2022年4月19日火曜日

順天堂学長「メタバース・ホスピタルは無尽蔵の可能性を秘めている」

2022年4月15日(金) 順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社は2022年4月13日、 メタバースを用いた医療サービス構築に向けての共同研究を開始すると発表。 「メディカル・メタバース共同研究講座」を設置し、産学連携の取り組みを開始する。 順天堂医院の実物をオンライン空間で模した「順天堂バーチャルホスピタル」を構築。 患者や家族が来院前に、バーチャルで病院内を体験できる環境を作る。 説明が複雑な治療の疑似体験やリハビリ、生活習慣病の生活指導、パーキンソン病の歩行トレーニング、 オンライン診療への応用、病院内外のコミュニティなど、時間と距離を超えた新たな医療サービスの研究・開発に取り組む。 会見で、順天堂大学学長の新井一氏は「医療、医学は大きな社会の課題だが、様々な取り組みをして質を上げていきたい」。 日本アイ・ビー・エム株式会社代表取締役社長の山口明夫氏は 「順天堂大学とは過去3年間にわたって、パーキンソン病や認知症へのAI活用法について研究を行ってきた。 電子カルテを含む医療情報システムの構築も進めている。 今回の取り組みは共同活動を一歩先へ進めていくもので、患者の生活向上や働き方改革に貢献するだろう」。 「仮想空間に、物理世界と同じものを再現できるようになっている。 我々の入社式もメタバースで行うことで、祖父母も参加することができた。 テクノロジーには冷たい印象を持たれる可能性があるが、今まではできなかった体験や気付きが生まれる。 新しい医療のあり方、そして人に優しい社会の構築に役に立てられると考えている」 「メディカル・メタバース共同研究講座」の講座代表者である順天堂大学医学部長・医学研究科長の服部信孝氏は 「病院は、検査に行くまで複雑な通路を通る必要がある。 病院内部の案内に使えるのではないか。 脳深部刺激療法のような複雑な治療法のインフォームドコンセントは、口頭で伝えてもなかなか分かりにくい。 そういった場合、患者さん自身のアバターを使えば、ストーリー性をもって副作用や治療過程を示すことができる」 サービス開発の領域としては、まずは精神疾患を対象とする。 パーキンソン病患者には「すくみ足」が起きるが、仮想空間のなかで元気に自分のアバターが歩いている姿を見てもらうことで、 患者本人の脳に「こうすれば歩けるんだ」ということを覚えてもらうことが歩行改善につながるのではないか。 仮想空間がメンタルに及ぼす影響を調べることで、 うつ病などもある程度改善できるかもしれないと考えていると述べ、 「将来性があり、かつ現実の臨床応用に繋がるのではないか」と期待を示した。 研究の詳細は、日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員の金子達哉氏が紹介。 なぜヘルスケアの共同研究なのか、という背景から紹介。 「人生100年時代」と言われ、健康寿命の延伸が叫ばれるなか、一人一人が健康・治療・介護といった ライフイベントを自らデザインする時代が到来している。 順天堂大学の医療情報システムおよび情報基盤の構築を担当するIBMは、 服部氏と「新たなイノベーションの源泉」としてメタバースについて議論を行った。 メタバースは、これまでに推進してきたオンライン診療との親和性も高い。 今後パーソナルヘルスレコード(PHR)の普及が見込まれるなか、 PHRを通じて仮想とリアルを行き来する医療世界の実現が見込めると考えて、 ライフイベントを自らデザインする場を共同で作り出せるのではないかとこの取り組みを開始した。 目指す姿は⼤きく分けて3つ。 1)患者の満足度の向上と医療従事者の働き方改革 2)医療の質の向上と新たな治療法の確立 3)新たな市場の創出 コンセプトは、患者と患者の家族に喜んでもらえる新しい価値を提供することを第1優先とする。 様々なプレイヤーに参画してもらうことで、新たヘルスケア医療のエコシステムを形成していく。 患者の満足度の向上および医療従事者の働き方改革については、 メバタース空間に「順天堂バーチャルホスピタル」を構築し、 患者や患者家族が来院前に病院をバーチャルで体験したり、医療関係者と交流できたりするようにする。 バーチャル集会所も作り、外出が困難な患者が病院内外の人と仮想空間でアバターを用いて訪問したり、 患者同士がコミュニケーションを取れたりできる世界とする。 説明が複雑な治療を疑似体験することで不安や心配を取り除き、病院の予約や問診などをバーチャルホスピタル上で代替することで、 医療事務の人たちの負担を軽減して働き方改革に貢献することも目指す。 2つ目の柱、医療の質の向上、新たな治療法の確立については、中長期的に取り組む。 メンタルヘルスを対象として、バーチャル上の活動や体験で疾患の改善が図れるかを学術的に検証し、新たな治療法に繋げる。 3つ目、新たな市場の創出については、 IBM一社で全てできるものではないと考え各社からなるエコシステム構築を目指す。 製薬企業の目線で見ると、デジタル上で未来の自分と現実世界の今の自分とが「薬を飲んでいたから、いま健康でいられる」 といった会話をすることで、服薬アドヒアランスを向上させることができるのではないか。 薬効の説明をメタバースで行うことで、より効率的に治験のマッチングなどができる可能性もある。 保険会社にとっても、デジタルツインに基づくリスクモデルの構築や、 生の声を収集することによる新製品の開発なども可能ではないか。 リアルな病院ではおしゃれはしづらいが、バーチャル空間ではそのような制限はない。 アパレル企業に参画してもらうことで、そういったニーズも満たしていきたい。 順天堂バーチャルホスピタルをキーとして、最終的に、ヘルスケア医療のエコシステムを形成していくことを目指す。 スケジュールはこれから詳細化していくが、3年間で成果を出すことを目標とする。 年内には、患者・家族が利用できるようにする。 短期的に成果を出しやすい「コミュニケーション広場」などは早めに提供して、多くの人が利用しやすいようにする。 コミュニティ広場の場合、没入感が重要なのでゴーグル型のディスプレイの貸し出しなどを検討し、 病院案内はPCやスマホで提供する予定。 3年間での利用者数については、金子氏は「累計1万人を一つの目標としたい」。 金子氏は「患者にとって、デジタルやテクノロジーは冷たいイメージを持たれやすい。 COVID-19のような面会が難しい状況下でも、バーチャル上であれば交流ができる。 デジタルテクノロジーを用いて、人の温かみを届けられる世界を一緒に作り上げていきたい」 順天堂大学の新井学長は、「メタバースは無尽蔵の可能性を秘めている。 メタバース・ホスピタルを用いることで、本当の意味での患者中心医療ができるのではないか。 仮想空間と実空間をうまく融合できる方向に持っていければ、個々の疾患治療だけではなく、 良い医療を甘受してもらえるようになると思う。色々な可能性がある。 共同研究講座でそれぞれの理想を集約していきたい」 https://medicalai.m3.com/news/220415-report-metaverse