2019年10月26日 (土)配信聞き手・まとめ:水谷悠(m3.com編集部
日本代表の躍進もあって盛り上がりを見せるラグビーのワールドカップ。
千葉労災病院整形外科副部長の守屋拓朗氏は、
今までの日本代表などのスポーツドクターの経験をもとに、
大会運営側として大会を支え、地域でのスポーツと医療の関係にも心を配る。
大会前に、ラグビーとの関わりや、ラグビーにとどまらずスポーツで
医師が担う役割について、伺った(2019年8月14日にインタビュー。全2回の連載)。
――日本代表のドクターには、どのような経緯で就任されたのでしょうか。
2012年、前のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチのとき、
今は順天堂大学スポーツ健康科学部で教授をされている
高澤祐治先生がチームドクターをやり、サポートで入ったのが最初。
合宿に行ったり、遠征に行ったり、試合のサポートに入ったり。
県立千葉高校の頃、医師になりたいという思いがあり、
ラグビー部で3年生のときに膝の靱帯を切って最後の大会に出場できなかった。
現千葉大学名誉教授の守屋秀繁先生が、当時は千葉大学整形外科教授で、
膝の前十字靱帯を専門。
私にとっては伯父で、「伯父さん、けがしちゃった」という感じで電話をしたら、
「すぐ診に行ってやる」と来てくれた。
結局手術になったが、こういう経験も将来役に立つのではないかと思い、
医学部に入るときには、スポーツ医学のことがやりたいというのはあった。
医師になると、千葉大学整形外科では
有名選手の診察や手術の実績をもとにしたいろいろなつながりや、
体育協会(現スポーツ協会)との良好な関係や
国際武道大学など他大学との関係もあり、
スポーツ医学の地盤がある。
格好の人材が来たということで、すぐにスポーツの現場へと導かれた。
千葉県ラグビー協会の医務委員となり、地道に高校や中学の試合に行き、
県協会の医務委員長に。
地元の県立千葉高校・千葉大学出身でもあり、
高校の先生方、周りの方がスポーツドクターとして認識し、
千葉県のラグビー関係の方が、「ラグビー協会のお医者さんと言えば守屋先生」
という感じになっていった。
2008年、トップリーグのNTTコミュニケーションズシャイニングアークス(NTTコム)が
東村山市から市川市に移転(後、浦安市に移転)、
船橋整形外科病院の土屋明弘先生がチームドクターで、
私にもお誘いがありチームをサポート。
千葉県ラグビー協会の医務委員長として、
県の代表で関東協会や日本協会の医務委員長の会議に出る。
関東協会は2年に1度、日本代表を目指すトップリーグの若手選手らで
ニュージーランド遠征をし、2010年、「若いし、行って経験を積んでこい」と。
ステップを踏んで、2012年、日本代表にドクターとしてかかわる。
――チームドクターとしてどのようなお仕事をされたのでしょうか。
チーム内外、活動期間内外の多くの役割がある。
チーム内では怪我に対する対処や方針決定、メディカルスタッフとの情報共有、
コーチ陣との情報共有、外傷の予防についてトレーナーやストレングスコーチなどと
議論をすることも。
チーム外では、選手に関して所属チームとの情報共有が中心、
合宿地での医療体制などの情報収集や現地スタッフとの連絡・調整も。
日本代表は、各チームから選手を集めてつくるチームなので、
日本代表として活動していない時期が多い。
その期間も選手の情報を集め、コーチに報告することが求められる。
選手のコンディション、外傷があれば、その内容と現時点での状態、
復帰時期の見通しなど、正確な情報は医師同士でないと伝わらない。
トップリーグのドクターなど、所属チームドクターの皆さまには
多くのご協力をいただいた。
アスレティックリハビリテーションから復帰に関するところでは、
トレーナーの情報が非常に役に立つ。
優秀なトレーナーの存在とメディカルチーム内での連携が大切。
チーム・ピッチ・合宿地などで多くの方々にご支援いただき、
ラグビーに関わる皆様との関係は私にとって宝。
選手が外傷を負った際、プレーの可否について判断することが我々の仕事。
痛みだけなのか、機能上問題がありプレー続行不可能なのか、
素早い判断が求められる。
外傷の診断後、休息・リハビリを含め1週間でトレーニングに戻れる、
というような見通しを明確に伝えることが重要。
100%あたるかというとわけではないが、明確な根拠を持って判断するしかない。
選手にも、診断と根拠をしっかり話をして伝える。
そこの判断でコーチと議論になったことも、
選手を納得させるのに時間がかかったことも。
1カ月の活動期間で、残り2週間の時点で怪我をして、
2週間先の試合に出られるかどうかという時、
出られないとしたらその選手はチームを離脱し、すぐに新たな選手が招集。
ラグビーでは戦術の理解がとても重要、
トレーニングせずにいきなり試合だけ出て活躍できるということはほぼない。
ティア1(ラグビーの強豪・伝統国)に勝つには、
本当にギリギリのところで練習し、
リスクをとらずに全て守るというだけでは強くなれない。
詳細を選手本人・コーチともに説明、
最終的にコーチの判断を尊重することも。
教科書通り進むことは、スポーツの現場ではあまり多くない。
チームドクターとしての活動は、年間100日以上合宿・遠征に参加、
活動期間外でも、選手の所属チームドクターとの連携や合宿地の
医療体制の準備など、多くの時間を費やしてきた。
勤務する千葉労災病院、千葉大学整形外科医局の同僚など身近な方々、
家族の理解のもとでできていたから、皆さまからのご支援にとても感謝。
https://www.m3.com/news/iryoishin/707328