、第3段階では多数の患者が対象になる。
永田良一会長は「オフ症状は日常生活を妨げ、患者だけでなく家族や介護者に大きな負担となっている。
治験を成功させ実用化を進めたい」と話している。
https://www.m3.com/news/general/1036599
mRNA「がん治療にも応用可能」カリコ氏ら来日し会見日本国際賞受賞、研究の苦労やワクチン実用化の喜び語る
2022年4月16日 (土)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用で実用化したmRNAワクチンを開発した
独・ビオンテック社のカタリン・カリコ上級副社長と米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授が
4月15日、日本国際賞の授賞式で記者会見。
カリコ氏らは、論文発表当初は研究の重要性が気づかれなかったことなどを振り返り、忍耐強く研究を続けたほか、
がんなどの治療薬にも応用可能であるなど、mRNAの臨床応用の可能性に期待を込めた。
日本国際賞は、科学技術分野で優れた功績を収めた研究者に贈られる。
1月に受賞が決定した。
カリコ氏は「我々の研究がワクチンの成功につながったが、一緒に研究を行った同僚の努力を忘れてはならない」と
研究仲間に敬意を表した上で、「自分たちが成し遂げたことで誰かが救われるのは本当にうれしい」と喜びを表わした。
mRNAワクチンがタンパク質ワクチン、不活化ワクチン等と比べて優れている点を聞かれると、
ワイスマン氏は「それぞれに長所、短所がある」とした上で、mRNAは迅速に開発できる点が重要と述べた。
ビオンテック社、モデルナ社が6週間でワクチンを完成させ、10カ月後には米国で緊急承認を受けたと、スピード感を強調した。
カリコ氏は、mRNAの生成は廉価であることも付け加え、さまざまなウイルスのワクチンに応用可能な点が重要とした。
「コロナウイルスからマラリアに切り替えるのであれば、必要なDNAが変わり、そこからmRNAを生成する。
技術の観点では非常に迅速に切り替えることができる」
mRNAの臨床での実用化は、ワクチンが初めて。
期待がかかる治療薬での活用について聞かれると、カリコ氏は心不全やがんなど、さまざまな治療に応用できると答えた。
既にワクチンに先行して心不全の治療薬として臨床試験を行っており、心臓バイパス手術を受けた患者に投薬している。
カリコ氏が上級副社長を務めるビオンテック社では、転移性がんを標的とした治療薬開発に向けた臨床試験を行っている。
ワイスマン氏は、現在の免疫チェックポイント阻害薬が高額であることを指摘した上で、
mRNAを活用して体内でT細胞を生成できるため「mRNAは免疫療法をかなり改善することができる」と自信を見せた。
カリコ氏らは、2005年にワクチン開発にもつながるmRNAについての論文を発表。
当時は反響がなかったという。
カリコ氏は「論文が出たら電話が鳴りっぱなしになると(ワイスマン氏と)話していたが、実際はほとんど鳴らなかった」と
冗談交じりに当時を振り返った。
「その時に分かったのは、まだまだやらなければならないことがあるということ。諦めず忍耐強く続けた」。
ワイスマン氏も「mRNAに非常に大きな可能性があるのは分かっていた」と、
研究の重要性を信じ、mRNAの生成を続けたことで成果が認められるようになったとした。
研究成果が評価されず、助成金の申請を断られたり、大学での役職を失ったりするなど、研究環境や研究費の面で苦労した。
カリコ氏は「なぜ自分なのかと思う代わりに、そのエネルギーを次は何をするべきか、に切り替えた」。
「自分を見失わず、他人のせいにせず、文句を言わずにやってきた」と忍耐が重要との考えを示した。
各国政府から基礎研究への支援について聞かれると、
ワイスマン氏は「政府からより早く助成金を受け取れたら、研究が早く進んでいたかと言われたら、そうかもしれない」としつつも、
全ての研究者が資金が必要であること、どの程度の予算を基礎研究に振り分けるかを決めるのは政府であるため、
「非常に難しい問題だ」とした。
ハンガリー生まれのカリコ氏は、大学卒業後に研究のため渡米。
ハンガリーで研究者になりたいと願っていたというが、研究費用や環境を確保できなかった。
ヨーロッパで研究を継続する模索をした際には、費用は持参するよう求められたことを振り返り、カリコ氏はため息をついた。
1985年に渡米した際は、冷戦真っ最中で外貨を持ち出すことができなかったため、約900ポンドを娘の持つテディベアに忍ばせて国を出た。
「とても怖かった」と振り返りながらも、
「アメリカで素晴らしい講義を聴き、学ぶことができた」と意義があったと語った。
「現在は世界中の講義をYouTubeで見ることができるし、最新の科学のニュースをインターネットで調べられる」として
世界の科学者にとって環境は改善しているとの考えを示した。
研究者を目指す若者についてカリコ氏は「自分がずっと情熱を持ってできる仕事を選んでほしい。
そうすればきっと楽しめ、充実した人生になる」と激励のメッセージを述べた。
「女性にとって難しいこともあると思う」と認め、サポートしてくれるパートナーがいることは重要とした。
子育てか研究か、二者択一にする必要はなく、周囲がどう考えるかは気にしないと、自身の考えを示した。
https://www.m3.com/news/iryoishin/1035774
2022年4月14日木曜日
若者の活動量を増加させる「デジタルヘルスプログラム」
2022年4月1日(金)
Fitbitとテキストベースのヘルスコーチングによるデジタルヘルスプログラムが、
10代の若者の身体活動量を向上させたとする研究成果が公表された。
米テキサス工科大学などの研究者らによる本研究論文は、JMIR Pediatrics and Parentingからこのほど公開。
研究論文によると、13歳から18歳までの肥満傾向にある28名を対象とし、
12週間のプログラム期間中、1時間の活動または10,000歩を日々の目標として介入した。
ウェアラブルデバイスによる活動量モニタリングに加え、テキストベースのコーチングを継続して行なっている。
プログラムには「週ごとの個人目標」の設定があり、目標達成では現金によるインセンティブを受け取ることができる。
結果、研究参加者は平均して7週間は活動目標を達成しており、またFitbitの日毎装着率は90%を超えていた。
著者らは「デジタルヘルスプログラムによる介入で、活動時間に有意な改善がみられたこと」を強調。
近年、ウェアラブルデバイスを用いた健康プログラムは多数提唱され、一定の成功をみているが、
社会経済的地位の低い群で有効性が乏しい可能性が示されるなど、
対象者とそれに応じたプログラム設計の重要性が指摘されている。
本研究はサンプルサイズが小さく、一般化可能性の議論に制限はあるが、
若年者に対する有効なモニタリング手法の一案として、
また金銭的インセンティブの生むモチベーション向上効果について示唆的な論文とも言える。
https://medicalai.m3.com/news/220401-news-mat1
AIによる「大腸がん検診の受診勧奨」
2022年4月5日(火)
大腸がん検診は、多大な科学的エビデンスに支えられ、
悪性所見の早期発見、および生命予後の改善に大きな役割を果たしている。
しかし、対象となる患者の多くが大腸がん検診を受けていない現実がある。
米ペンシルバニア州に本拠を置く大規模ヘルスケアプロバイダーの「ガイシンガー・ヘルス・システム」は、
Medial EarlySign社との協働により「大腸がん検診の受診期限を過ぎた患者を特定し、機械学習アルゴリズムを用いて
患者情報から最もリスクの高い者にフラグを立てる」取り組みを行なっている。
研究成果は、NEJM Catalyst Innovations in Care Deliveryからこのほど公開。
本研究論文によると、このAIアルゴリズムによって「フラグを立てられた患者」の68.1%が
大腸内視鏡検査の検査予定に結び付き、およそ70%には有意な所見が見つかったとしている。
本取り組みの中では、AIによるリスクスクリーニングの結果を電話で看護師が説明する、というプロセスを取っている。
一方、これまでは大腸がん検診の受診勧奨に効果的なアプローチは限られていたため、
州・国家規模でのヘルスケア向上に向けた巨大な一歩として注目を集めている。
https://medicalai.m3.com/news/220405-news-mat2
音声テキストのみでPTSDをスクリーニングするAI研究
2022年4月13日(水)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生死に関わるような極めて強いストレス後に、
フラッシュバック・抑うつ・回避行動・過覚醒などをきたす精神疾患である。
COVID-19パンデミックを経て、医療従事者など特定職域でPTSDを含むストレス関連疾患が増加したことや、
感染からの回復者にPTSDの診断を受ける者が一定割合でみられることなどを背景に、
世界的な罹患率増加が観測されている。
医療へのアクセス困難が今後も起こり得る状況に対し、PTSDの診断を補強するための遠隔スクリーニングツールが検討され、
カナダ・アルバータ大学のチームからは「音声テキストからPTSDを約80%の精度で検出する機械学習モデル」が公表された。
Frontiers in Psychiatryに発表された同研究では、
PTSDの診断を持たない188名と、PTSD患者87名を対象とし、人工キャラクター「エリー」とビデオ通話でインタビューを行い、
得られた音声テキストから感情を分析するAIモデルのトレーニングを行った。
センチメント分析と呼ばれる、テキストの感情的特徴やポジティブ/ネガティブな考えを分類する機械学習手法を用い、
PTSD患者に特有の中立的あるいは否定的な考え方を話す頻度をスコア化することで、
スクリーニングツールとしての性能を発揮している。
アルバータ大学のインタビューに対し、プロジェクトを率いたJeff Sawalha氏は
「先行研究と同様に、PTSD患者は中立的で感情を麻痺させて多くを語らない傾向があり、
一方ではネガティブな感情を表現する患者もいる」と説明する。
音声テキストデータのみでPTSD患者を識別するという成果から発展し、
チームではアルツハイマー病や統合失調症など言語的特徴が強い精神神経疾患をさらなる分析対象として検討。
https://medicalai.m3.com/news/220413-news-mat
ロボットによる歩行訓練でALS患者の歩行機能が21.7%改善 東邦大学とサイバーダイン
2022年4月13日(水)
難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者に、
日本のベンチャーが展開する生体電位信号を活用した歩行訓練ロボットによる歩行訓練に取り組んでもらったところ、
歩行能力に一定の改善効果が認められたと、東邦大学の研究チームが発表。
根治療法のないALSに対する医療的介入で、何らかの改善が見られたとの成果は世界初とみられる。
研究成果を発表したのは、
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 森岡 治美助教(任期)、平山 剛久講師、狩野 修教授、
同医学部リハビリテーション医学研究室の海老原 覚教授らの研究グループ。
ALSは、脳・脊髄などに存在する運動ニューロンが障害される進行性の神経変性疾患であり、
発症すると筋力低下にともなう運動障害、嚥下障害、呼吸障害などを引き起こす。
現在、この運動ニューロン障害を止め、改善する根治療法が存在しないため、
予後が3~5年と短く、致死的疾患として喫緊に解決されるべき医療課題となっている。
研究チームでは、サイバーダイン(東京都)が展開する歩行訓練ロボット「HAL®️医療用」による
歩行訓練を患者11人に取り組んでもらい、
訓練前後で歩行能力にどのような変化があったかを観察した。
同ロボットは、皮膚表面の神経筋活動の生体電気信号(BES)に従って、物理的な歩行支援を行う独自の装着型外骨格ロボット装置で、
重度障害においても随意的および自律的な歩行訓練が可能であるため、
従来の理学療法と比較しても強度の高い訓練が行えることが特徴。
既に2016年4月にALSを含む8つの神経・筋疾患に対し保険適用となっているが、
臨床試験におけるALS患者の症例が少なかったため、今回の研究を実施した。
研究では、2019年1月から12月までに同大学でALSと診断された患者で、
10m以上の自立歩行はできないものの、介助または歩行補助具を使用して10m以上歩行が可能な患者11名を対象とした。
同ロボットによる訓練を1クール(全9回、頻度2-3回/週、1-2か月間。実施時間:装着や休憩を除き20-40分)行い、
その前後で2分間の歩行距離、歩行速度、歩幅、歩行率を評価する10mの歩行テスト、ALSの運動機能評価尺度(ALSFRS-R)、Barthel Index(BI)、
機能的自立度(FIM)、努力性肺活量を測定、解析した。
その結果、平均歩行距離は治療前の73.87mから治療後89.94m(21.7%改善、p=0.004)に延伸したほか、
10m歩行の歩行率の平均値も治療前の1.71から治療後1.81(p=0.04)へと改善した。
研究チームでは、今回の研究成果は一時的な効果を示すものであり、
継続的な訓練により歩行機能をさらに維持、改善できる可能性も考えられ、
より大規模な研究で検証する必要があるとしている。
論文リンク:Robot-assisted training using Hybrid Assistive Limb ameliorates gait ability in patients
with amyotrophic lateral sclerosis(Journal of Clinical Neuroscience)
https://medicalai.m3.com/news/220413-news-medittech
2022年2月4日金曜日
COVID-19に罹らない人を探す世界規模の計画が始動
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220209
原文:Nature (2021-10-29) | doi: 10.1038/d41586-021-02978-6 | The search for people who never get COVID
SARS-CoV-2感染に対して生まれながらに抵抗性のある人を探す、国際的なプロジェクトが始まった。
こうした人を調べれば、新しい治療法の開発につながると期待されるからだ。
パンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)に対し、
生まれつき抵抗性があったら、どうだろう?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したり、このウイルスを広げたりする心配をしなくていいかもしれない。
このような特性を有する人を、研究者たちは探している。
研究に協力してほしいと思っている。
もしかすると、あなたも候補者かもしれない。
国際的な研究チームは、SARS-CoV-2の感染に抵抗性を与える遺伝的要因を有する人を世界的に探し始め、
その戦略を2021年10月にNature Immunology で発表した(E. Andreakos et al. Nature Immunol. https://doi.org/g4sh; 2021)。
このような人を見つけ、感染を防いでいる遺伝子を特定することが、COVID-19からの防御だけでなく、
感染の伝播も防ぐ「ウイルス遮断薬」の開発につながる。
「素晴らしいアイデアです。賢いやり方です」と、フレデリック国立がん研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の
免疫遺伝学者Mary Carringtonは言う。
「成功が保証されているわけではありません。
このコロナウイルス科ベータコロナウイルス属のSARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性が存在するとしても、
その形質を持つ人は『ほんの一握り』かもしれません」と、
ルーバン・カトリック大学(ベルギー)の小児免疫学者で医師であるIsabelle Meyts。
彼女はこの取り組みを支えるコンソーシアムの一員である。
「問題は、抵抗性を示す人をどのように見つけるかです。
これは非常に難しいことですから、『やり遂げる』という強い意思が必要です」と、
テキサス大学サンアントニオ健康科学センター(米国)の感染症専門医Sunil Ahuja。
この論文の著者らは、該当者を探し出せると自信を持っている。
「1人見つかるだけでも、この戦略で最も重要なことは達成されるのです」と、
研究に参加するアテネアカデミー生物医学研究財団(ギリシャ)の免疫学者Evangelos Andreakos。
最初の段階は、対象を絞り込むことである。
COVID-19患者と長期間にわたって濃厚接触している人の中から、
ワクチン接種などの予防措置を取っていないのにSARS-CoV-2感染検査で陽性にならない、
あるいはこのウイルスに感染した細胞を除去する免疫応答が起こっていない人を探す。
特に興味深いのは、感染したパートナーと家やベッドを共有する人である。
こうしたカップルは「不一致カップル」として知られる。
Andreakosらの研究チームは、ブラジルやギリシャなどの世界10カ所の研究センターに属する研究者で構成され、
こうした基準をクリアした有力候補者を約500人、既に確保している。
彼らが論文を発表して以降、ロシアやインド在住の人も含む少なくとも600人から「私も該当する」との申し出があった。
この研究の共著者であるロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の遺伝学者Jean-Laurent Casanovaは、この反応に本当に驚いた。
「SARS-CoV-2に曝露されても明らかに感染していない人が、自ら連絡をくれるなんて、思いもしなかった」。
目標は、少なくとも1000人の候補者を確保することである。
研究チームは既にデータの解析を開始している、とAndreakos。
候補者が多量のSARS-CoV-2に曝露されたことを証明するのは難しい。
「この研究はほぼ不可能かもしれません」とAhuja。
カップルの一方が無症状の濃厚接触者である場合、感染したパートナーが生きたウイルスを大量に排出していたことを確認する必要がある。
Ahujaによれば、不一致カップルは珍しくないが、これらの基準を満たしていて、
定期的に検査を受けているカップルが見つかることはめったにない。
現在では多くの人がワクチン接種済みのため、SARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性は目に見えなくなっている可能性があり、
この研究の候補者確保はいっそう難しくなっていると付け加える。
候補者を絞り込んだら、次は、抵抗性に関連する遺伝子を見つけ出すために、候補者のゲノムを感染者のゲノムと比較する。
抵抗性に関連すると考えられる全ての遺伝子を細胞や動物のモデルで研究し、
抵抗性との因果関係を確認することで、作用機序が確立されるのだ。
Casanovaの研究チームは、重症COVID-19への感受性を高める稀な変異をこれまでに特定しているが、
現在、研究は抵抗性を調べる段階に移っている(2021年11月号「COVID患者の重症化・死亡に自己抗体が関連か」参照)。
他の研究グループは、ゲノムワイド関連解析(GWAS)と呼ばれる遺伝学的研究で、
数万人のDNAにおいて一塩基変化(通常は弱い生物学的効果しかない)を調べ、
感染のしやすさ(感受性)の低下に関連する有望な候補変異を特定している
(2021年9月号「COVIDのリスクに関連する遺伝的バリアントが分かってきた」参照)。
「このような変化の1つは、血液型O型の原因遺伝子に見られます。
その防御効果は小さく、防御の仕組みも分かっていません」と、Carrington。
この最新のプロジェクトを支える研究者らは、明らかになる可能性のある抵抗性機構がどんなものか、仮説を立ててきた。
最も疑う余地がない機構と考えられるのは、一部の人には、SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に利用する
機能的なアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体がない、というもの。
査読前論文ではあるが、あるGWAS研究から、ACE2遺伝子の発現を低下させると考えられる1つの稀な変異が
感染リスクの低下に関連し得ることが明らかになった(J. E. Horowitz et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/ghqgn5; 2021)。
この種の抵抗性機構は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)でこれまでに観察されている。
HIVはCCR5受容体を利用して白血球に侵入する。
AhujaとCarringtonは1990年代初頭から、白血球上のCCR5受容体の機能を喪失させる稀な変異の特定に役立つ研究に関わってきた。
「この知識は本当に役に立っています」とCarrington。
この知識からHIVの遮断薬という分類クラスが開発された。
2人の患者は、CCR5の抵抗性遺伝子を2コピー持つドナーから骨髄移植を受けた後、
HIVが明らかに除去された(2019年5月号「幹細胞移植後にHIVが消滅した第2の症例」参照)。
このような機構によらずにSARS-CoV-2抵抗性を示す人の体内では、
SARS-CoV-2に対する非常に強力な免疫応答が起こっている可能性があり、
それは鼻の内側を覆う細胞周囲で特に顕著なのかもしれない。
そうした人たちの中には、ウイルスの複製と新しいウイルス粒子への再格納を阻止する遺伝子や、
細胞内のウイルスRNAを分解する遺伝子の機能を増強する変異を持つ人がいるかもしれないと、Andreakos。
Andreakosは、今後も課題はあるが、生まれつきSARS-CoV-2に抵抗性である人を見つけ出すことについて楽観的である。
「私たちは、こうした人を見つけ出せる自信があります」
ガラスはカーボンニュートラルな未来にとっての隠れた宝石だ
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220249
原文:Nature (2021-11-03) | doi: 10.1038/d41586-021-02992-8 | Glass is the hidden gem in a carbon-neutral future
ガラスは、リサイクルしても劣化しないし、カーボンフリーのガラスも製造可能だ。
それなのに、なぜ各国でガラスが地中に埋められてしまうのだろうか?
ガラスは、その特性を失わずに、無限にリサイクルできる。
それなのに、欧州諸国を除く大部分の国々が、いまだにガラスの大半をトン単位で埋め立て処分しているのはなぜか?
米国環境保護庁(EPA)によると、米国だけで2018年に約700万tのガラスが埋め立て処分場に運び込まれ、
それが一般固形廃棄物全体の5.2%を占めている。
プラスチックの使用量を削減しようという動きが、特に液体を入れる容器のための新素材探しを加速させている。
しかし、ガラスという既存の素材が、ネットゼロカーボン経済の主役になり得る。
ガラスの製造により、世界中で少なくとも年間8600万tの二酸化炭素(CO2)が発生。
そのほとんどは、ガラスをリサイクルすることで解消できる。
既存の技術を使って、ガラス製造工程を超低炭素にできる可能性もある。
今必要なのは、各国がガラスの埋め立て処分をやめ、ガラスのリサイクルを義務化することだ。
ガラスは、石灰石と砂とソーダ灰を混ぜて1500℃に加熱して作られる。
加熱工程は、天然ガスを熱源とし、ガラス製造時のCO2排出量の75〜85%を占めている。
残りの排出量は、原材料の化学反応によって生じる副産物による。
これらの原材料の一部は、粉砕された再生ガラス(カレット)で代替ができる。
カレットを溶かしても、CO2は排出されない。
ガラスを溶かすための炉は、原材料を溶かす場合ほど激しく燃やす必要がないため、さらにCO2排出量を削減できる。
ブリュッセルに本部を置く業界団体、欧州ガラスびん連合(The European Container Glass Federation;FEVE)によると、
炉に入れるカレットを10%増やすと、原材料だけでガラスを作る場合と比べてCO2排出量が5%減少する。
他のリサイクル方法と同様、いくつかの注意点がある。
窓ガラスに使われる板ガラスは、他の多くの用途に使われるガラスと異なり、不純物を含むことが許されない。
ジャムの瓶を溶かして窓ガラスを作ることはできない。
板ガラスのカレットは、さらに板ガラスを作るために使用できる。
いくつかの問題については、さらなる研究が必要になる。
政府が適切な資源を配分するためには、ガラスの回収とリサイクルのシステムを強化した場合の金銭的コストを知っておく必要がある。
ガラスはプラスチックよりも重いため、ガラスを代替品として使用すると、
輸送コストや排出量が増える可能性が非常に高く、その点も理解する必要がある。
ガラスのリサイクルに関して、欧州は世界で最も進んだ地域で、他の地域に水をあけており、さらなる高みを目指している。
研究者は、欧州のリサイクル制度がどのようにして生まれたのか、
その長所と短所、他の国にとっての教訓があるかどうかを調べることができる。
EU加盟国(27カ国)と英国では、ボトルなどの容器に用いられるガラスの4分の3がリサイクルのために回収。
その結果、EU内で製造される新しいガラスには、既に約52%のリサイクル材料が含まれている。
ガラス容器業界は、2030年までにEUで廃棄される容器ガラスの90%を回収するという目標を掲げている。
それ以外の国々は、必要とされるレベルに達していない。
ほとんどの国々が自国の活動を報告していないこともあって、
ガラスのリサイクルに関するデータを見つけるのは困難だ。
ガラスのリサイクルに関するデータを収集している国際機関もないようだ。
これは変える必要がある。
回収率とリサイクル率を上昇させるための各国の取り組みは進んでいる。
米国では、ガラス容器のリサイクル率は平均31%にすぎないが、
米国バージニア州アーリントンに本部を置く業界団体であるGlass Packaging Instituteは、
2030年までに50%に引き上げることを目指している(ガラスくず全体の56%を回収しなければならない)。
ヨハネスブルク(南アフリカ共和国)に本部があるGlass Recycling Companyが実施しているプロジェクトでは、
リターナブルびん(回収後に洗浄して繰り返し使用するびん)の利用促進などによって、
南アフリカ共和国全体のリサイクル率を、2005~06年の18%から2018~19年には42%まで高めた。
その他の国々(例えば、ブラジル、中国、インド)では、当局が沈黙しており、計画や意欲すらも明らかにしていない。
廃棄物を削減する法律とガラスの埋め立て処分を最終的に禁止する法律を備えた国を増やす必要がある。
そうすれば、ガラスをリサイクルする意欲が自然に高まる。
欧州では、廃棄される建築・建設資材の70%をリサイクルすることが既に義務付けられている。
残りの30%は、道路材料やその他の基本的な建築工程で骨材として使用されているが、これは貴重な資源の莫大な浪費だ。
製造時に混合した化学物質を溶かすプロセスを脱炭素化することでも、CO2排出量を削減できる。
FEVEが推進するFurnace for the Future(「未来の炉」の意味)という実証プロジェクトでは、
エネルギー源を天然ガスから電気に置き換えたハイブリッド電気炉を用いて再生ガラスのカレットを加熱し、ガラスを製造している。
この電力源を完全に脱炭素化することができれば、ガラスの製造工程全体で実質的にカーボンフリーが実現する。
ガラスは必要不可欠な素材だ。
ガラスの製造工程のカーボンフリー化は、比較的短期間で実現可能である。
ガラスを適切に回収してリサイクルするための法律と、埋め立て処理されないようにするための法律が必要だ。
地域社会や企業によるガラスの回収とリサイクルのためのインフラ作りを支援する必要もある。
解決策はもう出揃っており、比較的単純な解決策だ。
その実行が必要なのだ。
実行されれば、ガラスのグラスで祝杯を挙げることができるだろう。
2022年1月26日水曜日
アスリートたちからの支持を取り戻す アシックス、トップが語る「頂上奪還」への決意
東洋経済 2022.01.25
社長直轄プロジェクトで誕生した「メタスピード」により、再び世界の大きな大会で表彰台を目指すアシックス。
トップが語る頂上奪還作戦に込めた想い。
世界最大のスポーツ用品メーカー、ナイキが2017年に発売した高反発厚底シューズは、
「より速く走れるシューズ」として、マラソンを始めとする世界の長距離陸上界に大旋風を巻き起こした。
このナイキの新たなシューズを着用した選手が、主要な大会の表彰台を独占。
国内の実業団や大学生選手にも瞬く間に人気が広がり、
ついにかつての王者アシックスのシューズが正月の箱根駅伝から姿を消した。
トップランナーを始めとするアスリートたちからの支持を取り戻すべく、
同社は社長直轄のプロジェクトを立ち上げ、本格的なナイキ対抗モデルの開発に着手。
2021年春、“アシックス史上最速”の長距離レース用シューズ「メタスピード」を発売し、
反撃に向けて大きく動き出した。
アシックスは、再びランニングシューズの頂上を制することができるのか?
頂上奪還への決意とその手応えを、廣田康人社長に聞いた。
●敗北から学んだ教訓
――2022年の元旦、全国紙に「負けっぱなしで終われるか」というアシックスの反撃宣言ともいえる全面広告が掲載。
あれは廣田社長の指示か?
いいえ、考えたのは社員たち。
あのメッセージに込めた想いは、痛いほどよくわかる。
元旦にあんな刺激的な広告を出して、正月の駅伝で履いてくれる選手がまたいなかったら、
やけっぱちの広告だと世間から笑われる(笑)。
「本当に大丈夫か」と念を押したら、
「大丈夫です、ぜひこれで行かせてください」と言うので、よし、じゃあわかったと。
――頂上に当たるトップアスリートの世界でナイキに敗れ、そこから学んだことは何か?
大いに反省しないといけない。
当社は技術で勝ってきた会社。
それがナイキに、カーボンプレートを入れた厚底シューズでイノベーションを起こされ、やられた。
長距離選手のレース用シューズは、軽くするために薄いミッドソールが長年の常識だった。
アシックスはそこを極めて勝ってきた会社だけに、
固定観念に囚われて、自分たちで常識を打ち破ることができなかった。
そこが大きな敗因だ。
最新のテクロジーを積極的に活用して、イノベーションを起こそうとする挑戦心をつねに持ち続けなければ、
今の時代の激しい競争を勝ち残れない。
私自身、今回の一件でそのことを痛感させられたし、社員たちも大いに学んだと思う。
――元旦の実業団のニューイヤー駅伝では39人、箱根駅伝では24人の選手がアシックスのメタスピードを履いて走った。
どのくらいの数の選手が履いてくれそうか事前に聞いてはいたが、
実際に履いて走っている姿を見て安心した。
1年前の屈辱的な状況からは大きな前進。
復権に向けた手ごたえは感じている。
客観的に見たら、まだまだ圧倒的にナイキ。
アシックスが巻き返したとは言っても多少であって、この程度で喜んでいる場合じゃない。
夏までには、より進化させたメタスピード2を発売する。
さらに勢いをつけて、2023年の正月の駅伝はもっと大きくシェアを取り戻したい。
――ナイキの厚底シューズが登場したのが2017年で、三菱商事の役員だった廣田さんがアシックスの社長に就任したのが翌2018年の3月。
危機感を抱き始めたのはいつぐらいから?
就任1年目の2018年の途中から。
国内外のトップ選手がナイキの厚底シューズを履いて、すごいタイムを立て続けに出し始めていた。
国内の実業団や大学の選手たちも多くが履くようになって、
2019年の正月の2大駅伝はナイキに着用率で大きな差をつけられた。
その時は危機感を抱きながらも、私が細かく口を挟むことは控え、社員たちの頑張りを見守ろうと。
開発の現場は、どうしても今までのシューズの改良型でという発想から抜けきれない。
アシックスの存在感がますます薄れていってしまった。
●動き出した“頂上奪還”作戦
――それで痺れを切らし、2019年12月に10人の社員たちを会議室に集めて、
部門を横断する社長直轄プロジェクトの立ち上げを告げた。
その年の11月、出張先のアメリカのホテルで眠れずにいろんなことを考えていたら、だんだん悔しさが込み上げてきた。
創業者の鬼塚喜八郎は「頂上から攻めよ」と言っていたのに、
今のアシックスはその頂上のトップアスリートたちのところで完全に負けている。
やはりこれはあってはならんことだ。
こうなったら社長直轄でやるしかないと。
今振り返ると、社長直轄の部門横断プロジェクトにしてよかった。
意思決定が早い。
そうじゃなかったら、これだけのすごい靴を1年と少しで開発するのは無理だった。
今回のプロジェクトでは、トップアスリートたちと一緒になって理想のシューズを作るという点にこだわった。
その過程で、ストライド走法の選手用とピッチ走法の選手用の2つになった。
「選手が走り方を靴に合わせるのではなく、選手の走り方に合わせた靴を作るべき」という考えからで、
こうした点もアシックスらしいと思う。
――メタスピードを世界のトップ選手に履いてもらうには契約の壁も。
世界記録を持つエリウド・キプチョゲ選手を始め、マラソン世界ランキング上位のアフリカ人選手たちは
みなナイキ、アディダスがスポンサー契約を結んで囲い込んでいる。
世界ランキング上位の選手との契約にはお金がかかるし、資金力のあるナイキなどにすでに押さえられている。
未来のメダリストの育成に力を入れ始め、2020年にケニアで「頂上キャンプ(ASICS CHOJO CAMP)」を立ち上げた。
アフリカ全土から将来有望な若いランナーを集め、優秀な指導者の下で練習してもらう合宿所。
アフリカ、特にケニアやエチオピアには、ものすごい可能性を秘めた若い選手たちがたくさんいる。
そういう選手たちが50人ほど集まり、頂上キャンプで日々練習に励んでいる。
その中から、大きなレースでメタスピードを履いて表彰台にのぼる選手も出始めており、
今後の世界での活躍を大いに期待している。
アメリカでも、同様のキャンプを今年立ち上げる予定だ。
●海外市場では販売好調
――直近の四半期決算を見ると、足元の業績自体は非常に好調。
いくつかの要因がある。
まず、アメリカでのカジュアル路線の失敗を経て、
コアはあくまでランニングシューズであって、ここを徹底的に強くして、
「日米欧の市場でトップをとる」という方向性と目標を社内で明確にした。
本社と海外販社が同じ方向を向き、一丸となって販売強化に取り組んできた成果が出始めている。
商品力もこの1、2年で確実に上がった。
「ゲルカヤノ」を始めとする一般市民ランナー向けの代表的なシューズがモデルチェンジでより強力になったし、
バウンス(弾む)系の「ノヴァブラスト」など、若い世代を意識した新たな商品が出てきてラインナップも充実した。
総合的な競争力が上がってきたところ、コロナ下での健康対策として屋外でランニングをする人が世界的に増え、
その追い風にうまく乗ることができている。
2021年の第3四半期(1~9月)決算では、
欧米など海外でのランニングシューズの販売が、コロナ前の2019年と比べても大きく伸びた。
――国内では、ランニングシューズ市場の多くを占める一般市民ランナー用でもナイキ人気が高まり、
アシックスは販売で苦戦を強いられている。
国内と海外では状況がずいぶん違う。
アスリート用に関して言えば、海外でもやはり今はナイキが非常に強い。
そうした頂上からのシャワー効果がどこまで一般市民ランナーに及んでいるかというと、
日本と海外では大きな違いがある。
ランニング人口が世界最大のアメリカを例に取ると、
全米各地のランニング専門店で一番売れているブランドは、昔も今もブルックス。
今は2位の座を、当社とホカオネオネが競っている。
アメリカに次いで大きなヨーロッパ市場では、アシックスが近年ずっと販売首位で、
シェアが35%ぐらいにまで上がってきた。
ヨーロッパでも上位を争う主要なライバルは、ブルックスなどランニングを専門とするメーカーが中心。
一方、国内は一般のランニング愛好家の間でも、ナイキのシェアが非常に高くなった。
国民性の違いもあるだろうが、何と言っても注目度の高い箱根駅伝の影響が大きいと思う。
ナイキの厚底が出てきてから、箱根駅伝でのシューズの戦いにも関心が集まって、
そこでのナイキ旋風がメディアで大々的に取り上げられた。
販売への影響は大きかったと思う。
●頂上にこだわる理由はプライド
――頂上のトップアスリートの世界で再び勝てば、大学生ランナーたちも箱根駅伝で履くようになって、
ひいては一般市民ランナー向けの販売シェアも取り戻せると?
そう期待している。
商業的な部分も当然あるが、頂上にこだわる一番の理由は、アシックスとしてのプライド。
この会社は、トップ選手を始めとするアスリートたちとともに歩んできた歴史があり、それが大きな誇り。
何としても頂上を再び取り戻し、アシックスのシューズを履いた選手に表彰台に立ってほしい。
頂上をとってこそのアシックスだ。
――正月の駅伝ではアディダスも巻き返すなど、ライバル他社も「打倒ナイキ」に向けて動いている。
どの会社も、最新のテクノロジーを駆使したレース用のシューズを開発して、
ナイキの牙城を崩そうと必死になっている。
まさに戦国時代。
ちょっとシェアを取り返したぐらいで安心していたら、
頂上を奪い返すどころか、あっという間に競争から脱落する。
挑戦者として動きを止めず、頂上での勝利を目指して、前へ前へと進んでいく。
すでに社内では「メタスピード2」の開発を終え、その次の「3」に向けて動き始めている。
頂上を巡る戦いは熾烈だが、アシックスはランニングシューズをコアとするメーカー。
そのプライドにかけても、ここで負けるわけにはいかない。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29544
「セカンドライフ」の二の舞は避けられるのか メタバース沸騰が「過去のブーム」とまるで違う点
東洋経済 2022.01.13
あっという間に衰退したセカンドライフの時代と現在とでは、何が違うのか?
技術や価値観など、さまざまな面から考察した。
にわかに沸騰するメタバース市場。
VRデバイスやスマートフォンを通じ、人々が気軽に交流できるようになった仮想世界で今、
世界中の種々雑多な企業が新規事業立ち上げや巨額投資に勤しんでいる。
メタバースブームは、今回が初めてではない。
過去のブームの象徴的な存在が、アメリカのリンデンラボが、2003年から運営する「セカンドライフ」だ。
日本でもサントリー、ソフトバンクモバイル(当時)、電通、三越などの大手企業が続々参画。
セカンドライフ内に仮想店舗を出したりマーケティング活動を行ったりと、2000年代初頭から一大ブームとなった。
リンデンラボは自社サービスを指すものとして、当時から「メタバース」という言葉も用いている。
空間内ではリンデンドル(空間内の通貨)での取引や、リンデンスクリプト(空間内で創造物を作るための簡易プログラミング言語)を
使ったクリエーターの呼び込み・空間の拡張も行っていた。
2007年をピークに、アクティブユーザー数は減少に。
セカンドライフ自体は現在も稼働しているものの、企業は相次いで撤退。
あっという間に”オワコン”と化した。
今回のメタバースブームも、一時的なものにすぎないのでは?
セカンドライフの時代と現在とでは何が違うのか?
当時から大きく事情が変化した3つの点。
●デバイスの発展で「大衆化」
1つ目は、デバイスやネットワークの劇的な進化。
当時は初代iPhone(2007年発売)の普及前で、メタバースに参加できたのは一部の消費者のみ。
その状況が、スマホやアプリの普及で一変。
若年層も含め、誰もが簡単にメタバースにアクセスできるようになった。
2020年10月、メタ(フェイスブック)が発売したヘッドセット型のVRデバイス「オキュラス・クエスト2」も、
市場拡大の下地をつくるのに一役買っている。
販売実数は公表していないが、「売れ行きも非常に好調」(フェイスブックジャパンの味澤将宏代表)。
先代機に比べ処理速度・操作性を改良し、価格は下げた(先代機は4万9800円~、新型機は3万3800円~)。
「メタバースは、没入感のある仮想世界を実際に体験しないと(面白さや利便性が)わからない。
オキュラス・クエスト2はそのミッションの達成に向け、非常にいいスタートを切れている」(味澤氏)。
2つ目の変化は、スマホの普及にも後押しされる形で醸成されたデジタル文化。
SNSが一般化し、リアルと同一でないバーチャルのアイデンティティを持つことが当たり前化した。
「女子高生にインタビューすると、学歴よりもインスタグラムのフォロワーがほしいという声をよく聞く。
彼女たちにとって、デジタル世界のアイデンティティがリアル世界より勝る。
この価値観は、アバターを介して仮想空間で他人と交流するメタバースと非常に相性がいい」。
ブロックチェーン技術を用いたコミュニティサービスなどを展開するベンチャー・ガウディの石川裕也CEO。
「技術やサービスがより洗練されていくことで、リアルが主でバーチャルが従だった価値観が薄れ、
バーチャル上の個性や生活が主という時代が来るかもしれない」。
VRゲームを皮切りにメタバース事業の拡大を志向するベンチャー・サードバースのCEOでgumi創業者の國光宏尚氏。
このような価値観の変化も、メタバースの発展に影響しそうだ。
●個人が「稼げる」新しい仕組み
3点目で最も大きい変化が、ユーザーや企業が「稼げる」機会の拡大だ。
セカンドライフの時代、インターネット上で決済すること自体がまだ定着していなかった。
EC(ネット通販)やサブスクリプションサービスの普及で、スマホやPCでデジタルにお金を払うことは日常化した。
メタバースを取り巻く経済圏をさらに強力にするのが、
NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)だ。
これまでは”コピー上等”だったネットの世界に「本物・偽物」「所有」「資産化」といった、
フィジカルなものの価値を保証するのと同じ概念が根付き始めている。
【キーワード解説】
NFT:Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。
「電子証明書」のようなもので、改ざんが難しいブロックチェーン技術を用い、
アートやゲームアイテムなどのデジタルデータに作者の情報などを記載。
その作品が唯一無二のものを証明。
第三者へ転売も可能で、売買金額の一定割合を原作者に還元するプログラムを書き込むこともできる。
実際、世界中の企業がメタバース上でのNFTビジネスに動き始めている。
アメリカのナイキは、ブロックチェーン技術を用いるバーチャルスニーカー販売の企業を2021年12月買収。
アメリカでメキシコ料理チェーンを展開するチポトレは、メタバースプラットフォーム「ロブロックス」内に出店。
リアル店舗でブリトーと引き換えられる限定コードを配布するなど、
リアル・バーチャル横断の取り組みを行っている。
デジタル上の資産を、個人でスムーズに売買できるシステムも整い始めた。
世界最大のNFTマーケットプレイス「オープンシー」では、
ブロックチェーンゲームのアイテムやデジタルアートが、イーサリアムなどの暗号資産を用いて取引されている。
ブロックチェーンを使ったゲームなら、ゲーム内で創造した成果物などに金銭的価値をつけられる。
「数年内には、メタバース内で家などを建ててNFTとして販売し、親より稼ぐようになる子どもが続出するだろう。
メタバースを通じて、学歴や資格などで決まってきたリアル世界のヒエラルキーから解放されるかもしれない」(サードバースの國光氏)。
リアル世界と遜色ない稼ぎ口が発展すれば、そこで活躍したいと考える個人や企業がよりメタバースに集まりやすくなる。
●参入各社の「同床異夢」
セカンドライフ時代との技術や価値観の違いは、確かにありそうだ。
メタバースがマスに定着するかを占ううえでは、拭えない懸念も。
1つは、デバイスやVR制作の技術が、かつてより進化したとはいえ未熟だという点。
それらを使う側の企業も、技術の特性や現時点での限界を深く理解しないまま踏み込んでいるケースが少なくない。
法人向けにメタバース関連のコンサルティングや制作支援を行うSynamon(シナモン)の武井勇樹COO(最高執行責任者)は、
「顧客企業のアイデアの中には、そのまま実装するとユーザーがVR内で酔ってしまうようなものもある。
そういう場合には、軌道修正を提案。
細かな調整を怠ると、せっかく時間とお金をかけて行ったイベントなのにユーザー離れを起こしたり、
VRそのものに”がっかり感”を持たれてしまう危険も」。
もう1つの懸念は、業界内が決して”一枚岩”ではないという点。
2021年12月、技術・サービスの普及などを目指す業界団体・日本メタバース協会が設立されたが、
暗号資産系企業4社が音頭を取る組織構成に対し、
業界内外から「当事者不在では」と疑問の声が。
「メタバース=NFTではない。
声の大きい人が『これがメタバースの定義だ』と言うと、(一般の理解が)その通りになってしまう。
それは業界の健全な発展にとっていいことか?」(メタバース関連企業幹部)。
参入企業が急増しているだけに、メタバースで成し遂げたいビジネスがバラバラになるのはある程度仕方がない。
互いの差異に折り合いをつけつつ協力関係を築けるかが、今後の業界発展のカギに。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29433?utm_campaign=EDtkprem_2201&utm_content=502526&utm_medium=article&utm_source=edTKO#contd
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