2022年4月19日火曜日

mRNA「がん治療にも応用可能」カリコ氏ら来日し会見日本国際賞受賞、研究の苦労やワクチン実用化の喜び語る

2022年4月16日 (土) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用で実用化したmRNAワクチンを開発した 独・ビオンテック社のカタリン・カリコ上級副社長と米ペンシルベニア大学のドリュー・ワイスマン教授が 4月15日、日本国際賞の授賞式で記者会見。 カリコ氏らは、論文発表当初は研究の重要性が気づかれなかったことなどを振り返り、忍耐強く研究を続けたほか、 がんなどの治療薬にも応用可能であるなど、mRNAの臨床応用の可能性に期待を込めた。 日本国際賞は、科学技術分野で優れた功績を収めた研究者に贈られる。 1月に受賞が決定した。 カリコ氏は「我々の研究がワクチンの成功につながったが、一緒に研究を行った同僚の努力を忘れてはならない」と 研究仲間に敬意を表した上で、「自分たちが成し遂げたことで誰かが救われるのは本当にうれしい」と喜びを表わした。 mRNAワクチンがタンパク質ワクチン、不活化ワクチン等と比べて優れている点を聞かれると、 ワイスマン氏は「それぞれに長所、短所がある」とした上で、mRNAは迅速に開発できる点が重要と述べた。 ビオンテック社、モデルナ社が6週間でワクチンを完成させ、10カ月後には米国で緊急承認を受けたと、スピード感を強調した。 カリコ氏は、mRNAの生成は廉価であることも付け加え、さまざまなウイルスのワクチンに応用可能な点が重要とした。 「コロナウイルスからマラリアに切り替えるのであれば、必要なDNAが変わり、そこからmRNAを生成する。 技術の観点では非常に迅速に切り替えることができる」 mRNAの臨床での実用化は、ワクチンが初めて。 期待がかかる治療薬での活用について聞かれると、カリコ氏は心不全やがんなど、さまざまな治療に応用できると答えた。 既にワクチンに先行して心不全の治療薬として臨床試験を行っており、心臓バイパス手術を受けた患者に投薬している。 カリコ氏が上級副社長を務めるビオンテック社では、転移性がんを標的とした治療薬開発に向けた臨床試験を行っている。 ワイスマン氏は、現在の免疫チェックポイント阻害薬が高額であることを指摘した上で、 mRNAを活用して体内でT細胞を生成できるため「mRNAは免疫療法をかなり改善することができる」と自信を見せた。 カリコ氏らは、2005年にワクチン開発にもつながるmRNAについての論文を発表。 当時は反響がなかったという。 カリコ氏は「論文が出たら電話が鳴りっぱなしになると(ワイスマン氏と)話していたが、実際はほとんど鳴らなかった」と 冗談交じりに当時を振り返った。 「その時に分かったのは、まだまだやらなければならないことがあるということ。諦めず忍耐強く続けた」。 ワイスマン氏も「mRNAに非常に大きな可能性があるのは分かっていた」と、 研究の重要性を信じ、mRNAの生成を続けたことで成果が認められるようになったとした。 研究成果が評価されず、助成金の申請を断られたり、大学での役職を失ったりするなど、研究環境や研究費の面で苦労した。 カリコ氏は「なぜ自分なのかと思う代わりに、そのエネルギーを次は何をするべきか、に切り替えた」。 「自分を見失わず、他人のせいにせず、文句を言わずにやってきた」と忍耐が重要との考えを示した。 各国政府から基礎研究への支援について聞かれると、 ワイスマン氏は「政府からより早く助成金を受け取れたら、研究が早く進んでいたかと言われたら、そうかもしれない」としつつも、 全ての研究者が資金が必要であること、どの程度の予算を基礎研究に振り分けるかを決めるのは政府であるため、 「非常に難しい問題だ」とした。 ハンガリー生まれのカリコ氏は、大学卒業後に研究のため渡米。 ハンガリーで研究者になりたいと願っていたというが、研究費用や環境を確保できなかった。 ヨーロッパで研究を継続する模索をした際には、費用は持参するよう求められたことを振り返り、カリコ氏はため息をついた。 1985年に渡米した際は、冷戦真っ最中で外貨を持ち出すことができなかったため、約900ポンドを娘の持つテディベアに忍ばせて国を出た。 「とても怖かった」と振り返りながらも、 「アメリカで素晴らしい講義を聴き、学ぶことができた」と意義があったと語った。 「現在は世界中の講義をYouTubeで見ることができるし、最新の科学のニュースをインターネットで調べられる」として 世界の科学者にとって環境は改善しているとの考えを示した。 研究者を目指す若者についてカリコ氏は「自分がずっと情熱を持ってできる仕事を選んでほしい。 そうすればきっと楽しめ、充実した人生になる」と激励のメッセージを述べた。 「女性にとって難しいこともあると思う」と認め、サポートしてくれるパートナーがいることは重要とした。 子育てか研究か、二者択一にする必要はなく、周囲がどう考えるかは気にしないと、自身の考えを示した。 https://www.m3.com/news/iryoishin/1035774