2023年7月22日土曜日
NVIDIA CEO「AIが生活様式を完全に変える」ーCOMPUTEX TAIPEI 2023 レポート 前編
2023年6月24日(土)
5月30日~6月2日までの4日間、台北市の南港展覧館でアジア最大規模のITテクノロジー見本市
「COMPUTEX TAIPEI 2023(以下、COMPUTEX)」が開催された。
コンピュータなどのハードウェアを中心とした展示会としてスタートしたが、
今年は世界で急速に進むAI活用の影響を大きく受け、
それらに必要不可欠なハイパフォーマンス・コンピュータや通信技術、半導体製造に関する発表が多数行われた。
こうした技術は医療やデジタルヘルスの進化にも大きく関わりがあり、
例えば医療用診断AIの進化につながることなどが期待される。
●AIの活用に不可欠な台湾のテクノロジーに世界が注目
医療用診断AIの画像解析に使用されるコンピュータには、
主にGPUと呼ばれる画像処理を得意とするプロセッサが使われている。
その開発で世界トップの地位を誇るNVIDIAは、
AIが必要とする高度な計算処理能力を高めることに特化した次世代GPUと
アクセラレーテッド・コンピューティング・プロセッサ「Grace HOPPER」を基調講演で大々的に披露した。
その開発には、ソフトバンクグループのプロセッサ開発企業Armが関わっており、
同社の既存製品に比べて10倍の性能をより少ない消費電力で処理できると発表。
台湾生まれであり、地元ではスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクよりも人気がある
NVIDIAのCEOであるジェンスン・ファン氏は
「将来的にあらゆるデバイスが AIを動かせるようになり、生活様式を完全に変えるだろう」。
デジタルヘルスやスマート医療に不可欠なコンピュータの多くは台湾で製造されているが、
彼らは高性能な製品を作るだけでなく、そこで使用されるエネルギーを減らし、
熱の放出を減らすといった環境問題にも注目しており、これから世界のトレンドになるだろう。
●医療用コンピュータは台湾の独壇場!?
台湾には、他にもAIの活用に特化した技術やコンピュータを開発する企業が多数存在する。
展示会場ではそうした企業がブースを出展しているが、
医療分野向けのソリューションを取り扱っているところも目に付く。
台湾企業のWincommは、
医療国際規格に対応した手術現場で使用できるタッチパネルPCなどを製造しており、売り上げを伸ばしている。
ここ数年は医療現場でAIの需要が高まっており、
GPUとCPUを組み合わせて画像処理能力を高めた「スマート・メディカルAI」と呼ぶPCシリーズの開発に力を入れている。
人の命に関わる分野だけに性能もさることながら、
とにかく安定して動くことを重要視しており、内視鏡画像診断支援のEndoBRAINシステムにも採用。
医療用PCタブレットを開発するMACTRONは、
アタッチメントを取り換えてカメラやカードリーダーなどの機能を追加できる「MMS0700」を展示。
用途によってデバイスを使い分けるより、本体の操作を共通とし、
ニーズに応じて追加操作をおぼえる方が汎用性が高く、故障にも対応しやすい。
こうした発想の柔軟さも、台湾製品の特徴と言えるかもしれない。
医療現場で使用されるタブレットや検査機器、カメラなども台湾で多く製造されている。
安くて高性能なデジタル機器を開発できることがポイントで、中国との競争がますます激化しそうだ。
●スマホの展示をやめたパソコンメーカーが力を入れるデジタルヘルス市場
多くのIT企業がヘルスケア分野へ参入を進める中、
台湾の大手PCメーカーASUSも本格的な取り組みを見せている。
ハンディタイプの超音波診断装置は、インテリジェントIoTとAI技術を搭載し、
8つのモードで高解像度の画像をリアルタイムで確認できる。
WindowsやiOSにも対応する汎用性の高さもさることながら、
使用する際に患者へ威圧感を与えないようデザインをライトにしているところが特徴。
体重から血圧、血糖値まで生活習慣に関わる複数のデータが測定できるオールインワンの装置であるヘルスハブは、
医療サービスだけでなく、家庭や職場でも使いやすい直感的なインターフェイスを備えている。
ビデオ会議機能を搭載しているので、遠隔でも使用でき、既存のシステムとも連携しやすい。
利用者に問題があった場合に通知する機能もあり、
導入によって看護スタッフの生産性が最大で12.5%向上したという数字も出ている。
デジタル聴診器は複数のメーカーから発売されているが、
ASUSのデジタル聴診器は手軽で使いやすく、モバイル機器と組み合わせて、いつでもどこでも使えるようにしている。
ASUSが開発するスマートウォッチ「VivoWatch」は、
健康やフィットネスに関するモニタリングができるヘルストラッカーとして売り出している。
心拍数、睡眠、血中酸素飽和度、ストレス解消指数などが計測でき、
展示されていた最新バージョンでは時計のフチにあるセンサーを指で押さえることで、
医療レベルの心電図が測定できるという。
測定には少しコツが必要だったが、通常で10日間充電無しで使える点はヘルストラッカーとしてポイントが高い。
さらに手軽なバンドタイプもリリースを予定している。
ヘルストラッカー機能を高めたスマートウォッチは、10日間のバッテリー充電無しで使用できる。
https://medicalai.m3.com/news/230624-report-taipei
新型コロナ禍で若年女性の自殺者が増加、男女の傾向に違い
2023年7月2日(日)
横浜市立大学と慶應義塾大学の研究グループは、
2020年の新型コロナウイルスのパンデミック以降に、
10〜24歳の若年女性の自殺者が増加していることを、厚生労働省のデータで確認した。
研究グループは先行研究で、パンデミック発生後に20〜30代の若年女性の自殺者が
顕著に増加していることを明らかにし、その理由として失業などによる経済的影響を受けやすいためと推測していた。
今回の研究では、非雇用年齢である10代前半でも女性の自殺者が増加していることが明らかになり、
経済的要因の他にも原因があることを示唆する結果となった。
今回の研究では、日本の厚生労働省から提供を受けた死因別死亡数のデータのうち、
2012年7月〜2022年6月までの10年間のデータを分析した。
このデータは死亡診断書に基づくものであり、日本国内のすべての死亡者を対象としている。
対象期間の10年間で、男性9428名、女性3835名が自殺とされている。
分析では、男女別に10〜14歳、15〜19歳、20〜24歳の3種類の年齢層を設定し、
それぞれ6カ月ごとの自殺者数を数えた。
その結果、男性はパンデミック前後で自殺者数に有意な変化はなかったが、
女性の自殺者はパンデミック後に有意に増加していた。
これは、先述の3種類の年齢層すべてに共通する。
結果について研究グループは、男性に比べて女性の方が周囲の人との関係を大切にする点を挙げ、
パンデミックによって他者との接触が減少したことによって精神的影響を受けている可能性があると推測。
女性は家庭内暴力や虐待の対象になりやすいため、
パンデミックによって自宅滞在期間が長くなり、家庭内暴力や虐待の影響が顕在化した可能性もある。
研究成果は6月22日、ランセット精神医学(Lancet Psychiatry)誌にオンライン掲載された。
研究グループは10代、20代の自殺を防ぐには、感染対策や経済対策だけでは不十分であり、
男女でそれぞれ異なる対策が新たに必要だと指摘している。
https://medicalai.m3.com/news/230702-news-mittr
パーキンソン病患者の歩行、電気刺激で改善=名古屋市大など
2023年7月3日(月)
名古屋市立大学、信州大学、京都大学、明治大学、立命館大学の研究グループは、
パーキンソン病による歩行障害に有効な新たなリハビリテーション手法を開発した。
研究グループは、一般的な歩行リハビリテーションの効果を高めるために、
経頭蓋電気刺激を応用したシステムを開発した。
経頭蓋電気刺激は、微弱な電流を頭皮の上から脳に流す電気刺激療法であり、
脳の可塑性を誘発する可能性があるとされている。
今回の研究では、患者一人一人異なる歩行リズムに同期した電気刺激を加える装置を開発し、
パーキンソン病患者を対象に試験を実施した。
試験ではパーキンソン病患者23人を無作為に2つのグループに分け、
一方には今回開発した機器による電気刺激を加え、
もう一方には偽の刺激を加えた。
4分間の歩行リハビリテーションを3回繰り返す試験を週2回、5週間(合計で10回)、外来で実施した。
歩行の様子は、歩行速度、遊脚期時間、立脚期時間、歩幅などから試験開始前後に評価。
すくみ足については質問紙を使って評価した。
試験の結果、今回開発した機器による電気刺激を加えたグループは、
偽の刺激を加えたグループと比較して歩行速度と歩幅が有意に改善したという。
歩行中の左右の遊脚期時間の割合から算出した対称性指数(0.5が左右対称であることを示す)や、
すくみ足症状に対する主観的な感覚も、有意に改善したとしている。
研究成果は6月9日、「神経学、脳神経外科学および精神医学ジャーナル
(Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry)」誌にオンライン掲載。
研究グループは、パーキンソン病患者の歩行障害は、従来の治療法ではあまり効果が期待できなかったが、
個別の歩行リズムに合わせた脳電気刺激が効果を発揮する可能性を示したとしている。
https://medicalai.m3.com/news/230703-news-mittr
他者に「共感」する時の脳の仕組み、マウス実験で解明=東大
2023年7月9日(日)
東京大学の研究チームは、怖いという気持ちを「共感」するときの脳の働きを、マウスを使って解明。
前頭前野という脳領域に、自分と他者の感情の情報を、
同時に合わせ持って表現する神経細胞が存在することを発見した。
マウスを用いた観察恐怖行動実験では、電気ショックを与えられ、
恐怖反応を示す他者マウスを見て、観察マウスも恐怖反応を示す。
これまでの研究は、観察マウスがその場でうずくまって震える「すくみ行動」に着目して
神経メカニズムを解析しており、すくみ行動以外の多様な行動の神経メカニズムについては不明な点が多かった。
研究チームはまず、観察恐怖行動中に観察マウスが示す複雑な行動を、
客観的に自動分類する手法を確立。
腹内側前頭前野(vmPFC)に光遺伝学的抑制(光を当てることで特定の神経細胞を興奮または抑制させる手法)を
施した観察マウスの行動を解析し、vmPFCの神経入力は主に「逃避行動」の制御に関わることを明らかにした。
観察マウスのvmPFCの神経細胞が持つ情報を調べるため、
観察恐怖行動実験中に脳の神経活動を観察できる「脳内内視鏡を用いたカルシウムイメージング」を実施。
vmPFCの神経細胞は観察マウスの行動状態の情報を持っていること、
他者マウスの電気ショックに応答する神経細胞がvmPFCに存在すること、
さらに、両者が重なっていることを示した。
研究論文は、英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」の
オンライン版に2023年7月3日付けで掲載。
https://medicalai.m3.com/news/230709-news-mittr
「チャットGPT検出」は簡単に騙せる、14ツール調査で判明
AI-text detection tools are really easy to fool
チャットGPTを使って学生が課題を書き上げてしまうのではないか、との懸念が教育現場で広がっている。
AI生成文書を検出すると謳うAIシステムは有効なのか?
その正確さを評価した研究結果が発表された。
by Rhiannon Williams2023.07.12
「チャットGPT(ChatGPT)」がリリースされてから数週間は、学生たちがこのチャットボットを使って、
まずまずの小論文を数秒で書き上げるのではないかとの懸念があった。
そうした懸念に応え、いくつかのスタートアップ企業が、
人間の書いた文章なのか、それとも機械が書いた文章なのか見分けられると謳う製品を作り始めた。
だが、問題がある。
新しい査読前論文によれば、そうしたツールを騙して検出を回避するのは比較的簡単なのだ。
ベルリンの応用科学大学(HTW)でメディアとコンピューティングの教授を務めるデボラ・ウェーバー・ウルフは、
さまざまな大学の研究者グループと協力し、
「ターニティン(Turnitin)」
「GPTゼロ( GPT Zero)」
「コンピラティオ(Compilatio)」など14の検出ツールについて、
オープンAI(OpenAI)のチャットGPTによって書かれた文章を検出する能力を評価した。
それらのツールのほとんどは、繰り返しなどといった人工知能(AI)が生成したテキストの特徴を探し、
そのテキストがAIによって生成された可能性を計算する仕組みだ。
研究チームは、チャットGPTが生成した文章に人間が少しだけ手を加えたり、
語句言い換えツールで難読化したりすると、評価したすべてのツールで、
チャットGPTで生成された文章が検出されにくくなることを見い出した。
学生たちは、AIが生成する小論文に少し手を加えるだけで、
検出ツールをかいくぐることができるということだ。
「これらのツールは使い物になりません」と、ウェーバー・ウルフ教授は言う。
「できるとされていることをしません。AI検出器とは言えません」。
研究者たちはツールを評価するにあたって、
土木工学、コンピューター科学、経済学、歴史学、言語学、文学など、
さまざまなテーマについて学部レベルの短い小論文を書いた。
それらの小論文は、すでにネット上に存在する文章ではないことを確実にするため、
研究者たちが自ら書きおろした。
同じテキストがネット上に存在した場合、すでにチャットGPTの訓練に使われている可能性があるからだ。
それから各研究者は、ボスニア語、チェコ語、ドイツ語、ラトビア語、スロバキア語、スペイン語、
またはスウェーデン語で追加の文章を書いた。
これらの文章は、AI翻訳ツールの「ディープL(DeepL)」か「グーグル翻訳」のいずれかを使って英語に翻訳された。
研究チームは次に、チャットGPTを使ってそれぞれ2つずつ追加で文章を生成し、
AIが作成したことを隠すため文章に少し手を加えた。
1つは、研究者たちが手作業で文の順序を変えたり、単語を入れ替えたりするなどの編集を加えた。
もう1つは、AI語句言い換えツール「クィルボット(Quillbot)」を使って書き直した。
最終的に54の文書を用意し、検出ツールのテストに使用した。
テストの結果、ツールは人間が書いた文章の識別は得意だが(平均96%の正確さ)、
AIが生成したテキスト、特に編集された文章を見分けることに関しては、かなり苦戦することがわかった。
それらのツールは74%の正確さでチャットGPTの文章を識別したが、
チャットGPTが生成した文章に少し手が加えられている場合、42%に低下したのだ。
この種の研究は、大学が現在実施している学生の課題の評価方法が、
いかに時代遅れであるかということも浮き彫りにしていると、
南オーストラリア大学で機械学習とAIモデル構築を研究するヴィトミール・コヴァノヴィッチ上級講師は言う
(同講師は今回のプロジェクトに関わっていない)。
今回のプロジェクトには関わっていない、自然言語生成を専門とするグーグルの上級研究科学者、
ダフネ・イッポリトは、別の懸念を提起する。
「自動検出システムを教育現場で採用するのであれば、
そのシステムの誤検出率を把握することが極めて重要です。
誤って学生を不正行為で告発してしまったら、その学生の学業キャリアに悲惨な結果をもたらしかねない。
検出漏れの率も重要です。
AIによって生成された文章が、人間が書いたものとして合格してしまうケースが多すぎるようであれば、
その検出システムは役に立たないからです」。
研究者たちがテストしたツールの1つを作っている企業、コンピラティオは、
自社のシステムについて、疑わしい一節を示すだけのツールであることを心に留めておくことが重要だ。
疑わしい一節とは、盗用の可能性がある文章、
またはAIによって生成された可能性のある内容として分類されるコンテンツのことである。
「実際に文書の執筆者が習得した知識であることを検証したり認めたりするのは、
分析された文書に成績を付ける学校と教師の手に委ねられます。
口頭での質問や、管理された教室環境での追加質問など、
追加的な調査方法を導入することが考えられます」と、コンピラティオの広報責任者は述べている。
「このように弊社のツールは、優れた研究や執筆、例証の実践について学ぶことを促す、
本物の教育的アプローチの一部なのです。
是正補助ツールであって、是正ツールではありません」と、
同社の広報責任者は付け加えた。
ターニティンとGPTゼロにもコメントを求めたが、すぐに返答はなかった。
AIが書いた文章を検出するためのツールが、必ずしも想定通りに機能しないことは、しばらく前から知られていた。
オープンAIは今年、チャットGPTによって作り出された文章を検出するように設計されたツールを発表したが、
AIが書いた文章を「AIが書いた可能性がある」と警告したのは、26%に過ぎなかったことを認めている。
オープンAIは、MITテクノロジーレビューの取材に対し、
同社Webサイトの教育者向けセクションを参照するよう回答した。
AIが生成したコンテンツを検出するように設計されたツールは、
「絶対確実とは決して言えません」という警告が書かれている。
そのような不具合があっても、企業は、AIの生成した文章を検出すると謳う製品を
あわてて世に出そうとするのをやめていないと、メリーランド大学のトム・ゴールドスタイン助教授は言う
(同助教授も今回の研究には関与していない)。
「それらのツールの多くは非常に正確というわけではありませんが、全部が大失敗とも言えません」と、
ゴールドスタイン助教授は付け加え、ターニティンの誤検出率はかなり低く、
ある程度の正確さを達成できていると指摘する。
AIテキスト検出システムの弱点に光を当てる研究は非常に重要だが、
研究対象をチャットGPT以外のAIツールにも拡大したことも有益であっただろうと、
AIスタートアップ企業であるハギング・フェイス(Hugging Face)の研究者、サーシャ・ルッチョーニ博士は言う。
コヴァノヴィッチ上級講師の考えでは、AIが書いた文章を見破ろうというアイデアそのものが間違っている。
「AIが書いたことを検知しようとするのではなく、AIの利用に問題がないようにすることが重要です」と、同講師。
https://www.technologyreview.jp/s/311986/ai-text-detection-tools-are-really-easy-to-fool/
健康改善のヒントは便の微生物から?
2023年7月11日(火)
ヒトが食べたものは、腸内のマイクロバイオームの状態を変化させる。
便から採取したマイクロバイオームを分析することで、
その人に合わせた健康改善へのアドバイスを作れるかもしれない。
糞便はトイレに流すほかにも、いろいろと使い道がある。
人間の排泄物には通常、体が排除しようとしているものが含まれている。
排泄物からは、腸内マイクロバイオームとそれが私たちの健康に
どのような影響を与えるかについての洞察を得ることもできる。
個々の食物が与える影響についても解明されつつある。
腸内マイクロバイオームとは、ヒトの腸内に生息する微生物叢と、その遺伝情報のことである。
マイクロバイオームを構成する微生物は、最終的に私たちの便に行き着くことになる。
微生物が生成する多くの化学物質も同様だ。
このようなデータを収集し、そこに何らかの意味を見いだす点において科学者の能力は向上している。
4月末、興味深い研究を見つけた。
アボカド、クルミ、ブロッコリーなど、特定の食品を食べたかどうかを、
その人の便を分析するだけで見分けようとする研究だ。
食品によっては、その正解率は80パーセントを超えていた。
この研究を手掛けた科学者は、この手法を研究に役立てたいと考えている。
同じ手法を健康増進のために利用できるかもしれない。
便を分析して、一人一人に合った、マイクロバイオームに基づく食事アドバイスを提供したいと考えている研究者もいる。
私たちの腸内には何十億もの微生物が生息しており、マイクロバイオームの構成は食事と関連している。
菜食主義者と肉類をたくさん食べる人では、腸内に生息する微生物が異なる。
それは、微生物がエサのあるところに住み着くためだろう。
特定の食品やその分解産物で繁殖する微生物もいる。
その詳細に目を向けると、食生活、マイクロバイオーム、そして健康の関係は、まだ正確には解明されていない。
マイクロバイオームの変化は、過敏性腸症候群、パーキンソン病、関節炎など、
さまざまな病気と関連していることが分かっている。
昨年、イスラエルのワイツマン科学研究所のエラン・エリナフ教授のチームは、
甘味料が人間のマイクロバイオームに影響を与え、その変化が体の糖に対する反応を変化させることを示した。
この変化したマイクロバイオームをマウスに糞便移植すると、そのマウスにも同じ問題が起きることがわかった。
このような研究は、私たちがマイクロバイオームを良い方向へ変化させることができる可能性を示している、
とキングス・カレッジ・ロンドンで食事が代謝に与える影響を研究しているサラ・ベリー主任。
遺伝子や食事を摂る時間などの要因も、食生活の健康への作用に影響を与えるが、
マイクロバイオームは「解明する上で非常に重要な鍵」だとベリー主任。
ベリー主任の研究チームは、食生活がマイクロバイオームにどのように影響し、
人々の健康にどのように影響するかを正確に解明しようと試みている。
それを調べるために、ベリー主任の研究チームは便に注目している。
チームは現在進行中の研究の一環として、1000人を超えるボランティアから糞便サンプルを、
食生活情報や健康データと合わせて収集している。
2年ほど前、同研究チームは、マイクロバイオームを調べることで、
その人が食べたものが分かる可能性があることを示した研究論文を発表した。
その研究では、研究チームは糞便中の微生物の存在を調査した。
次にその微生物と、その人の食生活における果物、豆類、「健康な植物」など
特定の食品群の有無との関連づけが試みた。
特定の食品に関連する特定の微生物を見つけるのは大変だったが、
ある特定の微生物の存在は、その人がコーヒーを飲んでいたかどうかを示す強力な指標であると分かった。
基本的に、コーヒーを飲む人であれば、糞便に含まれる微生物から分かってしまうということだ。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のハンナ・ホルシャー准教授のチームによる新しい研究は、
やや異なる方法を採った。
ホルシャー准教授の研究チームは、毎日特定の食品を一定量ずつ食べたボランティアから採取した糞便サンプルを調べた。
微生物の存在そのものを調べるのではなく、
微生物が食物を分解するときに生成する化学物質である代謝産物の存在を調べた。
研究チームは、アーモンド、アボカド、ブロッコリー、クルミ、大麦、オート麦の6つの特定食品が及ぼす影響について調べた。
便の中にある代謝産物と、特定の人がこの6つの食品のいずれかを摂取したか否かとの間に、
何らかの関連があるか調べた。
特定できたパターンをもとに、他の人が同じ食品を摂取したか否かを推測した。
これも大変な作業だったが、
研究チームは人々がアーモンド、ブロッコリー、またはクルミを食べたか否かを、
80~87パーセント(食品によって異なる)の正確さで判別できた。
この研究は、査読前論文(プレプリント)サーバーのバイオアーカイブ(bioRxiv)でオンライン公開されたが、まだ未査読。
この研究は、同研究チームが昨年発表した同様の研究の結果に基づいて実施したものだ。
この種の研究は、糞便分析の将来の可能性を垣間見せてくれる。
まだ始まったばかりで、検査の正確さは今後数年で向上していく可能性が高い。
個々の食品が私たちのマイクロバイオームや健康に与える影響を理解できるようになれば、
研究や栄養学に革命をもたらすかもしれない。
「これは本当に次なるフロンティアです」と、ベリー主任の研究論文の共著者で、
その人に合った栄養改善アドバイスを提供するアプリ「ゾーイ(Zoe)」の栄養科学者、エミリー・リーミング主任。
ホルシャー准教授の研究チームは、栄養学の研究を改善したいと考えている。
特定の食品が私たちの健康に及ぼす影響を解明しようとする研究では、
ボランティアに食事日記をつけてもらうことが多い。
食事日記を毎日つけるのは面倒で、不正確だったり、不完全だったりすることが多い。
代わりに便の分析が、いつの日か面倒がかからない代替手段となる可能性がある。
糞便分析の活用で、人の健康をより直接的に改善できるようになるかもしれない。
ベリー主任の研究チームは、便サンプルの分析から推定できるマイクロバイオームの状態から、
その人に合った食事アドバイスを作成する方法を研究している。
理論的にはいつの日か、特定の微生物をターゲットにした食事アドバイスを提供し、
食欲や代謝、さらには気分にさえ影響を与えるような特定の代謝産物の生成を導くことが可能になるかもしれない、
とリーミング主任は言う。
「ヒトの便から学べることは、とてもたくさんあります」
あなたのマイクロバイオームはあなたと同じように老化する。
昨年こちらで報じたように、科学者は腸内細菌叢を若々しく維持することの潜在的な利益を探っている。
私たちのマイクロバイオームに含まれる細菌を操作することで、がんを治療できるだろうか。
その実現を目指す研究グループが、マウスで有望な結果を得て、今後数年以内にヒトへの臨床試験を開始する予定だ。
マイクロバイオームに影響を与えるのは食品だけではない。
気掛かりなことに、マイクロプラスチックが海鳥のマイクロバイオームに影響を与えているようだ。
テクノロジーが私たちの食生活を変えている。
2020年に本誌のエイミー・ノードラム編集者が報じた記事にあるとおり、
食物の栽培、加工、調理、輸送の方法の進歩によって、私たちが食べるものや食事方法に変化が起きている。
体重が減ったら、減った分はどこへ?
その答えは、ボニー・ツイによる2022年の記事で分かる。
https://medicalai.m3.com/news/230711-news-mittr
スマートウォッチでパーキンソン病リスクを最大7年前に特定
2023年7月13日(木)
パーキンソン病の多くは、震戦や動作の緩慢といった運動症状に基づき診断される。
これらの主症状が出現する前の前駆期に早期診断することで、
疾病管理と予後の改善が期待されている。
英カーディフ大学の研究チームは、スマートウォッチの加速度計を用いたウェアラブル技術により、
臨床診断の最大7年前にパーキンソン病の発症を予測できる可能性を明らかにした。
Nature Medicineに掲載された同研究では、
加速度計データを学習に用いた機械学習モデルについて、前駆期パーキンソン病の予測性能を、
UK Biobankに登録された一般集団で検証している。
結果として、この加速度計に基づく予測モデルは、
データバンクに登録された他の予測因子(遺伝・ライフスタイル・血液生化学検査・前駆症状)を上回る
前駆期パーキンソン病の発症予測能力を示し、最大で臨床診断の7年前に識別可能であるとしている。
著者でカーディフ大学認知症研究所のCynthia Sandor氏は、
「臨床診断前における加速度の低下はパーキンソン病特有の現象であり、
我々が調査した他の疾患では観察されなかった。
何百万人もの人々が毎日使用しているスマートデバイスを通じて加速度データを収集することで、
前例のない規模でパーキンソン病リスクを持つ人々を特定することが可能になる」。
参照論文:
Wearable movement-tracking data identify Parkinson’s disease years before clinical diagnosis
https://medicalai.m3.com/news/230713-news-mat
うつ病治療を変革する脳内バイオマーカー研究
2023年7月14日(金)
世界保健機構(WHO)によれば、全世界で約2.8億人がうつ病に罹患しているという。
抗うつ薬の治療効果が全ての患者には及ばないという課題が残る一方で、
米リーハイ大学の研究チームは、機械学習技術を利用して脳内バイオマーカーを確立し、
より個別化されたうつ病治療の道を拓こうとしている。
この研究は、米国立精神衛生研究所(NIMH)から大規模な助成金を獲得して行われている。
チームは、患者のfMRI画像データと脳波を抗うつ薬治療前後で収集し、
二重盲験無作為化比較試験を通じて得たデータから、
薬物治療の効果を客観的に評価するためのバイオマーカーを特定しようとしている。
この手法により、それぞれの患者がどの程度抗うつ薬に反応するか、
あるいは反応しないかを予測できる可能性がある。
特に同研究では、認知ワーキングメモリと感情制御に関連する脳内ネットワークの相互作用に焦点を当て、
ここから新たなバイオマーカーを検出しようとしている。
AIが提示するこれらのバイオマーカーは、
現在の試行錯誤的なうつ病の治療戦略を置き換える可能性を秘めており、
それぞれの患者に対して個別化された治療アプローチを提供することが期待されている。
研究を率いるリーハイ大学のYu Zhang氏は、
「従来のうつ病診断と治療は、主観的な症状を組み合わせてきたが、患者ごとにバラつきは大きい。
我々が目指すのは、脳の機能障害をより適確に捉える客観的なバイオマーカーを構築することだ。
本研究により、メンタルヘルスの状態は再定義され、大きなブレークスルーがもたらされるだろう」。
https://medicalai.m3.com/news/230714-news-mat1
スマートフォンカメラで血圧測定を可能にする格安アタッチメント、精度も実用化が視野に 米研究
2023年7月20日(木)
カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、
スマートフォンのカメラを使用し血圧を測定できるアタッチメント「BPClip」を発表。
カメラ正面に指を固定できる仕様で、安定的に血流を把握できるという。
同校のEdward Wang教授が主宰する「デジタルヘルスラボ」が開発したこのアタッチメントは、
スマートフォンのカメラ周囲に取り付けるアタッチメント。
血圧を測る際は、スマートフォンを心臓の高さに保持してから、
人さし指をアタッチメント背面のくぼみに押し当てる。
押し当てることにより、指先がスマートフォンカメラのライトで照射され
「赤い円」としてカメラに映し出される。
同時に開発した解析アプリが、赤みの強さで指先の血液の量と変異を解析し、
収縮期血圧と拡張期血圧に変換するという。
精度については、収縮機血圧が80~156mmHg、拡張期血圧が57~97mmHgの24人の被験者で検証した結果、
標準的なカフによる血圧計と比べて、収縮期血圧、平均血圧、拡張期血圧それぞれについて、
平均絶対誤差(MAE)は8.7±10.0、8.4±10.3、5.5±7.0mmHg、バイアスは1.72、0.79、0.3mmHgだった。
肌色によって結果が偏っているかどうかを調べるため、
アジア系、ヒスパニック系、白人グループに分けて解析すると、
SBPについてはそれぞれ7.7±4.2、8.6±5.2、10.2±6.9、DBPについてもそれぞれ4.5±4.6、9.5±6.4、6.5±2.9となり、
有意差はなかった。
BPClipのパーツは3Dプリンターで制作可能で、
現在のコストでも1つあたり0.8ドル(80セント)で制作できるとしており、
ラインを組めば0.1ドル(10セント)まで下げられるという。
開発に関わっているデジタルヘルスラボ所長のEdward Wang教授は、
「安価なので、血圧のモニタリングが必要だが、定期的にクリニックに通うことができない人に配ることができる」。
歯科検診でフロスや歯ブラシをもらうのと同じように、
血圧モニタークリップを検診で渡すことができるようになるとした。
論文の共著者であるアリソン・ムーア氏は、
「標準的な血圧計は正しく装着するのが難しく、
このデバイスを使えば高齢者でも容易に血圧を自己測定できる可能性がある」としており、
今後は測定精度のさらなる向上とともに、
より高齢者に使いやすくするようユーザビリティの改良も続けていくとしている。
論文リンク:Ultra-low-cost mechanical smartphone attachment for no-calibration blood pressure measurement(Scientific Reports)
適度な運動が高血圧を改善する仕組みを解明=国リハなど
2023年7月13日(木)
国立障害者リハビリテーションセンター、東京大学、循環器病研究センターなどの共同研究チームは、
ラットを用いた実験とヒト成人を対象とした臨床試験で、
適度な運動が高血圧改善をもたらすメカニズムを発見。
頭部への物理的衝撃を高血圧者(ヒト)に適用すると、
高血圧が改善することを世界で初めて明らかにした。
ラットで高血圧改善効果が示されている中速度(分速20メートル)走行では、
前肢の着地時に頭部に約1Gの衝撃が生じることがこれまでの研究で分かっている。
研究チームは今回、麻酔した高血圧ラットの頭部に1Gの衝撃がリズミカルに加わるように、
毎秒2回頭部を上下動させる実験を実施。
脳内の組織液(間質液)が動くことにより、脳内の血圧調節中枢の細胞に力学的な刺激が加わり、
血圧を上げるタンパク質(アンジオテンシン受容体)の発現量が低下し、血圧低下が生じることが分かった。
座面が上下動することで、1Gの上下方向の衝撃がヒトの頭部に加わるように設計された椅子を作成。
1日30分間、1週間に3日、1カ月間搭乗すると、
高血圧改善効果、交感神経活性抑制効果があり、
搭乗期間の終了後も、約1カ月間は高血圧改善効果が持続することが分かった。
「適度な運動」の効果はこれまでに、高血圧改善に限らず、認知症、うつ病をはじめ
多くの脳機能関連疾患の症状・障害の軽減・改善で、統計的に証明されている。
今回の研究結果は、適度な運動による健康維持・増進効果において、
運動時に頭部に加わる適度な衝撃が重要である可能性を世界で初めて示すものであり、
寝たきりの高齢者や肢体不自由障害者にも適用可能な擬似運動治療法の開発につながる可能性がある。
研究論文は、ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング(Nature Biomedical Engineering)に
2023年7月6日付けで掲載された。
https://medicalai.m3.com/news/230713-news-mittr?dcf_doctor=false&portalId=mailmag&mmp=AI230721&mc.l=974544334
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