2023年2月4日土曜日

パンデミックの流れを変えた mRNAワクチンの登場 2023年の展開は?

2023年1月31日(火) メッセンジャーRNAワクチンは、新型コロナウイルスのパンデミックを乗り切る上で欠かせないものだった。 しかし、mRNAの可能性はそれだけではない。 他の多くの感染症に対応するワクチンや、あらゆるインフルエンザから人体を守るワクチン、 さらにはがんの治療に役立つワクチンも開発できる可能性がある。 2020年のことを思い出してほしい。 新型コロナウイルスの影響が次第に広がっていった時期のことだ。 命に関わる可能性のあるこの病気から身を守るために、私たちはマスクを着用し、 触れたものすべてを消毒し、他人との距離を置くしかないと警告されていた。 ありがたいことに、その裏ではもっと効果的な予防法の準備が進んでいた。 科学者たちは、まったく新しいワクチンを異例の速さで開発していたのだ。 1月には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の塩基配列解読が終わり、 3月にはメッセンジャーRNA(mRNA)を使ったワクチンの臨床試験が始まった。 年末までには米国食品医薬品局(FDA)がワクチンの緊急使用許可を出し、ワクチン接種が本格的に始まった。 米国では、これまでに6億7000万回分以上のワクチンが人々に行き渡っている。 新薬としては驚異的なスピードだ。 実現できたのは、長年にわたる中核技術の研究があったからだ。 科学者や企業は、何十年も前からmRNAを利用した治療法やワクチンの開発に取り組んでいた。 最初に実験的な治療法が試されたのは、1990年代のこと。 げっ歯類を対象とした実験で、糖尿病やがんなどの病気を治療しようとするものだった。 mRNAワクチンは、ウイルスの一部を人体に注射するという方法に依存しない。 その代わりに遺伝子コードを注射し、人体がそのコードを使って関連するウイルスのタンパク質片を自分で作れるようにする。 この方法は全工程において、ウイルスの一部を使用する方法よりもはるかに迅速かつ簡潔なものだ。 実験室でウイルスを培養する必要はなく、それらのウイルスが作るタンパク質の精製も必要ない。 最初に承認されたmRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対するものだったが、 他の多くの病気に対しても同様のワクチンの開発を模索する動きがある。 マラリア、HIV、結核、ジカ熱などは、その可能性のあるほんの一部だ。 mRNAワクチンは、個々の患者に合わせたオーダーメイドのがん治療にも使えるかもしれない。 がん治療の場合、体内の腫瘍細胞を攻撃するように設計された特定の免疫反応を誘発する手法が考えられている。 承認された2種類の新型コロナワクチンのうちの1つを開発したバイオテクノロジー企業であるモデルナは、 RSV(RSウイルス)、HIV、ジカ熱、EBV(エプスタイン・バー・ウイルス)などをターゲットとするmRNAワクチンの開発を進めている。 もう1つの新型コロナワクチンをファイザーと共同で開発したバイオンテック(BioNTech)は、 結核、マラリア、HIV、帯状疱疹、インフルエンザのワクチン開発に向けて研究を進めている。 両社ともに、がんの治療法開発にも取り組んでいる。 他の多くの企業や大学の研究室も、この動きに同調し始めた。 ●自家製ワクチン メッセンジャーRNA自体は、人体に入るとDNAによって読み込まれ、 タンパク質を作り出すのに使われるらせん構造の遺伝子コードである。 実験室で作られるワクチン用のmRNAは、特定のタンパク質をコードする(特定のタンパク質を作るための情報を持たせる)ことができる。 免疫系に認識させるように訓練したいタンパク質だ。 新型コロナウイルス・ワクチンの場合、 病気の原因となるSARS-CoV-2ウイルスの外殻に存在するスパイク・タンパク質がコードされている。 このmRNAは、脂質ナノ粒子という小さな粒子状の膜の中に収められる。 体内に無事に送り届けるためだ。 mRNAを使ったワクチンの研究に、いち早く取り組んできたペンシルベニア大学のカタリン・カリコ非常勤教授によれば、 このワクチンは安価かつすばやく、簡単に作れる。 非常に効率的でもある。 mRNAを細胞に入れると、30分後にはもうタンパク質が生成されています」と、カリコ教授。 そのようなタンパク質に一度さらされたことのある免疫系は、 同じタンパク質を持つウイルスに遭遇した際に強力な反応を起こしやすくなるというのが、 このワクチンの基本的な考え方だ。 新型コロナウイルスの場合、私たちを感染から守るタンパク質である抗体の生成が、 免疫系の反応を引き起こす主な要因になると考えられている。 訓練された免疫細胞も重要な役割を果たす。 理論的には、あらゆるタンパク質を標的とするmRNAを作ることができる。 そのため、どんな感染症でも標的になり得る。 現在、多くの感染症に対するmRNAワクチンの臨床試験が実施されている。 mRNAワクチン技術にとって刺激的な時代なのだ。 ●万能防御 次に、臨床現場へ投入されるのはどのmRNAワクチンか、正確に予測するのは難しい。 現在のところ大きな期待が寄せられているのは、インフルエンザ・ワクチンだ。 複数のインフルエンザ株に対して予防効果があるだけでなく、 新型コロナウイルスからも防御できる万能ワクチンが現れるかもしれない。 現在のインフルエンザ・ワクチンは、ウイルスが含有するタンパク質を免疫系に導入することで機能する。 免疫系が反応を起こし、ウイルスの倒し方を学ぶのだ。 このタンパク質を作るには、数カ月かけて卵の中でウイルスを増殖させる必要がある。 ブリティッシュ・コロンビア大学でRNAを研究しているアンナ・ブレイクニー助教授によると、 10月にワクチンを使えるようにするには、2月には製造を始めなければならない。 北半球の科学者たちは毎年、南半球で起こったことを参考にして、 北半球で流行しそうなインフルエンザ株がどれかを予測している。 予測が常に的中するとは限らない。 インフルエンザ・ウイルスは卵の中にいる間でさえも、時間とともに変異する可能性がある。 その結果、「ワクチンの効果は低いことが知られています」とブレイクニー助教授。 米国疾病予防管理センター(CDC)の推計によると、 2019~2020年に米国で使用されたインフルエンザ・ワクチンの有効率は39%だが、 2004~2005年のインフルエンザ・シーズンで使用されたワクチンの有効率は10%。 mRNAワクチンは、比較的短時間で作ることができる。 「RNAワクチンは1カ月で完成できると考えていいでしょう」と、ブレイクニー助教授。 10月に流行しそうなインフルエンザ株を予測するために、9月までじっくり考えることができる。 その結果、標的をより正確に絞れるはずだ。 他にももう1つ、潜在的なメリットがある。 複数の種類のウイルスを対象に、それぞれのタンパク質をコードするmRNAの作成が可能なことだ。 複数のインフルエンザ株から防御するワクチンを作れるかもしれない。 ペンシルバニア大学のノルベルト・パルディ助教授たちは、万能インフルエンザ・ワクチンの開発に取り組んでいる。 このワクチンによって、ヒトを病気にさせる可能性のある、 あらゆる種類のインフルエンザから防御できる可能性がある、とパルディ助教授は考えている。 パルディ助教授のチームは最近、このワクチンが、インフルエンザの20種類の亜型から マウスとフェレットを守る可能性があることを示した。 あらゆるコロナウイルスから防御するmRNAワクチンの開発に取り組んでいる研究室もある。 複数のタンパク質をコードできれば、1回の注射で複数の病気から守れる可能性がある。 モデルナはすでに、新型コロナウイルス、インフルエンザ、RSウイルスを標的とするワクチンの臨床試験を始めている。 将来にはさらに進歩し、理論的にはたった1回か2回の注射で20種類のウイルスから 防御できるようになるかもしれないと、カリコ教授。 ●がんワクチン 新型コロナウイルスを標的とするmRNAワクチンの開発が始まる前から、 研究者たちはがんの治療にmRNAを利用する方法を模索してきた。 がん治療の場合、手法は少し異なっており、mRNAは「ワクチン療法」として機能することになる。 ウイルスのタンパク質を認識できるようにするのと同じように、 免疫系を訓練することにより、がん細胞のタンパク質も認識できるようになる可能性がある。 理論的には、この方法は完全に個々の患者専用にカスタマイズすることが可能だ。 科学者は、特定の個人の腫瘍細胞を調べ、その人自身の免疫システムががん細胞を撃退するのを助けるような、 カスタム・メイドの治療法を作り出せるだろう。 「RNAのすばらしい応用です。そこには大きな可能性があると思います」(ブレイクニー助教授)。 これまで、がんワクチンを作るのは難しかった。 原因の1つが、多くの場合、明確な標的となるタンパク質が存在しないこと。 新型コロナウイルスのスパイク・タンパク質のように、ウイルスの外殻に存在するタンパク質のmRNAは作ることができる。 カリコ教授は、私たち自身の細胞が腫瘍を形成する場合、 新型コロナウイルスのような明確な標的が存在しないことが多い。 がん細胞の場合、コロナウイルスから人体を守るために必要な免疫反応とは異なる種類の免疫反応が必要になるだろう。 「少々異なるワクチンを考え出す必要があるでしょう」と、パルディ助教授。 いくつかの臨床試験が進行中だが、「ブレークスルーはまだ起こっていません」(パルディ助教授)。 ●次のパンデミック mRNAワクチンは非常に有望ではあるが、少なくとも現在の技術では、世の中のあらゆる病気を防ぎ、 治療できるものではなさそうだ。 スウェーデンのストックホルムにあるカロリンスカ研究所の免疫学者であるカリン・ロア教授は、 mRNAワクチンの一部は低温冷凍庫で保管する必要がある点を指摘する。 世界にはそうした選択肢をとれない地域もある。 病気によっては、より難しい問題が伴うこともある。 感染症から防御するには、ワクチンのmRNAが関連するタンパク質をコードしなければならない。 そのタンパク質が重要なシグナルとなって、免疫系に対し、認識して防御すべきものを伝えるのだ。 新型コロナウイルスなど一部のウイルスの場合、 そのようなタンパク質を見つけることは非常に簡単だ。 他のウイルスの場合、それほど簡単ではない。 細菌感染を防ぐワクチンを作ろうとすると、良い標的を見つけるのが難しいかもしれない、とブレイクニー助教授。 HIVでもそれが難しかった。 「HIVに対して本当に有効な免疫反応を誘発する種類のタンパク質は、まだ見つかっていません」。 「mRNAワクチンがすべての解決策になるという印象を与えたくありません」と、ロア教授。 ブレイクニー助教授も同意見である。 「私たちは、これらのワクチンが発揮し得る効果を目の当たりにしてきました。それはとてもすばらしいこと」と、ブレイクニー助教授。 「しかし、一夜にして全てのワクチンがRNAワクチンになるとは思いません」。 それでも、楽しみなことはたくさんある。 2023年は、最新の新型コロナウイルス・ワクチンの登場が期待できる。 研究者たちは、近い将来、さらに多くの種類のmRNAワクチンを臨床の現場に投入したいと考えている。 「今後2~3年のうちに、他の感染症のmRNAワクチンも承認されることを本当に願っています」と、パルディ助教授。 パルディ助教授は、次の世界的な病気の大流行に備え、対応策を練っている。 次の大流行には、インフルエンザ・ウイルスが関与する可能性が高いと言われている。 次のパンデミックがいつ起こるのかはわからないが、「私たちはそれに備えなければなりません」と、パルディ助教授。 「パンデミックの最中にワクチン開発を始めてもすでに手遅れであることは、火を見るよりも明らかなのですから」。 This article is provided by MIT TECHNOLOGY REVIEW Japan Copyright ©2022, MIT TECHNOLOGY REVIEW Japan. https://medicalai.m3.com/news/230131-news-mittr?dcf_doctor=false&portalId=mailmag&mmp=AI230203&mc.l=939996725

2023年1月18日水曜日

100分の1濃度の抗がん剤でがん細胞死滅に成功、光誘導による新手法開発 大阪公立大

100分の1濃度の抗がん剤でがん細胞死滅に成功、光誘導による新手法開発 大阪公立大 2023年1月9日(月) 副作用をおさえ奏効率を上げる観点から、必要最低量の薬剤を患部にのみ選択的に届ける 「Drag Delivery System(ドラッグデリバリーシステム)」の研究開発が盛んだが、 大阪公立大学の研究グループが、赤外光による誘導をベースとした新手法で、 従来の100分の1の濃度でがん細胞を死滅させることに成功した。 研究グループでは臨床応用のほか、創薬プロセスの効率化にも寄与するとしている。 研究成果を発表したのは、大阪公立大学 研究推進機構 協創研究センター LAC-SYS研究所の中瀬 生彦 所長補佐、 飯田 琢也 所長、床波 志保 副所長らの研究グループ。 今回、超放射の補助による光誘起対流を用い、 細胞透過性ペプチド(CPP)を含む生体機能性分子の細胞膜への集積と透過性向上を実現し、 1000分の1程度のnmol/L(10-9 モル/リットル)レベルでの光誘起集合のドラッグデリバリーシステムへの応用を実証した(図1~図2)。 細胞培養液中の生細胞の周りに光発熱集合を誘起するために、 プラズモニック超放射※1を示す高密度に金ナノ粒子を固定したガラスボトムディッシュ※2、 または金薄膜をコーティングしたガラスボトムディッシュに、 生体へほとんど吸収されずダメージを与えない波長1064 nmの赤外レーザー(出力:100 mW~400 mW)を10倍対物レンズで100秒間集光し、 基板上の細胞から100μmほど離れた位置にある目的の生細胞付近に分子を濃縮させた。 細胞内小器官であるミトコンドリアだけを染色する「MitoTracker」という低分子を用いた実験では、 従来の自然の細胞内導入では500 nmol/L以上必要であり、 図1のレーザー照射点から離れた場所での比較実験結果から、 100分の1に相当する5 nmol/Lや1000分の1に相当する500 pmol/Lのような低濃度では、 ほとんど細胞内に入らずミトコンドリアを染色できていないことが確認できる。 一方、レーザー照射点付近の実験結果では、わずか1000分の1の濃度である500 pmol/Lでも 光誘起バブル近傍の細胞内のミトコンドリアだけを選択的に染色できることを明らかにした(図1)。 さらに、光誘導加速により従来法よりも100分の1の濃度に相当する50 n mol/LのR8-PADを用いて 細胞死への誘導に成功した(図2)。 研究グループはこの成果について、 プレシジョン・メディスン(精密医療)やテーラーメード医療など創薬・医療分野へのブレークスルーを与え得るものであるほか、 高価な新薬の細胞試験における薬剤量を大幅に削減することによる低コスト化や、 創薬プロセスの加速にもつながるとしており、 現在、研究成果の基礎部分の特許取得を進めている。 今後は製薬企業らとの共同研究も視野に入れる。 ※1 プラズモニック超放射 金属は、その内部を電子が自由に走り回ることができるため、 高い導電性や金属光沢を示すことは良く知られている。 一方で、金属から成る100ナノメートル(nm: ナノメートル=100万分の1ミリメートル)以下のサイズ、 いわゆる金属ナノ粒子では内部の表面近傍に束縛された自由電子が「局在表面プラズモン」と呼ばれる状態を形成する。 金属ナノ粒子が高密度に集積すると、各粒子中の局在表面プラズモンが光電磁場を介して 相互作用することで光散乱効率が高まると同時にスペクトル幅が増大し、 分極間相互作用による長波長シフトも起こる。 例えば、可視域に含まれる500~600ナノメートルに共鳴波長を有する金ナノ粒子が高密度に集積した場合、 赤外波長のレーザーに対する散乱だけでなく吸収も増大することを、これまでの理論研究で明らかにしている。 ※2 ガラスボトムディッシュ 細胞培養用の小型容器で、中心付近に直径12mm程度の小さな円形の1 mm程度の深さの窪みがあり、 その部分に細胞と培養液を保持できる。 論文リンク:Light-induced condensation of biofunctional molecules around targeted living cells to accelerate cytosolic delivery(Nano Letters) https://medicalai.m3.com/news/230109-news-medittech

皮膚に貼り付けられる光学センサーを開発、継続的な血流モニタリングが容易に カリフォルニア大

皮膚に貼り付けられる光学センサーを開発、継続的な血流モニタリングが容易に カリフォルニア大 2023年1月13日(金) カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、 ヘモグロビンを含む深部組織の生体分子をモニターできる電子パッチを開発した。 医療関係者は悪性腫瘍、臓器機能不全、脳や腸の出血など、 生命を脅かす状態を発見するのに役立つ重要な情報に、これまでにないほどアクセスできるようになるとしている。 体内の血液循環のモニタリングは、重篤なものを含む疾患の兆候をとらえるのに非常に役立つ。 循環が悪くなると臓器の機能低下が起こり、心筋梗塞や四肢の血管疾患など、 さまざまな病気を引き起こす可能性が高まるし、 脳や腹部、嚢胞などに異常な血液が貯留している場合は、脳出血や内臓出血、悪性腫瘍の可能性が高まる。 もし血流の継続的なモニタリングが手軽にできれば、現在よりも確実に適切かつ早期の医療的介入が可能になる。 研究グループが今回開発したパッチ型のセンサーは、 皮膚に快適に貼り付けることができ、非侵襲的な長期モニタリングが可能だ。 柔らかいシリコーンポリマーマトリックスに、レーザーダイオードと圧電トランスデューサーのアレイを備え、 レーザーダイオードはパルスレーザーを組織内に照射し、組織内の生体分子が光エネルギーを吸収、周囲の媒体に音響波を放射する。 皮膚表面の生体分子のみを感知する他のウェアラブル電気化学デバイスとは異なり、 皮膚下数センチの深部組織でヘモグロビンの3次元マッピングをミリメートル以下の空間分解能で行うことができる。 照射する波長は拡張および変更が可能で、検出可能な分子の範囲を拡大でき、臨床応用の可能性も視野に入る。 「体内のヘモグロビンの量と位置は、血液の流れや特定の部位への蓄積に関する重要な情報を提供する」と、 カリフォルニア大学サンディエゴ校のナノ工学科教授で本研究の責任著者であるSheng Xu氏は述べ、 今後、ウェアラブルデバイス化や体幹温度モニタリングの可能性についても検討する予定だ。 論文リンク:A photoacoustic patch for three-dimensional imaging of hemoglobin and core temperature(nature communications) https://medicalai.m3.com/news/230113-news-medittech

日本の医療DX化、「周回遅れ」の懸念も - 中村祐輔・医薬基盤・健康・栄養研究所理事長に聞く

日本の医療DX化、「周回遅れ」の懸念も - 中村祐輔・医薬基盤・健康・栄養研究所理事長に聞く ◆Vol.2オンライン診療進むも今後の発展に課題残る スペシャル企画 2023年1月14日 (土)配信聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長) ●オンライン診療「様変わり」したが…… ――ではコロナ禍の3年で、「より良い方向に医療が変わった」点はありますか? オンライン診療です。 コロナ禍前は、かなりの抵抗がありましたが、もう全く様変わりしました。 ひいてはデジタル医療の評価も高まっています。 対面診療との比較では、画面を通して見ると患者さんの顔色が分かりにくいなどのデメリットはありますが、 特に医療の利便性が悪い地域の住民にとっては、オンライン診療が非常に重要であることは明らか。 妊婦健診では、母体胎児の生体情報をモニターできる小型機器も開発され、 遠距離通院の負担の軽減にもつながります。 オンライン診療やデジタル医療を活用しなければ、医療の地域格差は広がるばかりです。 日本の医療を維持、発展させるためにも、これらの活用が非常に重要です。 言い換えれば、医療のDX化を加速させなければ、日本の医療は「周回遅れ」になってしまうでしょう。 ●AI問診と音声入力で質向上と業務負担軽減 ――先生はSIPで、「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」のプロジェクトディレクターを務めています。 その中で特に注目されているプロジェクトは何ですか? 一つは、AI問診です。 今後かなり普及していくと見ています。 コロナ禍では、「非接触性」も重視されましたが、医療者と患者さんが接触する時間が短縮できるだけでなく、 AI問診タブレットを用いた場合、患者・付き添い者の負担が少なく、入力しやすいという結果が出ています。 忙しそうにしている看護師さんやお医者さんにいろいろ聞かれるよりも、待ち時間などに気軽に入力できるからでしょう。 AI問診は、医師にとっても有用。 診察前に患者情報を整理・確認できるほか、問診結果から想起すべき鑑別疾患が提示されるAIも開発されているので、 疾患見逃しなどの防止にもつながるからです。 バイタルサインの音声入力も、業務負担の軽減に有用。 看護師さんが「体温は○○」「血圧は○○」などと測定データを読み上げ、それを入力できるシステムを構築した結果、 1病棟1日当たり約7時間も削減されました。 日本全体で年間に7700万時間の削減になる計算。 画像診断には専門性が求められますが、X線CTにしても、そのスライス数は以前に比べて膨大です。 それを見落としなく診断するには、AIの補助が絶対的に不可欠です。 造影CT検査の事前の説明を人工知能アバターが補助することによっても、 業務負担の軽減につながることなども明らかになっています。 米国では、1年間に700万件の処方ミスで年間7000~9000人の死亡があります。 投薬ミスを治療するために、4兆円の医療費が余分にかかっているとの報告があります(StatPearls, July 3, 2022)。 薬の種類や量、投与方法など、さまざまな場面でミスが生じ得ますが、 AIが管理すればヒューマンエラーが激減すると思います。 AIとデジタル化は、医療の質の向上やミスの防止、医療者の負担軽減・業務の効率化など、さまざまな分野で発展しています。 今、医師をはじめ医療者の働き方改革が進められています。 タスクシフト先は、人間である必要はなく、AIでもいいわけです。 空いた時間を患者さんへのケアに充てれば、皆がハッピーになることが期待され、AIの利活用は今後の重要なテーマです。 ●「診療情報は患者のもの」の発想必要 ――オンライン診療やAIの活用を進めるには、医療情報のデジタル化、ビッグデータ化、その利活用が不可欠。 長年の課題ですが、この辺りを進めるアイデアはありますか? 電子カルテの標準化と同時に、次世代医療基盤法を改正して患者情報をオプトアウトで集めて、 それを利活用するという動きがあります。 欧米ではこのやり方で進めようとしていますが、政府に対する信頼性がないと難しい。 電子カルテの標準化には膨大なコストがかかる上に、政府に対する信頼性が低い日本で 果たして電子カルテの標準化やデータベース化は進むのでしょうか。 国が強制的に進めない限り難しいでしょうが、国がそこまでトップダウン的にやるとは思えない上、 国民の抵抗が大きいと私は考えています。 私も見知らぬ証券会社からの郵便が大阪の自宅に届くようになり、 マイナンバーカードに連結された情報が、今後どのように管理されていくのかを疑問視しています。 日本ではいまだに「診療情報は誰のものか」という議論があります。 診療情報は患者さんのものですから、患者さんにまずお返しする。 「どの医療機関や企業でも利活用してもらいたい」と意思表明した患者さんのデータだけ、 クラウド上でデポジットするプラットフォームを構築する方が、 コストが少なくて済む上に、現実的だと考えています。 ――そのやり方であれば、「リアルタイムデータ」として活用でき、一定程度集まれば「リアルワールドデータ」としても活用できる。 まず前提ですが、「リアルワールドデータ」と言っても、データを集めたら何かができるわけではなく、 データをどう使うかを考えてデータを集める必要があるということ。 ここを間違えてはいけません。 「医療DX化を進め、次のパンデミックに備えよう」という掛け声がありますが、 基本的に何が問題なのか、例えばワクチンや薬を早期に開発するためにはどんなデータが欠けていたのかなどという検証がない限り、 「ゴミデータ」をいくら集めても「ゴミ」のままです。 「リアルワールドデータ」は、全数である必要はなく、一定程度、質のいいデータが集まれば、利活用できます。 その結果、新たな治療法などが見つかったら、データをデポジットしてくれた患者さんにフィードバックする。 こうしたインセンティブを付けて、データの収集と第三者利用を進める方が手続き的、またコスト的にも現実的ではないでしょうか。 仮にクラウドのデータベースを一から構築して、1兆円かかるとします。 確かに初期投資はそれなりにかかりますが、この活用で薬の投薬ミスなどを防止できたら、 先に紹介したアメリカの処方ミスの現実を単純に人口比で換算すると、導入した翌年には元が取れる計算になります。 ――さまざまな可能性があるSIPの「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」ですが、2022年度で終了。2023年度以降の予定は? 2022年度で終了です。 ただ、本プロジェクトには多くの企業が関わっており、 ある程度、製品化の可能性が見えてきたものについては、企業が開発・支援を続けていくことが想定されます。 一方で、もう1期(5年)くらいSIPの予算で開発を続ければ、実用化の目途が立ち、日本の医療を大きく変える可能性があったのですが、 予算が打ち切られると厳しいと考えています。 評価が次に生かされない硬直化した仕組みこそが、日本の大きな課題だと考えています。 https://www.m3.com/news/iryoishin/1108171

トップの科学リテラシー、危機意識の欠如が露呈 - 中村祐輔・医薬基盤・健康・栄養研究所理事長に聞く

トップの科学リテラシー、危機意識の欠如が露呈 - 中村祐輔・医薬基盤・健康・栄養研究所理事長に聞く ◆Vol.1日本コロナ対策「非科学的な対応」の一言に尽きる スペシャル企画 2023年1月10日 (火)配信聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長) 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所理事長を務め、東大名誉教授、シカゴ大学名誉教授でもある中村祐輔氏は、 遺伝・ゲノム医学研究の第一人者。 2018年からは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に採択された「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」 のプログラムディレクターとして、医療分野でのAIの開発・社会実装にも挑んでいる。 阪大医学部卒業後、外科医として4年間研鑽を積み、 内閣官房参与・内閣官房医療イノベーション推進室長の経験もあり、臨床・研究から、医療政策まで幅広い視点を持つ中村氏。 日本のコロナ対策を問うと「トップの科学リテラシー、司令塔機能、ひいては国家の有事に対する危機意識の欠如」と 手厳しい答えが返ってきた(2023年1月6日にインタビュー。全3回の連載)。 ●「2類、5類」以外にも選択肢あるはず ――2022年、さらにはコロナ禍の過去3年の日本の対応は、先生の目にはどのように映っているのでしょうか? 2022年末、サッカーのワールドカップを見ていて、「この差は何だ」と思ったことを印象深く覚えています。 誰もマスクせずに会場内外で大声で叫んでいる一方、日本ではマスクをつけて静かにテレビ観戦していたという違い。 日本のコロナ対策を一言で言えば、「非科学的な対応」という言葉に尽きます。 感染症法上の分類をめぐる議論も、新型コロナウイルスの特性に合わせてフレキシブルに変更すればいいのに、 2類か5類かという選択肢しかないような議論を続けています。 科学者も、政治家も思考停止しているのではないでしょうか。 にもかかわらず、誰も何も言いません。 もう一つは、医療のデジタル化がすさまじく後れていること。 私はSIPで、「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」のプロジェクトディレクターを2018年度から5年間務めていますが、 それを身をもって感じました。 「日本のデジタル化がいかに後れているかが、国民の皆さんの目の前に突き付けられた」と言うこともでき、 それはよかったことかもしれません。 その他、基礎研究の遅れなど、日本の医学・医療のさまざまな弱点が露呈しました。 ●ゲノム医学や免疫の「専門家」は不在 ――まずは「非科学的な対応」についてお伺いできますか? 新型コロナ対策は、一義的には医学の問題として科学的に進めるべき。 そのために必要な情報を収集・分析するベースが全くないとしか思えません。 「ウイルスは変異する」と言いながら、ゲノム解析が十分になされていない。 解析していていも、そのデータがどう利用されているのかも分かりません。 PCR検査にしても、特にパンデミック初期は十分な検査ができず、流行状況などを把握できずにいました。 大学にはたくさんのPCR検査機器があったけれども、全然オーガナイズされていなかったので、十分に活用できません。 いまだにPCR検査体制は不十分だと考えています。 国内外の新型コロナに関する情報を収集・分析する体制も不十分。 ビオンテックがNature誌にがんに対する治療用のmRNAワクチンに関する論文を発表したのは、2017年のこと。 mRNAワクチンで免疫反応を誘導できるという内容でしたが、 日本ではコロナ初期には「mRNAワクチンなんて使えるのか」という議論がわき起こりました。 世界の最先端の情報を全く理解していない反応だと思います。 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会をはじめ政府の会議体には、 ゲノム医学や免疫の専門家はいません。 最先端の技術や情報を持っていない人たちが集まって、「専門家」と称していること自体もナンセンス。 日本にも感染症の「専門家」は何人かおられますが、 米国CDC(疾病対策センター)は、世界各国に専門家を出し、各国の疾病動向をリアルタイムで監視しています。 ある意味、疾病動向を把握するための「諜報活動」と言えますが、日本にはこうした機能もありません。 ●「リアルタイムデータ」欠如、ワクチンや治療薬の後れに ――「デジタル化の後れ」ですが、パンデミック初期は発生届もFAXを使うなど、「紙」ベースのやり取りが目立ちました。 昨今、「リアルワールドデータ」(Real World Data:RWD)の必要性が指摘されるようになりましたが、 それに加えて「リアルタイムデータ」(Real Time Data:RTD)が必要。 救急搬送一つ挙げても、どこの病院で受け入れ可能なのかが瞬時に分からず、 何時間も探す事態が生じるのは、バカげた話だ。 日本がワクチンや治療薬の開発が決定的に後れてしまったのは、 リアルタイムでデータを集める仕組みがないことが大きく影響しています。 コロナ治療薬の治験を迅速に進めるためには、どの病院にどの程度の重症度の患者がいるかなど、 ファンダメンタルな情報を集める体制が不可欠です。 そうしたデータの構築には、クラウドベースのサーバーやバイオインフォマティクスの専門家などが必要です。 クラウドサーバーは、Google、マイクロソフト、IBM、Amazonなど、アメリカ勢がメイン。 バイオインフォマティクスの専門家の重要性もかねてから指摘されていますが、 十分に育成されているとは言えません。 ●日米トップの科学リテラシーの差は歴然 ――さまざまな問題を指摘されていますが、なぜ日本はそのような状況に陥っているとお考えですか? 最大の問題は、トップの科学リテラシー、司令塔機能、ひいては国家の有事に対する危機意識の欠如。 バラク・オバマ元米大統領、ジョー・バイデン大統領を見て分かる通り、 日米の政治家の科学リテラシーの違いは明らか。 「大統領を目指す人には、科学リテラシーが必要」という認識があり、 サイエンティフィックなアドバイザーが必ずおり、また彼ら自身の知識も豊富です。 学会やシカゴ大学で、お二人の講演を聴講したことがありますが、受け答えを聞いていても、 どんな質問に対してもすごく的確に答えています。 バイデン大統領は、息子さんをがんで亡くされており、がんの臨床試験に関する知識はもう玄人はだしです。 ワクチンや治療薬の開発についても、アメリカでは国の指令が明確で、国の中枢と製薬企業が連携しながら取り組んでいます。 各種の検査体制にしても、アメリカは2001年の炭疽菌事件以来、 バイオテロを常に念頭に置いて何かあってもすぐ調べることができる体制を構築しています。 各種の危機を想定した情報を収集・分析し、対策を考える専門家集団を持っている。 何らかの問題に直面した時点で対応策を考えるのではなく、将来を見据えて何が必要なのか、 そのグランドデザインをまず描く。 マイルストーンを決めて人材も育て、インフラも整備してきたのがアメリカ。 日本では、国に対する脅威にどう対応するか、その危機意識の欠如がいろいろな場面で響いています。 その結果、対応が後手後手で、なおかつ「この問題は、この部署で」と縦割りの対応を続けてきたのが日本。 ――米国は人口当たりの新型コロナによる死亡者数は世界トップであるなど、必ずしも対策が成功したとは言えない側面があるのでは? CDCは、「The Epidemic Prediction Initiative (EPI) 」という、国内外の感染症監視プログラムを持っていますが、 ドナルド・トランプ前大統領の時代に、この予算を削ってしまった。 対応が後手に回ったのは、この点が大きいと私は見ています。 言い換えれば、トップ次第で成否が変わるということです。 ●「ワクチン1日100万回」「一斉休校」は評価 ――「縦割りの対応」を指摘された。2015年に日本医療研究開発機構 (AMED) が発足。研究開発面でも、縦割りは残っていますか? 私は、AMEDの前身の内閣官房医療イノベーション推進室室長を務めた経験があります(編集部注:2011年に発足。初代室長が中村氏)。 同室は、省庁横断的に医療政策を考えて、トップダウンで指示することを目指していました。 しかし、その後に発足した「健康・医療戦略室」はいつの間にか役人だけの組織に変わり、 医療現場を知らない人がいろいろな課題に取り組むようになってしまった。 AMEDは、医療政策の将来的な国家戦略を考えて、トップダウンで官民を問わず横断的に各組織を束ねて、 戦略を実現する役割を担うはずでした。 しかし、今のAMEDは、予算の使い方を見ても、各省庁の各部局が作ったものをベースにし、本来の機能を果たしているとは言えません。 トップダウンで組織を動かすという意味で、過去3年間のコロナ対応の中で印象に残ったのは、 菅前首相が「ワクチン接種1日100万回」を掲げ、それが実現したこと。 「地方交付税交付金の減額をちらつかせて……」という話も聞きますが、 地方を動かすための仕組み、手腕は絶対的に必要です。 もう一つは、安倍元首相が2020年2月末に打ち出した「学校の一斉臨時休校」。 今から振り返れば「そこまでする必要はあったのか」という人もいますが、 致死率が10%を超えるようだったら、褒めたたえられたでしょう。 当時は新型コロナに関して未知の部分が多かったので、最悪を前提とした対策として、 私自身は、悪くはなかったと思っています。 https://www.m3.com/news/iryoishin/1108170?dcf_doctor=false&portalId=mailmag&mmp=MD230110&mc.l=934644156&eml=12b55b931cb52b4152963c77864c5aec

2022年10月4日火曜日

つまみを回す指の本数の研究でイグ・ノーベル賞を受賞した千葉工業大教授の松崎元さん 「時の人」

2022年10月3日 (月)配信共同通信社 水道の蛇口など「つまみ」を回す時、人は何本の指を使うのか―。 つまみの太さで本数を無意識に変えると証明した実験結果が評価され、 ユーモラスな独自の研究に贈られる今年の「イグ・ノーベル賞」に輝いた。 手を触れなくても水が出る洗面台やタッチパネルが増える中、 蛇口のハンドルやドアノブが少数派となる日も遠くない。 自らの研究を「時代遅れ」とし、 「受賞は不思議な感じ。誰も気にしないことを真面目に研究したのが評価されたのかな」と控えめだ。 工学系のデザイナーを志望して、千葉工業大に入学。 大学院に進んでから目を付けたのは、さまざまなサイズや形状がある蛇口だった。 「本当に指に合って使いやすい形はどれだろう」。 探求の日々が始まった。 実験では、つまみを模した直径の異なる円柱を多数用意し、被験者につかんで回してもらった。 直径が約1センチ、約2・5センチと大きくなるごとに使う指が増え、 9センチになるとほぼ全員5本だった。 大学で教壇に立ちながら、機能的な日用品を開発するプロダクトデザイナーとしても活躍し多忙を極める。 「きれいでかわいいものではなく、使いやすいものを」。 計量カップとしても利用できる紙コップや、握りやすいかばんの持ち手の開発にも携わってきた。 受賞を機に、蛇口メーカーから新製品のデザインの依頼も絶えない。 1999年に発表した論文が再び日の目を見たことに、「改めて研究もしっかり頑張らないと」と襟を正した。 東京都出身、50歳。 https://www.m3.com/news/general/1083425

ノーベル医学生理学賞、沖縄科学技術大学院大学の客員教授に

2022年10月3日 (月)配信m3.com編集部 スウェーデンのカロリンスカ研究所は10月3日、 2022年のノーベル医学生理学賞の受賞者をスバンテ・ペーボ氏に授与すると発表。 古代人と人類の進化に関するゲノム解析に関する研究が評価。 2018年の本庶佑・京都大特別教授以来、4年ぶりの日本人研究者の受賞は残念ながら逃したが、 ペーボ氏は沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヒト進化ゲノミクスユニットの客員教授を務める。 スバンテ・ペーボ氏は、1955年ストックホルム生まれ。 ドイツのミュンヘン大学、マックス・プランク研究所などで研究に従事。 古代骨を用いてDNA解析を行い、ヒトの先祖のDNA配列を明らかにしてきた。 2010年、ネアンデルタール人のゲノムを解読したことや、 新系統のヒト属、「デニソワ人」を発見したこと等が評価された。 2020年にはJapan Prizeを受賞。 ●ネアンデルタール人のゲノム解析に成功 カロリンスカ研究所のプレスリリースによると、 ホモ・サピエンスに最も近いとされるネアンデルタール人は、 約40万年前から約3万年前までヨーロッパと西アジアに住んでいたが絶滅した。 約7万年前、ホモ・サピエンスがアフリカから中東に移動し、そこから世界に広がっていった。 同時期にユーラシア大陸で共存していたホモ・サピエンスとネアンデルタール人がどう異なるのか、 考古学上の長年の課題だった。 これを知るには、古代の標本から回収したゲノムDNAの配列決定が必要だ。 長年が経過したDNAは細かい断片になっていたり、現代人のDNAで汚染されていたりするため、 現代の遺伝学的手法で解読するのは困難だ。 1990年、ペーボ氏はネアンデルタール人のミトコンドリアから採取したDNAを使用して分析を開始した。 ミトコンドリアゲノムは何千ものコピーがあるため成功確率が高いと言い、DNAの配列の決定に成功した。 ペーボ氏はさらに解析方法の改善を続け、2010年にネアンデルタール人のゲノム配列を発表した。 ●新たなヒト属「デニソワ人」の発見 2008年、シベリア南部のデニソバ洞窟で、4万年前の指の骨の断片が発見された。 ペーボ氏は、非常に保存状態が良かったこの骨のDNAの塩基配列を決定した。 その結果、現生人類やネアンデルタール人といった既に知られているヒト属動物のいずれとも異なることが分かった。 新たなヒト属の発見だった。 ペーボ氏は、このヒト科を「デニソワ」と名付けた。 現生人類との比較を続けると、現在の東南アジアに住む集団の一部では、 最大で6%デニソワのDNAの塩基配列を持つ個体が存在することが分かった。 絶滅したヒト属とホモ・サピエンスの違いや共通点を明らかにする中で、 ネアンデルタール人のゲノムは感染症に対する免疫反応に影響を及ぼしていることも分かってきている。 カロリンスカ研究所は、ホモ・サピエンスと絶滅したヒト属の遺伝的な違いを明らかにした ペーボ氏の研究を「画期的」と称え、 「何がこれらを分けたのか、何が我々を人間たらしめているのかを明らかにするのが、 現在も行われている精力的な研究の目標だ」とこの分野の発展に期待を示した。 【OIST学長兼理事長のピーターグルース氏のコメント】(OISTのホームページより) 「この度のスバンテ・ペーボ氏のノーベル生理学・医学賞受賞に際し、 OIST教職員一同、心よりお祝い申し上げます。 私自身も、マックス・プランク協会時代の同僚であるスバンテ氏をOISTの教員として迎え入れることに 貢献できたことを大変誇りに思います。 スバンテ氏は古遺伝学の創始者の一人で、ネアンデルタール人及びデニソワ人のゲノム解読に成功。 ホモ・サピエンスのゲノムとの比較解析により、すでに重要な機能データが得られています。 スバンテ氏は今後、ここOISTでネアンデルタール人とホモ・サピエンスのゲノムの比較解析に取り組むことを希望しており、 本学としても大変喜ばしく思っています。 この研究を通して、何が私たちを人間たらしめるのかという問いに重要な知見がもたらされることでしょう」 https://www.m3.com/news/iryoishin/1083727