2019年11月2日 (土)配信聞き手・まとめ:水谷悠(m3.com編集部
――スポーツでの怪我ともうまくつきあうことが必要ですね。
全てをネガティブにしてしまったら、「何もやらないのが安全」ということに。
スポーツによるメリットとリスクを比べた時、
少しだけリスクを取ることになるが、それ以上のメリットを享受する。
そのリスクをどれだけ最小化するかというサポートが、
スポーツ医学に今、求められていること。
従来、整形外科医がスポーツ医学としてやってきたことより広い範囲が含まれる。
スポーツ外傷に加えて、心臓疾患・脳振盪・熱中症などが代表的。
初期対応が中心とはいえ、一般の整形外科医が対応できる範囲を
超えている部分も含まれ、横断的に取り組むことで
解決策を見出していく必要がある。
――スポーツの会場にいる医師は、基本的には整形外科医ではないでしょうか。
そこを埋めるのが、一つはPrehospital Immediate Care in Sportsの資格。
外傷に対する処置だけでなく、BLSやACLS、頭部や胸腹部などの
外傷への対処も全部入っている。
e-ラーニングで予習をし、2日間か3日間のコースでディスカッションと、
シミュレーションをひたすらやる。
レベル1がコーチや保護者など一般の方が対象、
レベル2は医療関係者向けのベーシックコース。
レベル3が医師を中心としたアドバンスコース。
コースの内容は、スポーツ現場にいる医師の質の向上と担保につながり、
医師一人のスキルでは解決しない問題があるのが、次のステップ。
医療支援体制の構築をもっとしっかりとし、
あらゆる状況を想定してリスクを最小化するシステム、
有事でのメディカルチームの動き方をどうマネージするか、
他部署とどのようにリンクしていくかが求められてくる。
今年度、現場は高森草平先生(横浜南共済病院)と
井上貴司先生(筑後市立病院)にお任せ。
高森先生は、ユースカテゴリーでもDrをされ、NZでの経験もある若くて優秀、
井上先生も、多くのカテゴリーでチームDrをされた経験豊富。
日本協会で代表のメディカルディレクターの田島卓也先生とともにチームをサポート。
合宿地での医療サポートを提供する病院、受診に当たっての経路と
キーパーソンなどを事前に連絡を取って調整する必要。
一義的には、病院の指定のみで終わりそうだが、
運用には顔の見える人の連携、現場での落とし込みが必要で、
書類のみでなく運用部分まで細部にわたって調整。
一部、病院内の調整をお願いすることにもなるが、
地域におけるスポーツイベントの意義をご理解しご協力いただいた。
本当に感謝しています。
トレーニングや試合で発生した外傷に対しての緊急のMRI撮影や
高気圧酸素治療などの依頼が多い。
夕方の練習や試合で怪我をしてとなると、
どう考えても時間外ですから無茶なお願いになる。
代表チームのドクターがその場だけでやっていると、
それ以外の仕事がままならなくなるので、
前もっての準備と調整をやる人がいた方が現場が動きやすいし、
その経験がある人がその役を担う方がいい。
――組織的、体系的にやっていくことの重要性もありますね。
すごく感じるのは、時代によってスポーツ医学に求められるものが変わってきて、
スポーツドクターの定義も非常に幅広くなっている。
手術で選手の怪我をしっかり治して、スポーツに戻してあげるというドクター、
それが王道だった。
チームドクターとして現場で活動したり、
スポーツイベントのサポートをするのもスポーツドクター。
ドクターの中に、怪我のリスクを減らす方法を考え、
外傷予防のアプローチを取るドクターも。
今回の私たちがやっているのは、予防とともに、
外傷が起きたときでもその影響を最小化しようというアプローチ。
外傷予防は非常に重要で、スポーツ自体の安全性にもつながり、
ハイパフォーマンスにもつながる。
先人には、予防に取り組まれてきた先生方は多い。
それがメジャーになってきたっていうことと、
より組織として動かなきゃいけない。
大会運営の医療部門に関わり、
スポーツイベントにおける医療部門の役割が
競技救護・観客救護・災害対策・公衆衛生的な側面も含め多岐にわたり、
自治体・消防・三師会などとの連携が求められ、多くのことが明確に。
ここにも私にいつも助言をくれる仲間がいて、本当に感謝。
医師の仕事には専門性の高い職人的要素もあるで、
大きい組織のマネジメントをして動かすというのが得意ではない方がいる。
世の中ではそれが求められ、私の周りにはそういうことが得意、
やりたいという仲間がいます。縁ですね。
今回、ワールドカップやオリンピック・パラリンピックを契機に、
メディカルのサポート、マネジメントがすごく大切だ。
チームの支援という側面と、運営側からの視点と、
それぞれ多くの方々のご協力のもと医療支援体制を構築できて、
形をつくって、次の世代に引き継いでいくことが大切。
千葉大学医学部附属病院スポーツメディクスセンターが
整形外科教授の大鳥精司先生をセンター長として稼働。
医療として何をするかという中、私自身はもちろんラグビーに恩返しをしたい、
スポーツと医療という切り口から地域に恩返しをしていければいい。
大鳥教授をはじめ、事務局長を務めてくれている整形外科助教の赤木龍一郎先生、
多くの先輩や後輩、仲間に非常に恵まれている。
私は現場に近いところにいて、問題点を吸い上げて提案することはできるので、
解決に導いてくれる人たちと一緒に何かできればいい。
(千葉大学医学部附属病院スポーツメディクスセンターについては
『スポーツ現場の救護医療体制の構築を!』を参照)。
ボランティアで貢献する、というのでは長続きしない。
スポーツに関係する方々の中に、Win-Winの形を作ること。
最終的には、提供するサービスに具体的な価値がつかないと、
日本のスポーツ文化が回っていかない。
地域に密着したアプローチをとるなかで、
趣旨にご賛同しサポートを申し出る方がいるかも。
多くの可能性を考えながら、スポーツと医療という切り口から、
医療関係者が社会に貢献し続けられる方策を考え、
それを実現していければと。
https://www.m3.com/news/iryoishin/707329