2025年11月19日水曜日
「AI時代、ひとりスタートアップが可能に」救急医が医療現場の課題解決に挑む
札幌徳洲会病院副院長・救急部長として22年間現場に立ち続けながら、
2024年6月にWonder Drill株式会社を設立した平山傑氏。
「現場のことは現場の人がわかる」という信念のもと、
音声入力で医療記録を効率化するアプリ「コエレク」を開発。
医療DXの最前線で奮闘する医師起業家に話を聞きました。
●医療現場の確実な業務効率化を成し遂げたい
Q まずは簡単に先生の自己紹介をお願いします。
Wonder Drill株式会社代表取締役 平山傑です。
北海道旭川市出身、札幌医科大学2003年卒の救急医22年目。
現在は札幌徳洲会病院 副院長、救急科部長を兼任しながら、
2024年6月Wonder Drill株式会社を設立し、製品開発、実証実験、運営、営業など
会社のことは全てひとりでこなしています。
保有資格は救急専門医・指導医、DMATコーディネーターです。
学生の時は演劇部とアイスホッケー部でしたが、
今はどちらもやる暇がなく病院と会社の毎日を送っています。
3人の子どもがいます。
Q 創業への想いをお聞かせください。
「あなたの病院は働きやすいですか?」
この質問から全てが始まりました。
電子カルテが導入されるようになって20年、日常生活ではスマホが当たり前になり、
情報共有はテキストから動画へ、固定電話は自宅から姿を消し、
連絡も直接電話からかけるより、LINEなどのSNSで済ませることが多くなりました。
しかし医療現場は、社会の変化に完全に取り残されているのではないでしょうか。
医療DXは、待っていても何も変わりません。
医療従事者は真面目なので、真面目で真摯にやっていれば、いつかは制度を含め自分たちを救ってくれると思いがち。
しかし現実は厳しく、物価は上がるが給料はむしろ下がる。
福利厚生費や出張旅費の減額から昇給停止。
もうすでに現実になっていませんか?
病院の財政が潤っているところはほぼないのでは。
そういう厳しい現実の中で、我々はどうするべきか?
それを考えた時に「確実な業務効率化」を成し遂げることこそが大切だと思った。
業務効率化を進めることで、患者との接点が増えます。
つまり、より良い医療を提供しながらも医療従事者の時間の確保につながっていくのです。
「医療DX」と名前をつけた、現場を知らない製品に騙され、高額だけれどもほとんど使われない。
そんな製品に時間とお金を無駄遣いしないように、
現場を理解している人間が、現場で実際に使えるものを作る。
これが最も重要だと考えています。
「現場のことは現場の人が一番わかる」と考え、現場発信の医療DXを行いたいという思いを胸に創業しました。
医療現場の課題は、医療現場で働く人から変えていくべき。
これが創業の原動力です。
Q 創業メンバーとの出会いやどうして一緒に歩んでいこうと考えたのか、メンバーへのお考えをお聞かせください。
創業メンバーは僕とAIです(笑)。
いや、ほぼひとりで実務を行っていますが、一応共同創業者がいます。
それはオンラインネットゲームで出会った友人です。
長年やっていたオンラインゲームの友人がIT系会社をやっており、僕の作ったプロトタイプアプリをアピールして、
一緒に会社をやろうとお願いしました。
現在は製品化、保守運用を彼の会社に業務委託しており、経営に関するアドバイスもいただいています。
ただし、こちらの運営に大きく軸足を置いてもらっているわけではないので、実務は全て僕がこなします。
実質ひとりの会社になりますね。
今はAIが強力な仲間なので、日々ChatGPT、Claude、Notionなどで業務を分担し、作業させています。
僕は代表として決断することと、指示を出すことに集中できます。
これが、僕が医者をしながら会社を運営できている秘訣です。
AIが必要な部分を補うことで、ひとりで法人運営と医者の仕事を並行できるのは、
AI時代ならではなのではないでしょうか?
生きていく上で必要な金銭的な心配を医業で担保しながら将来を見据えた製品を作り、
医者として得た信用と知見から、医療従事者に確実に届く、現場を理解した製品ができると考えています。
将来的にスケールしていけば、新たな人を雇うことも考えていますが、
最初に仲間を集める必要がなくなった。
これが、今のAI時代の起業だと思います。
臆することなく、誰に頼るでもなく、最初の一歩目はひとりで起業できる。
これを後進にも見せていければと考えています。
理想を言うと、開発者の仲間が欲しいです。
よく驚かれるのですが、僕はアプリを作るけれども、一行もコードを書かないですし、ほとんど理解していません。
開発段階でアドバイスしてくれる仲間がいると助かると思っています。
あと、AI開発に詳しい人ですね。
AIに必要な知識はAIに聞くのが一番なのですが、どうしても納得いかない時に専門家に聞けるといいなと思っています。
●AIで音声メモをカルテや紹介状などに変換
Q 展開するサービスの詳細を教えてください。
開発したのは、救急情報一元化アプリ「コエレク」です。
これは、音声で簡単にメモを保存し、その後必要な時に必要な形(例えば救急外来のカルテや紹介状など)にAIが変換します。
後はQRコードを介して、一瞬で電子カルテに貼り付けることができるアプリです。
医療における「覚える」「まとめる」「記録する」を一元管理するアプリです。
現在は、医療用iPhoneアプリとしてリリースしています。
医療現場の課題である記録時間の削減に加え、記録時に必要なメモを代替し、
アプリにメモのように音声で情報を渡しておくと、必要なフォーマットにテキストを構造化してくれる。
現在は、救急医の僕が救急現場で使えるようにとカスタマイズして発売を開始していますが、
在宅診療や通常のクリニックでも「簡単」「スピードが速い」という感想をいただき、
カスタマイズのニーズをいただいています。
今後は、それぞれの診療ですぐに使えるよう変更したバージョンをリリースしていく予定。
【コエレクの革新的機能】
✅ 音声メモ3分 → 構造化カルテが30秒で完成
✅ 記録時間を80%短縮(札幌徳洲会病院にて実証済み)
✅ QRコード1回スキャンで電子カルテに即反映
✅ 救急・外来・在宅診療など、オリジナルのカルテ作成もサポート
「コエレク」シリーズの強みは、一度使えば誰でも簡単に使えることです。
今後救急や医療領域に限らず「観察する」「記録する」の全ての業界に
音声でのサポートが行えることを目指しています。
コエレクでまとめた構造化データは匿名性を保っており、将来的にその蓄積した情報で
「その病院・施設向けのLLM」の開発ができれば、オリジナリティの高い診療のレベルを維持しながら
生成AIの効果を享受することが可能になると考えています。
Q コエレクのエビデンスや学術的視点について教えてください。
AI開発のスピードは目まぐるしく、数日、数時間単位で新しい知見、新しい製品が出てきます。
医療においてエビデンスの重要性は理解しているつもりですが、
それよりも重要なことは早く現場に届き、早く改善することだと考えています。
今回の製品に関するエビデンス自体は、数字ではなくぜひ手に取って実感していただければと思います。
●医師だけでなく、医療現場の他の職種まで展開可能
Q 今後、事業を継続、そして発展していくためにどのような工夫をしていますか?
「コエレク」の1番の強みは、AIを用いた音声入力が簡単に、すぐに届きすぐに使えることです。
今後のマネタイズポイントは、
1)救急以外の医療にもフィットした形で出す
2)介護領域などへの拡大
3)医療で培った安全性をもとに他の業種への展開
4)集積した情報を匿名のままベクトル化することで得られる、ローカルLLM作成と未来予測システムの構築
4)についてはまだ、可能性レベルで個人研究している段階ではありますが、そこまで広がっていけば、
個別最適化されたAIをどこでも作り、運用することが可能になると考えています。
作られたローカルLLMの集積は、大きな知見の鍵になると信じています。
Q 競合やメルクマールとして注目している企業やサービスについて教えてください。
先行している会社はいくつかあります。
Medimo、Kanavo、TXPのSpeech ERなど、大手企業が医療+音声入力に力を入れています。
たくさんの大手競合に単身乗り込んだ気分です(笑)。
Q 他の競合サービスあるいはプロダクトと比較した独自性について教えてください。
他社との決定的な違いとして、大手競合は複雑な設定、高額、現場の実情を理解していないという点がある一方、
コエレクは1回使えばマニュアル不要、現役救急医が現場で開発した実用ツールである点です。
僕の「コエレク」がどこよりも「簡単」に「素早く」結果を出せる理由は、コアバリューにあります。
「医師向けのAI音声入力」ではなく、「観察し記録する人」の「業務負担軽減」を目指しているからです。
医師に特化せず看護師、薬剤師、リハビリ、事務員まで展開可能な汎用性を持たせています。
あえて職業特化でガチガチに作らず、いい意味でルーズな使い方を許容するシステムです。
何よりも小さい会社なので、ニーズに対して即座に対応できることも大きな強みです。
Q 現状のプロダクトやサービスにおける課題感と今後の展望について教えてください。
現状のプロダクトは、まだ進化の途中です。
AIを使わない人にも届けるために、より広く認知を取る必要があります。
今「コエレク」に興味を持っていただいているのは、AIなどの情報キャッチが早いアーリーアダプター層です。
さらにAIに全く興味がない層に実際に使ってもらえるプロダクトにするためには、
広いマーケットに便利さを届ける必要があります。
そのために必要な方策はSNS運用や、医療以外のマーケットリサーチだと考えています。
しかし、人的リソースが限られているので、なかなかすぐに動けないのが現状です。
介護や看護、リハビリ分野での現場に詳しい人間からの情報収集や、
実証実験を行ってくれる場所を今探しているところです。
資金面に関しては、まだ始まったばかりなので見えてこない部分もありますが、
雇用を抱えていないこと、ランニングコストが非常にリーズナブルなことから
「数を確実に売っていくことが必要」と考えています。
そのために、営業リソースとそれに割くための資金が今後必要になってくるかもしれません。
たくさんの人に一度手に取っていただき、その感想をいただくことが、何よりも良い結果を生み出します。
「コエレク」のコアバリューは、「医師向けのAI音声入力」ではなく、
「観察し記録する人」の「業務負担軽減」です。
医療という安全を重視した現場からスタートすることで、広い分野での業務負担軽減につながっていければと考えています。
特に医療分野は「観察して記録する」作業が多いので、今の救急分野に限らず、
カテ室や手術室など清潔操作の場所や、看護、リハビリ、臨床工学技士などにおいても活用が広がればと考えています。
●医師も新しいキャリアにチャレンジする必要がある
Q この記事を読む医師にメッセージをいただけると嬉しいです。
医療現場はすでに逼迫している状況で、今までのままではまずいと考えている医師も多いのではないでしょうか?
「変わらなければ、このままの状態は維持できない」と感じているけれども、最初の一歩が踏み出せない。
まずは、自分から変わってみることが大事だと思います。
今はAIを使えば、他分野も含めて平均的なことを理解して新しいことを始められます。
医療×○○、医師×○○などが非常に流行っていますが、一発正解なんてものはありません。
まずはチャレンジしてみて何度も失敗しながら、当たりを見つけていくことが重要だと思います。
AI活用には「音声入力」が非常に有用です。
ぜひこの機会に「コエレク」も試していただければ幸いです。
まずはお問い合わせください!
その日からお試しが可能なアカウントを発行できます。
一度使うと二度と手放せない体験があります。
昨今、医師のキャリアが多様化してきています。
キャリアに悩む医師も増えてきている印象です。
そんなキャリアの視点でもコメントをいただけると嬉しいです。
医者だけで、今までと同じように食べて生きる時代は終わりました。
医師はその能力の高さから、医療以外でも生き残っていく力があるはずです。
「仲間がいない」「知識がない」は言い訳でしかありません。
まずは一歩、自分が興味のあるところから深掘りして新しいキャリアにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
今までちゃんと培ってきた医者のキャリアは強力です。
少なくとも10年は一般的な医師としてキャリアをきちんと積みながら、
もしくは積んだ上で新しいキャリアを築いていくことをお勧めします。
医師の仕事を自分の生活が潰れないようにきちんとこなしながら、新しいチャレンジをすることで、
より少ないリスクで起業が可能になります。
さらに、医療で培った人脈と信用は他業種では得られない価値になります。
医師としてのキャリアをきちんと積みながら、並行して起業もやる。
両方きちんとこなすことをお勧めします。
Q 事業以外に取り組まれていることがあればご紹介ください。
情報の一元管理で、可処分時間を確保する。
これが僕の個人活動のテーマです。
タスクマネジメントで、個人の可処分時間の増加を作り出す方法を発信しています。
医療におけるAIの活用方法やNotionという情報整理ツールの使用を推し進めています。
タスクマネジメントを行うことで、今まで通りの働き方をより簡単に、より効率よく行えます。
生き方のベースを変えてたくさんの時間を生み出せば、その時間でより深い医療へのアプローチができたり、
新しい知識を得たり、人と会って刺激を受けたりすることができます。
時間は、最も重要な変えがたい資産です。
タスクマネジメントで可処分時間を確保することが、今後の人生をより濃密なものにできると考え、
興味のある方はご連絡ください。
今回は、Wonder Drill株式会社をご紹介しました。
あえて医師向けに特化せず、「観察し記録する人」の「業務負担軽減」を目指すというところは、
働き方改革の中で、医師だけでなく医療現場全体の業務効率化を考える上で、非常に重要な考え方だと感じました。
今後の広がりと開発に期待しています。
参考文献
[1] Wonder Drill
https://wonder-drill.com/
https://medicalai.m3.com/news/251117-interview-koereq