Roshini Beenukumar, PhD
ガン細胞は、免疫システムを回避するために様々な工夫。
Nature誌の記事によれば、共著者であるバーゼル市、チュービンゲン市、
ハイデルベルク市の研究者チームが、
急性骨髄性白血病(AML)患者において、
化学療法耐性白血病幹細胞がどのように免疫システムを回避するのかの
メカニズムを明らかにした。
白血病幹細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞が感応するための
リガンド分子を抑制する事によって、NK細胞から逃げることが出来る。
この研究によって、回避のメカニズムを標的とし免疫応答性を
敏感にする薬剤が期待される事が明らかに。
この研究が成功すれば、AML治療の方法が全く新しいものに変わっていく。
◆ガン細胞はどうやって免疫システムを回避しているのでしょう?
ガン細胞は、免疫システムを回避するための複数の方法を駆使。
腫瘍細胞は、表面に抗原を提示するので、それが免疫細胞の標的に。
このプロセスは不都合な側面も持っており、
腫瘍細胞の遺伝子不安定性によって操作されるが、
腫瘍細胞の選択の際、
免疫細胞のサーベランスから逃れることも起こってくる。
主たる免疫回避のメカニズムは、
IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)メカニズム。
IDO発現は、多くの腫瘍で上方制御され、
それによってT細胞の免疫性を抑制する。
腫瘍の免疫回避に影響を受けやすいいくつかの免疫細胞は、
(1)調整樹状細胞(DCs)と調整T細胞(Tregs)は腫瘍抗原に対する耐性を起こし、
(2)骨髄由来抑制細胞(MDSCs)は炎症性因子を誘起し腫瘍の進行をサポート。
(3)マスト細胞は上皮腫瘍形成に関与しているとの仮説。
複数のコンビネーションで免疫システムを回避する機構によって、
腫瘍周りの微小領域で免疫抑制が成され、
結果的に進行ガンにおいて転移が見られる。
◆急性骨髄性白血病と免疫治療-現行のアプローチ
急性骨髄性白血病では、骨髄幹細胞の異常な増殖と分化に特徴を持つので、
T細胞特異的免疫治療が選択され、
具体的には同種幹細胞移植が行われる。
抗体医薬の併用も、免疫治療の取り組みとして用いられる。
この併用法では、CD33のような白血病特異的抗原に
バクテリアや低分子の腫瘍毒性ペイロードを接合させ、
ガン細胞に選択的に送達できるように工夫。
抗CD33抗体医薬との接合は、
ゲムツズマブ オゾガマイシン(Gemtuzumab ozogamicin)が
AML治療のための抗体標的治療法として認可。
その他の著名な取り組みとしては、
キメラ抗原受容体を付加させたT細胞やCAR T細胞の療法が目立つ。
急性リンパ性白血病(ALL)と悪性B細胞リンパ腫では、
CAR T細胞療法が奏効率が高い。
AMLについても、CAR T細胞の療法の有効性を確認する
早期フェーズの臨床研究が進行中。
◆化学療法耐性幹細胞-AMLでよく見受けられる問題
AML患者は、治療後に寛解する多いが、その後再発する。
その原因は、化学療法耐性白血病幹細胞(LSCs)で、
その細胞が免疫システムを回避して治療耐性を持ってしまう。
現行の免疫治療の方法では、AMLの治療には適切ではない。
このLSCsのせいで、治療後に再発する。
Dr.Paczullaの研究チームによって、どのようにしてこの免疫システム回避が
起こるかのメカニズムが解明された。
◆免疫システムからガン細胞が自らを守るための
二つのキープレイヤーは、NKG2D-L と PARP1
NKG2Dは、NK細胞とT細胞に通常存在し、
「危険検知器」として機能している。
傷害されたり形質転換したり病原体に感染されたりした細胞を
除去するために働く。
NKG2D-Lは、MICファミリーとULBPファミリーに属し、
ストレス誘導リガンドを認識して問題のある細胞を除去するために機能。
Dr.Paczullaの研究チームは、
175人のAML患者由来の白血病細胞を分析し、
リガンドNKG2D-LはAMLの幹細胞以外の細胞に発現、
白血病幹細胞には発現していないことを明らかにした。
NKG2D-L発現AML細胞は、NK細胞によって除去されるが、
NKG2D-Lを発現していない白血病細胞は免疫システムを回避することが出来る。
これらの白血病細胞は、
形態学的未熟性・分子的あるいは機能的な
幹細胞性・患者由来異種移植モデルによる化学療法耐性などによって特徴。
「白血病幹細胞におけるこの免疫耐性の本質的なメカニズムは、
細胞表面に提示されるNKG2D-Lのような危険シグナルを抑制する事にある」
3人の責任著者の1人であるチュービンゲン大学病院と
German Cancer Consortium DKTK所属のDr. Helmut Salihは説明。
本研究のもう一つの重点は、
幹細胞性と免疫回避とのつながりを説明できた。
「幹細胞本体と免疫システムからの回避能とのつながりは、
これまで解らなかった」
バーゼル大学病院とバーゼル大学所属のDr. Claudia Lengerkeはコメント。
◆この免疫回避戦略を支えるメカニズムは何か?
新たにこの防御機構のキープレイヤーを紹介すると、
PARP1(ポリADPリボースポリメラーゼ1)という分子で、
主としてDNA損傷の修復を担いゲノムの全体性を維持する役割を持っているが、
さまざまなガンに関与。
いくつかのPARP阻害剤は、BRCA1/2変異卵巣ガンの進行期の治療に使う
オラパリブ(KuDOS/AstraZeneca製)のように、臨床での使用が認可。
NKG2D-Lを発現しない白血病幹細胞の免疫回避機構は、
PARP1によって仲介されている。
PARP1発現は、NKG2D-L の発現を抑え込み、
白血病幹細胞において上方制御され、
これによって免疫回避が行われる。
患者由来異種移植マウスモデルにPARP1阻害剤を適用したら、
白血病幹細胞はNKG2D-Lを発現する機能を回復した。
同モデルに対し、引き続いてモノクローナルNK細胞を移植したら、
腫瘍形成を抑制し、幹細胞は認識されNK細胞によって除去された。
◆今後の方針
免疫回避メカニズムに、PARP1を深く関与させるという考え方は大変面白い。
PARP1阻害剤は、AMLマウスモデルにおいては良好な結果が観察、
重要なことはガン患者に応用できるという事。
PARP1阻害剤を他の治療法と組み合わせれば、
特定の白血病幹細胞を標的として、AMLの長期に渡る回復が
可能となる日が来ると期待。
「私たちは、ガン細胞がどれほど賢く免疫システムを騙しているのかを明らかにした。
内在するメカニズムを解明したことによって、
これから私たちが反撃に出ることが出来る」
本研究の3人の責任著者の1人であるGerman Cancer Research Center と
HI-STEM社に所属するDr. Andreas Trumpは説明。
白血病幹細胞が免疫システムを回避するメカニズムが解明。
このメカニズムに、PARP14を加えることによって新たな展望が拓ける。
化学療法耐性の幹細胞を、PARP1阻害剤と活性NK細胞との
組み合わせで撃破する。
本研究に参加した科学者チームは更なる臨床応用を目指し、
臨床評価とバリデーションの臨床研究を続けていく。
https://www.phchd.com/jp/biomedical/applications/evolving-science-for-the-future/preventing-cancer-cells-from-escaping-the-immune-system-a-promising-new-study