2019年12月2日 (月)配信読売新聞
年齢とともに食が細れば、筋力が低下し、
やがては出かけるのも面倒になって、ひきこもりがちに――。
早いうちにフレイルになってしまわないための予防策として、
まずは「食」に注目する。
栄養バランスに気をつけるのは当然として、
特にたんぱく質を豊富に含む「肉」がカギを握っている。
シニアの食をテーマにした料理教室「健康寿命をのばす元気ごはん」が
横浜市内で開かれた。
メイン料理は、「鶏むね肉のクリスピー焼き」。
鶏むね肉は安価だが、肉の中でも良質なたんぱく質を多く含む。
シニアに不足しがちなたんぱく質を補い、低栄養を防ぐ狙い。
「鶏、豚、牛、なんでも食べるよう心がけている。
なるべく長く元気でいたいから」。
北川澄代さん(76)は、夫に先立たれ、2年ほど前から独り暮らし。
6年前に心臓の手術をし、食事には人一倍気を付けている。
魚や野菜とバランスを取りながら、肉も週に300gは食べる。
主催する「ベターホーム協会」(東京)は、全国で料理教室を展開、
シニア対象の教室も開いている。
フレイル予防につながる肉料理も積極的に紹介、
一食でたんぱく質を30g程度摂取しながら、塩分は3g以下に抑えるよう工夫。
東京都健康長寿医療センター研究所の新開省二・副所長は、
「年をとったら粗食がいい、と考えている高齢者は少なくない。
でもそれは間違い。
フレイルを防ぐには、肉も敬遠せずに食べることが大切だ」
◆フレイル予防、まずは知識から
JR甲府駅前で、オレンジ色のTシャツを着た栄養士や看護師らが
高齢者に呼びかけ、筋肉量や食べ物をのどの奥に送る力を示す
舌圧の測定などが行われた。
医療関係者がつくる一般社団法人「WAVES Japan」(東京)の取り組み。
最近、やせてきて体力の低下を感じていた内藤和子さん(75)は、
スタッフから「低栄養です。たんぱく質もしっかりとりましょう」と助言。
肉があまり好きではなく、たくさん食べられないのが悩みといい、
「自分の力で生活していきたいが、体力が落ちてきて不安だった。
現状をチェックしてもらい、改めて、お肉もあと2口多く食べようと思えた」
同法人は2015年から、全国でこうしたイベントを計30回開催、
参加者は計1万5000人。
発起人の藤田医科大学(愛知)の東口高志教授は、
「高齢者は、圧倒的にたんぱく質が足りない。
栄養について知識を得てもらうことが、フレイル予防に大きな効果がある」
◆食べるためには、口や歯が大切
「80歳になっても肉をしっかり食べて、健康寿命を延ばそう」
そんなスローガンを掲げるのは、千葉県歯科医師会。
昨年、フレイル予防のための「8029(ハチマル肉)運動」をスタートさせた。
イベントに参加した本田セツさん(84)は、
骨密度や口腔機能のチェックをした後、
会場で振る舞われたローストポークをおいしそうにほおばった。
3日に1度は、カレーや煮物など肉を取り入れた料理を食べるといい、
「いつまでも、しっかりお肉を食べるためにも、
口や歯の力が衰えないように気を付けないと」
厚生労働省が今年示した食事摂取基準の改定案でも、
高齢者について、肉や魚などのたんぱく質を多く摂取する重要性を強調。
65歳以上は、毎日、体重1kgあたり1g以上のたんぱく質をとることが望ましい。
老化を防ぐ食事を研究している「全国食支援活動協力会」理事の熊谷修さんは、
「魚にもたんぱく質は豊富だが、肉は油の一種である飽和脂肪酸が多く、
少量でもエネルギーとたんぱく質の両方を効率よく摂取できる。
肉を食べると、栄養状態の指標であるアルブミン(血中の主要たんぱく質)の
数値も上昇する。
高齢者はむしろ、積極的に肉や油を取り入れた方がいい」
◆たんぱく質、魚や大豆製品などからも
▽東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢教授
フレイルは、加齢に伴って心身が衰える状態。
栄養と運動、社会参加を意識し、予防や改善を進めてほしい。
退職したり、子供が独立したりすると、
高齢者は社会とのつながりが薄れる。
入院などで寝たきりのような生活をすると、
普通ならば7年かけて落ちていく筋肉が、わずか2週間で失われる。
筋肉の維持に、材料となるたんぱく質が大事であることは知っている。
朝ご飯の献立を聞くと、白身魚を数口分と、みそ汁の豆腐だけが多い。
たんぱく質を取ってはいますが、量が足りない。
たんぱく質は1日に、体重1kgあたり1g以上とされるが、
実際は1・2~1・5g取ってほしい。
60kgの人で70~90g。
ステーキ200gに35g程度含まれ、1日に2枚食べるのは難しい。
魚、大豆製品など多くの種類から取ってください。
卵はお薦め。
メタボ健診(特定健診)が定着し、食事の量は控えめが望ましい、という意識が浸透。
しかし高齢者の場合、やせている方が中肉中背より死亡の危険性が高い、
というデータがある。
「やせなければ」と過度に思う必要はない。
運動はスクワットのほか、山登りや坂歩きのように、
体がきついと感じる内容が、太ももを鍛えられて有効。
私たちの研究では、高齢者は運動だけをする人よりも、
囲碁・将棋などの文化活動と、ボランティアなどの地域活動を
両方している人の方が、フレイルになっている可能性が低い。
まずは、好きな活動を続けることが大事。
食事は1人より友人と一緒の方が、多く食べられる。
会話や雰囲気もおかずの一つ。
友人を積極的に作る努力をしましょう。
行政には、住民が参加しやすい地域づくりが求められる。
むせることが増える、かむ力が弱まる、といった口の働きの衰え
(オーラルフレイル)も見逃せない。
硬い肉を食べにくくなる、滑舌が悪化して交流を避けるようになる、
といった悪影響が出る。
気付かない間に進んでいるので、歯科医に診てもらってください。
https://www.m3.com/news/general/714074