2022年1月26日水曜日
「セカンドライフ」の二の舞は避けられるのか メタバース沸騰が「過去のブーム」とまるで違う点
東洋経済 2022.01.13
あっという間に衰退したセカンドライフの時代と現在とでは、何が違うのか?
技術や価値観など、さまざまな面から考察した。
にわかに沸騰するメタバース市場。
VRデバイスやスマートフォンを通じ、人々が気軽に交流できるようになった仮想世界で今、
世界中の種々雑多な企業が新規事業立ち上げや巨額投資に勤しんでいる。
メタバースブームは、今回が初めてではない。
過去のブームの象徴的な存在が、アメリカのリンデンラボが、2003年から運営する「セカンドライフ」だ。
日本でもサントリー、ソフトバンクモバイル(当時)、電通、三越などの大手企業が続々参画。
セカンドライフ内に仮想店舗を出したりマーケティング活動を行ったりと、2000年代初頭から一大ブームとなった。
リンデンラボは自社サービスを指すものとして、当時から「メタバース」という言葉も用いている。
空間内ではリンデンドル(空間内の通貨)での取引や、リンデンスクリプト(空間内で創造物を作るための簡易プログラミング言語)を
使ったクリエーターの呼び込み・空間の拡張も行っていた。
2007年をピークに、アクティブユーザー数は減少に。
セカンドライフ自体は現在も稼働しているものの、企業は相次いで撤退。
あっという間に”オワコン”と化した。
今回のメタバースブームも、一時的なものにすぎないのでは?
セカンドライフの時代と現在とでは何が違うのか?
当時から大きく事情が変化した3つの点。
●デバイスの発展で「大衆化」
1つ目は、デバイスやネットワークの劇的な進化。
当時は初代iPhone(2007年発売)の普及前で、メタバースに参加できたのは一部の消費者のみ。
その状況が、スマホやアプリの普及で一変。
若年層も含め、誰もが簡単にメタバースにアクセスできるようになった。
2020年10月、メタ(フェイスブック)が発売したヘッドセット型のVRデバイス「オキュラス・クエスト2」も、
市場拡大の下地をつくるのに一役買っている。
販売実数は公表していないが、「売れ行きも非常に好調」(フェイスブックジャパンの味澤将宏代表)。
先代機に比べ処理速度・操作性を改良し、価格は下げた(先代機は4万9800円~、新型機は3万3800円~)。
「メタバースは、没入感のある仮想世界を実際に体験しないと(面白さや利便性が)わからない。
オキュラス・クエスト2はそのミッションの達成に向け、非常にいいスタートを切れている」(味澤氏)。
2つ目の変化は、スマホの普及にも後押しされる形で醸成されたデジタル文化。
SNSが一般化し、リアルと同一でないバーチャルのアイデンティティを持つことが当たり前化した。
「女子高生にインタビューすると、学歴よりもインスタグラムのフォロワーがほしいという声をよく聞く。
彼女たちにとって、デジタル世界のアイデンティティがリアル世界より勝る。
この価値観は、アバターを介して仮想空間で他人と交流するメタバースと非常に相性がいい」。
ブロックチェーン技術を用いたコミュニティサービスなどを展開するベンチャー・ガウディの石川裕也CEO。
「技術やサービスがより洗練されていくことで、リアルが主でバーチャルが従だった価値観が薄れ、
バーチャル上の個性や生活が主という時代が来るかもしれない」。
VRゲームを皮切りにメタバース事業の拡大を志向するベンチャー・サードバースのCEOでgumi創業者の國光宏尚氏。
このような価値観の変化も、メタバースの発展に影響しそうだ。
●個人が「稼げる」新しい仕組み
3点目で最も大きい変化が、ユーザーや企業が「稼げる」機会の拡大だ。
セカンドライフの時代、インターネット上で決済すること自体がまだ定着していなかった。
EC(ネット通販)やサブスクリプションサービスの普及で、スマホやPCでデジタルにお金を払うことは日常化した。
メタバースを取り巻く経済圏をさらに強力にするのが、
NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)だ。
これまでは”コピー上等”だったネットの世界に「本物・偽物」「所有」「資産化」といった、
フィジカルなものの価値を保証するのと同じ概念が根付き始めている。
【キーワード解説】
NFT:Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。
「電子証明書」のようなもので、改ざんが難しいブロックチェーン技術を用い、
アートやゲームアイテムなどのデジタルデータに作者の情報などを記載。
その作品が唯一無二のものを証明。
第三者へ転売も可能で、売買金額の一定割合を原作者に還元するプログラムを書き込むこともできる。
実際、世界中の企業がメタバース上でのNFTビジネスに動き始めている。
アメリカのナイキは、ブロックチェーン技術を用いるバーチャルスニーカー販売の企業を2021年12月買収。
アメリカでメキシコ料理チェーンを展開するチポトレは、メタバースプラットフォーム「ロブロックス」内に出店。
リアル店舗でブリトーと引き換えられる限定コードを配布するなど、
リアル・バーチャル横断の取り組みを行っている。
デジタル上の資産を、個人でスムーズに売買できるシステムも整い始めた。
世界最大のNFTマーケットプレイス「オープンシー」では、
ブロックチェーンゲームのアイテムやデジタルアートが、イーサリアムなどの暗号資産を用いて取引されている。
ブロックチェーンを使ったゲームなら、ゲーム内で創造した成果物などに金銭的価値をつけられる。
「数年内には、メタバース内で家などを建ててNFTとして販売し、親より稼ぐようになる子どもが続出するだろう。
メタバースを通じて、学歴や資格などで決まってきたリアル世界のヒエラルキーから解放されるかもしれない」(サードバースの國光氏)。
リアル世界と遜色ない稼ぎ口が発展すれば、そこで活躍したいと考える個人や企業がよりメタバースに集まりやすくなる。
●参入各社の「同床異夢」
セカンドライフ時代との技術や価値観の違いは、確かにありそうだ。
メタバースがマスに定着するかを占ううえでは、拭えない懸念も。
1つは、デバイスやVR制作の技術が、かつてより進化したとはいえ未熟だという点。
それらを使う側の企業も、技術の特性や現時点での限界を深く理解しないまま踏み込んでいるケースが少なくない。
法人向けにメタバース関連のコンサルティングや制作支援を行うSynamon(シナモン)の武井勇樹COO(最高執行責任者)は、
「顧客企業のアイデアの中には、そのまま実装するとユーザーがVR内で酔ってしまうようなものもある。
そういう場合には、軌道修正を提案。
細かな調整を怠ると、せっかく時間とお金をかけて行ったイベントなのにユーザー離れを起こしたり、
VRそのものに”がっかり感”を持たれてしまう危険も」。
もう1つの懸念は、業界内が決して”一枚岩”ではないという点。
2021年12月、技術・サービスの普及などを目指す業界団体・日本メタバース協会が設立されたが、
暗号資産系企業4社が音頭を取る組織構成に対し、
業界内外から「当事者不在では」と疑問の声が。
「メタバース=NFTではない。
声の大きい人が『これがメタバースの定義だ』と言うと、(一般の理解が)その通りになってしまう。
それは業界の健全な発展にとっていいことか?」(メタバース関連企業幹部)。
参入企業が急増しているだけに、メタバースで成し遂げたいビジネスがバラバラになるのはある程度仕方がない。
互いの差異に折り合いをつけつつ協力関係を築けるかが、今後の業界発展のカギに。
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