2022年4月14日木曜日

若者の活動量を増加させる「デジタルヘルスプログラム」

2022年4月1日(金) Fitbitとテキストベースのヘルスコーチングによるデジタルヘルスプログラムが、 10代の若者の身体活動量を向上させたとする研究成果が公表された。 米テキサス工科大学などの研究者らによる本研究論文は、JMIR Pediatrics and Parentingからこのほど公開。 研究論文によると、13歳から18歳までの肥満傾向にある28名を対象とし、 12週間のプログラム期間中、1時間の活動または10,000歩を日々の目標として介入した。 ウェアラブルデバイスによる活動量モニタリングに加え、テキストベースのコーチングを継続して行なっている。 プログラムには「週ごとの個人目標」の設定があり、目標達成では現金によるインセンティブを受け取ることができる。 結果、研究参加者は平均して7週間は活動目標を達成しており、またFitbitの日毎装着率は90%を超えていた。 著者らは「デジタルヘルスプログラムによる介入で、活動時間に有意な改善がみられたこと」を強調。 近年、ウェアラブルデバイスを用いた健康プログラムは多数提唱され、一定の成功をみているが、 社会経済的地位の低い群で有効性が乏しい可能性が示されるなど、 対象者とそれに応じたプログラム設計の重要性が指摘されている。 本研究はサンプルサイズが小さく、一般化可能性の議論に制限はあるが、 若年者に対する有効なモニタリング手法の一案として、 また金銭的インセンティブの生むモチベーション向上効果について示唆的な論文とも言える。 https://medicalai.m3.com/news/220401-news-mat1

AIによる「大腸がん検診の受診勧奨」

2022年4月5日(火) 大腸がん検診は、多大な科学的エビデンスに支えられ、 悪性所見の早期発見、および生命予後の改善に大きな役割を果たしている。 しかし、対象となる患者の多くが大腸がん検診を受けていない現実がある。 米ペンシルバニア州に本拠を置く大規模ヘルスケアプロバイダーの「ガイシンガー・ヘルス・システム」は、 Medial EarlySign社との協働により「大腸がん検診の受診期限を過ぎた患者を特定し、機械学習アルゴリズムを用いて 患者情報から最もリスクの高い者にフラグを立てる」取り組みを行なっている。 研究成果は、NEJM Catalyst Innovations in Care Deliveryからこのほど公開。 本研究論文によると、このAIアルゴリズムによって「フラグを立てられた患者」の68.1%が 大腸内視鏡検査の検査予定に結び付き、およそ70%には有意な所見が見つかったとしている。 本取り組みの中では、AIによるリスクスクリーニングの結果を電話で看護師が説明する、というプロセスを取っている。 一方、これまでは大腸がん検診の受診勧奨に効果的なアプローチは限られていたため、 州・国家規模でのヘルスケア向上に向けた巨大な一歩として注目を集めている。 https://medicalai.m3.com/news/220405-news-mat2

音声テキストのみでPTSDをスクリーニングするAI研究

2022年4月13日(水) 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生死に関わるような極めて強いストレス後に、 フラッシュバック・抑うつ・回避行動・過覚醒などをきたす精神疾患である。 COVID-19パンデミックを経て、医療従事者など特定職域でPTSDを含むストレス関連疾患が増加したことや、 感染からの回復者にPTSDの診断を受ける者が一定割合でみられることなどを背景に、 世界的な罹患率増加が観測されている。 医療へのアクセス困難が今後も起こり得る状況に対し、PTSDの診断を補強するための遠隔スクリーニングツールが検討され、 カナダ・アルバータ大学のチームからは「音声テキストからPTSDを約80%の精度で検出する機械学習モデル」が公表された。 Frontiers in Psychiatryに発表された同研究では、 PTSDの診断を持たない188名と、PTSD患者87名を対象とし、人工キャラクター「エリー」とビデオ通話でインタビューを行い、 得られた音声テキストから感情を分析するAIモデルのトレーニングを行った。 センチメント分析と呼ばれる、テキストの感情的特徴やポジティブ/ネガティブな考えを分類する機械学習手法を用い、 PTSD患者に特有の中立的あるいは否定的な考え方を話す頻度をスコア化することで、 スクリーニングツールとしての性能を発揮している。 アルバータ大学のインタビューに対し、プロジェクトを率いたJeff Sawalha氏は 「先行研究と同様に、PTSD患者は中立的で感情を麻痺させて多くを語らない傾向があり、 一方ではネガティブな感情を表現する患者もいる」と説明する。 音声テキストデータのみでPTSD患者を識別するという成果から発展し、 チームではアルツハイマー病や統合失調症など言語的特徴が強い精神神経疾患をさらなる分析対象として検討。 https://medicalai.m3.com/news/220413-news-mat

ロボットによる歩行訓練でALS患者の歩行機能が21.7%改善 東邦大学とサイバーダイン

2022年4月13日(水) 難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者に、 日本のベンチャーが展開する生体電位信号を活用した歩行訓練ロボットによる歩行訓練に取り組んでもらったところ、 歩行能力に一定の改善効果が認められたと、東邦大学の研究チームが発表。 根治療法のないALSに対する医療的介入で、何らかの改善が見られたとの成果は世界初とみられる。 研究成果を発表したのは、 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野 森岡 治美助教(任期)、平山 剛久講師、狩野 修教授、 同医学部リハビリテーション医学研究室の海老原 覚教授らの研究グループ。 ALSは、脳・脊髄などに存在する運動ニューロンが障害される進行性の神経変性疾患であり、 発症すると筋力低下にともなう運動障害、嚥下障害、呼吸障害などを引き起こす。 現在、この運動ニューロン障害を止め、改善する根治療法が存在しないため、 予後が3~5年と短く、致死的疾患として喫緊に解決されるべき医療課題となっている。 研究チームでは、サイバーダイン(東京都)が展開する歩行訓練ロボット「HAL®️医療用」による 歩行訓練を患者11人に取り組んでもらい、 訓練前後で歩行能力にどのような変化があったかを観察した。 同ロボットは、皮膚表面の神経筋活動の生体電気信号(BES)に従って、物理的な歩行支援を行う独自の装着型外骨格ロボット装置で、 重度障害においても随意的および自律的な歩行訓練が可能であるため、 従来の理学療法と比較しても強度の高い訓練が行えることが特徴。 既に2016年4月にALSを含む8つの神経・筋疾患に対し保険適用となっているが、 臨床試験におけるALS患者の症例が少なかったため、今回の研究を実施した。 研究では、2019年1月から12月までに同大学でALSと診断された患者で、 10m以上の自立歩行はできないものの、介助または歩行補助具を使用して10m以上歩行が可能な患者11名を対象とした。 同ロボットによる訓練を1クール(全9回、頻度2-3回/週、1-2か月間。実施時間:装着や休憩を除き20-40分)行い、 その前後で2分間の歩行距離、歩行速度、歩幅、歩行率を評価する10mの歩行テスト、ALSの運動機能評価尺度(ALSFRS-R)、Barthel Index(BI)、 機能的自立度(FIM)、努力性肺活量を測定、解析した。 その結果、平均歩行距離は治療前の73.87mから治療後89.94m(21.7%改善、p=0.004)に延伸したほか、 10m歩行の歩行率の平均値も治療前の1.71から治療後1.81(p=0.04)へと改善した。 研究チームでは、今回の研究成果は一時的な効果を示すものであり、 継続的な訓練により歩行機能をさらに維持、改善できる可能性も考えられ、 より大規模な研究で検証する必要があるとしている。 論文リンク:Robot-assisted training using Hybrid Assistive Limb ameliorates gait ability in patients with amyotrophic lateral sclerosis(Journal of Clinical Neuroscience) https://medicalai.m3.com/news/220413-news-medittech

2022年2月4日金曜日

COVID-19に罹らない人を探す世界規模の計画が始動

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220209 原文:Nature (2021-10-29) | doi: 10.1038/d41586-021-02978-6 | The search for people who never get COVID SARS-CoV-2感染に対して生まれながらに抵抗性のある人を探す、国際的なプロジェクトが始まった。 こうした人を調べれば、新しい治療法の開発につながると期待されるからだ。 パンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)に対し、 生まれつき抵抗性があったら、どうだろう? 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したり、このウイルスを広げたりする心配をしなくていいかもしれない。 このような特性を有する人を、研究者たちは探している。 研究に協力してほしいと思っている。 もしかすると、あなたも候補者かもしれない。 国際的な研究チームは、SARS-CoV-2の感染に抵抗性を与える遺伝的要因を有する人を世界的に探し始め、 その戦略を2021年10月にNature Immunology で発表した(E. Andreakos et al. Nature Immunol. https://doi.org/g4sh; 2021)。 このような人を見つけ、感染を防いでいる遺伝子を特定することが、COVID-19からの防御だけでなく、 感染の伝播も防ぐ「ウイルス遮断薬」の開発につながる。 「素晴らしいアイデアです。賢いやり方です」と、フレデリック国立がん研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の 免疫遺伝学者Mary Carringtonは言う。 「成功が保証されているわけではありません。 このコロナウイルス科ベータコロナウイルス属のSARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性が存在するとしても、 その形質を持つ人は『ほんの一握り』かもしれません」と、 ルーバン・カトリック大学(ベルギー)の小児免疫学者で医師であるIsabelle Meyts。 彼女はこの取り組みを支えるコンソーシアムの一員である。 「問題は、抵抗性を示す人をどのように見つけるかです。 これは非常に難しいことですから、『やり遂げる』という強い意思が必要です」と、 テキサス大学サンアントニオ健康科学センター(米国)の感染症専門医Sunil Ahuja。 この論文の著者らは、該当者を探し出せると自信を持っている。 「1人見つかるだけでも、この戦略で最も重要なことは達成されるのです」と、 研究に参加するアテネアカデミー生物医学研究財団(ギリシャ)の免疫学者Evangelos Andreakos。 最初の段階は、対象を絞り込むことである。 COVID-19患者と長期間にわたって濃厚接触している人の中から、 ワクチン接種などの予防措置を取っていないのにSARS-CoV-2感染検査で陽性にならない、 あるいはこのウイルスに感染した細胞を除去する免疫応答が起こっていない人を探す。 特に興味深いのは、感染したパートナーと家やベッドを共有する人である。 こうしたカップルは「不一致カップル」として知られる。 Andreakosらの研究チームは、ブラジルやギリシャなどの世界10カ所の研究センターに属する研究者で構成され、 こうした基準をクリアした有力候補者を約500人、既に確保している。 彼らが論文を発表して以降、ロシアやインド在住の人も含む少なくとも600人から「私も該当する」との申し出があった。 この研究の共著者であるロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の遺伝学者Jean-Laurent Casanovaは、この反応に本当に驚いた。 「SARS-CoV-2に曝露されても明らかに感染していない人が、自ら連絡をくれるなんて、思いもしなかった」。 目標は、少なくとも1000人の候補者を確保することである。 研究チームは既にデータの解析を開始している、とAndreakos。 候補者が多量のSARS-CoV-2に曝露されたことを証明するのは難しい。 「この研究はほぼ不可能かもしれません」とAhuja。 カップルの一方が無症状の濃厚接触者である場合、感染したパートナーが生きたウイルスを大量に排出していたことを確認する必要がある。 Ahujaによれば、不一致カップルは珍しくないが、これらの基準を満たしていて、 定期的に検査を受けているカップルが見つかることはめったにない。 現在では多くの人がワクチン接種済みのため、SARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性は目に見えなくなっている可能性があり、 この研究の候補者確保はいっそう難しくなっていると付け加える。 候補者を絞り込んだら、次は、抵抗性に関連する遺伝子を見つけ出すために、候補者のゲノムを感染者のゲノムと比較する。 抵抗性に関連すると考えられる全ての遺伝子を細胞や動物のモデルで研究し、 抵抗性との因果関係を確認することで、作用機序が確立されるのだ。 Casanovaの研究チームは、重症COVID-19への感受性を高める稀な変異をこれまでに特定しているが、 現在、研究は抵抗性を調べる段階に移っている(2021年11月号「COVID患者の重症化・死亡に自己抗体が関連か」参照)。 他の研究グループは、ゲノムワイド関連解析(GWAS)と呼ばれる遺伝学的研究で、 数万人のDNAにおいて一塩基変化(通常は弱い生物学的効果しかない)を調べ、 感染のしやすさ(感受性)の低下に関連する有望な候補変異を特定している (2021年9月号「COVIDのリスクに関連する遺伝的バリアントが分かってきた」参照)。 「このような変化の1つは、血液型O型の原因遺伝子に見られます。 その防御効果は小さく、防御の仕組みも分かっていません」と、Carrington。 この最新のプロジェクトを支える研究者らは、明らかになる可能性のある抵抗性機構がどんなものか、仮説を立ててきた。 最も疑う余地がない機構と考えられるのは、一部の人には、SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に利用する 機能的なアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体がない、というもの。 査読前論文ではあるが、あるGWAS研究から、ACE2遺伝子の発現を低下させると考えられる1つの稀な変異が 感染リスクの低下に関連し得ることが明らかになった(J. E. Horowitz et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/ghqgn5; 2021)。 この種の抵抗性機構は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)でこれまでに観察されている。 HIVはCCR5受容体を利用して白血球に侵入する。 AhujaとCarringtonは1990年代初頭から、白血球上のCCR5受容体の機能を喪失させる稀な変異の特定に役立つ研究に関わってきた。 「この知識は本当に役に立っています」とCarrington。 この知識からHIVの遮断薬という分類クラスが開発された。 2人の患者は、CCR5の抵抗性遺伝子を2コピー持つドナーから骨髄移植を受けた後、 HIVが明らかに除去された(2019年5月号「幹細胞移植後にHIVが消滅した第2の症例」参照)。 このような機構によらずにSARS-CoV-2抵抗性を示す人の体内では、 SARS-CoV-2に対する非常に強力な免疫応答が起こっている可能性があり、 それは鼻の内側を覆う細胞周囲で特に顕著なのかもしれない。 そうした人たちの中には、ウイルスの複製と新しいウイルス粒子への再格納を阻止する遺伝子や、 細胞内のウイルスRNAを分解する遺伝子の機能を増強する変異を持つ人がいるかもしれないと、Andreakos。 Andreakosは、今後も課題はあるが、生まれつきSARS-CoV-2に抵抗性である人を見つけ出すことについて楽観的である。 「私たちは、こうした人を見つけ出せる自信があります」

ガラスはカーボンニュートラルな未来にとっての隠れた宝石だ

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220249 原文:Nature (2021-11-03) | doi: 10.1038/d41586-021-02992-8 | Glass is the hidden gem in a carbon-neutral future ガラスは、リサイクルしても劣化しないし、カーボンフリーのガラスも製造可能だ。 それなのに、なぜ各国でガラスが地中に埋められてしまうのだろうか? ガラスは、その特性を失わずに、無限にリサイクルできる。 それなのに、欧州諸国を除く大部分の国々が、いまだにガラスの大半をトン単位で埋め立て処分しているのはなぜか? 米国環境保護庁(EPA)によると、米国だけで2018年に約700万tのガラスが埋め立て処分場に運び込まれ、 それが一般固形廃棄物全体の5.2%を占めている。 プラスチックの使用量を削減しようという動きが、特に液体を入れる容器のための新素材探しを加速させている。 しかし、ガラスという既存の素材が、ネットゼロカーボン経済の主役になり得る。 ガラスの製造により、世界中で少なくとも年間8600万tの二酸化炭素(CO2)が発生。 そのほとんどは、ガラスをリサイクルすることで解消できる。 既存の技術を使って、ガラス製造工程を超低炭素にできる可能性もある。 今必要なのは、各国がガラスの埋め立て処分をやめ、ガラスのリサイクルを義務化することだ。 ガラスは、石灰石と砂とソーダ灰を混ぜて1500℃に加熱して作られる。 加熱工程は、天然ガスを熱源とし、ガラス製造時のCO2排出量の75〜85%を占めている。 残りの排出量は、原材料の化学反応によって生じる副産物による。 これらの原材料の一部は、粉砕された再生ガラス(カレット)で代替ができる。 カレットを溶かしても、CO2は排出されない。 ガラスを溶かすための炉は、原材料を溶かす場合ほど激しく燃やす必要がないため、さらにCO2排出量を削減できる。 ブリュッセルに本部を置く業界団体、欧州ガラスびん連合(The European Container Glass Federation;FEVE)によると、 炉に入れるカレットを10%増やすと、原材料だけでガラスを作る場合と比べてCO2排出量が5%減少する。 他のリサイクル方法と同様、いくつかの注意点がある。 窓ガラスに使われる板ガラスは、他の多くの用途に使われるガラスと異なり、不純物を含むことが許されない。 ジャムの瓶を溶かして窓ガラスを作ることはできない。 板ガラスのカレットは、さらに板ガラスを作るために使用できる。 いくつかの問題については、さらなる研究が必要になる。 政府が適切な資源を配分するためには、ガラスの回収とリサイクルのシステムを強化した場合の金銭的コストを知っておく必要がある。 ガラスはプラスチックよりも重いため、ガラスを代替品として使用すると、 輸送コストや排出量が増える可能性が非常に高く、その点も理解する必要がある。 ガラスのリサイクルに関して、欧州は世界で最も進んだ地域で、他の地域に水をあけており、さらなる高みを目指している。 研究者は、欧州のリサイクル制度がどのようにして生まれたのか、 その長所と短所、他の国にとっての教訓があるかどうかを調べることができる。 EU加盟国(27カ国)と英国では、ボトルなどの容器に用いられるガラスの4分の3がリサイクルのために回収。 その結果、EU内で製造される新しいガラスには、既に約52%のリサイクル材料が含まれている。 ガラス容器業界は、2030年までにEUで廃棄される容器ガラスの90%を回収するという目標を掲げている。 それ以外の国々は、必要とされるレベルに達していない。 ほとんどの国々が自国の活動を報告していないこともあって、 ガラスのリサイクルに関するデータを見つけるのは困難だ。 ガラスのリサイクルに関するデータを収集している国際機関もないようだ。 これは変える必要がある。 回収率とリサイクル率を上昇させるための各国の取り組みは進んでいる。 米国では、ガラス容器のリサイクル率は平均31%にすぎないが、 米国バージニア州アーリントンに本部を置く業界団体であるGlass Packaging Instituteは、 2030年までに50%に引き上げることを目指している(ガラスくず全体の56%を回収しなければならない)。 ヨハネスブルク(南アフリカ共和国)に本部があるGlass Recycling Companyが実施しているプロジェクトでは、 リターナブルびん(回収後に洗浄して繰り返し使用するびん)の利用促進などによって、 南アフリカ共和国全体のリサイクル率を、2005~06年の18%から2018~19年には42%まで高めた。 その他の国々(例えば、ブラジル、中国、インド)では、当局が沈黙しており、計画や意欲すらも明らかにしていない。 廃棄物を削減する法律とガラスの埋め立て処分を最終的に禁止する法律を備えた国を増やす必要がある。 そうすれば、ガラスをリサイクルする意欲が自然に高まる。 欧州では、廃棄される建築・建設資材の70%をリサイクルすることが既に義務付けられている。 残りの30%は、道路材料やその他の基本的な建築工程で骨材として使用されているが、これは貴重な資源の莫大な浪費だ。 製造時に混合した化学物質を溶かすプロセスを脱炭素化することでも、CO2排出量を削減できる。 FEVEが推進するFurnace for the Future(「未来の炉」の意味)という実証プロジェクトでは、 エネルギー源を天然ガスから電気に置き換えたハイブリッド電気炉を用いて再生ガラスのカレットを加熱し、ガラスを製造している。 この電力源を完全に脱炭素化することができれば、ガラスの製造工程全体で実質的にカーボンフリーが実現する。 ガラスは必要不可欠な素材だ。 ガラスの製造工程のカーボンフリー化は、比較的短期間で実現可能である。 ガラスを適切に回収してリサイクルするための法律と、埋め立て処理されないようにするための法律が必要だ。 地域社会や企業によるガラスの回収とリサイクルのためのインフラ作りを支援する必要もある。 解決策はもう出揃っており、比較的単純な解決策だ。 その実行が必要なのだ。 実行されれば、ガラスのグラスで祝杯を挙げることができるだろう。

2022年1月26日水曜日

アスリートたちからの支持を取り戻す アシックス、トップが語る「頂上奪還」への決意

東洋経済 2022.01.25 社長直轄プロジェクトで誕生した「メタスピード」により、再び世界の大きな大会で表彰台を目指すアシックス。 トップが語る頂上奪還作戦に込めた想い。 世界最大のスポーツ用品メーカー、ナイキが2017年に発売した高反発厚底シューズは、 「より速く走れるシューズ」として、マラソンを始めとする世界の長距離陸上界に大旋風を巻き起こした。 このナイキの新たなシューズを着用した選手が、主要な大会の表彰台を独占。 国内の実業団や大学生選手にも瞬く間に人気が広がり、 ついにかつての王者アシックスのシューズが正月の箱根駅伝から姿を消した。 トップランナーを始めとするアスリートたちからの支持を取り戻すべく、 同社は社長直轄のプロジェクトを立ち上げ、本格的なナイキ対抗モデルの開発に着手。 2021年春、“アシックス史上最速”の長距離レース用シューズ「メタスピード」を発売し、 反撃に向けて大きく動き出した。 アシックスは、再びランニングシューズの頂上を制することができるのか? 頂上奪還への決意とその手応えを、廣田康人社長に聞いた。 ●敗北から学んだ教訓 ――2022年の元旦、全国紙に「負けっぱなしで終われるか」というアシックスの反撃宣言ともいえる全面広告が掲載。 あれは廣田社長の指示か? いいえ、考えたのは社員たち。 あのメッセージに込めた想いは、痛いほどよくわかる。 元旦にあんな刺激的な広告を出して、正月の駅伝で履いてくれる選手がまたいなかったら、 やけっぱちの広告だと世間から笑われる(笑)。 「本当に大丈夫か」と念を押したら、 「大丈夫です、ぜひこれで行かせてください」と言うので、よし、じゃあわかったと。 ――頂上に当たるトップアスリートの世界でナイキに敗れ、そこから学んだことは何か? 大いに反省しないといけない。 当社は技術で勝ってきた会社。 それがナイキに、カーボンプレートを入れた厚底シューズでイノベーションを起こされ、やられた。 長距離選手のレース用シューズは、軽くするために薄いミッドソールが長年の常識だった。 アシックスはそこを極めて勝ってきた会社だけに、 固定観念に囚われて、自分たちで常識を打ち破ることができなかった。 そこが大きな敗因だ。 最新のテクロジーを積極的に活用して、イノベーションを起こそうとする挑戦心をつねに持ち続けなければ、 今の時代の激しい競争を勝ち残れない。 私自身、今回の一件でそのことを痛感させられたし、社員たちも大いに学んだと思う。 ――元旦の実業団のニューイヤー駅伝では39人、箱根駅伝では24人の選手がアシックスのメタスピードを履いて走った。 どのくらいの数の選手が履いてくれそうか事前に聞いてはいたが、 実際に履いて走っている姿を見て安心した。 1年前の屈辱的な状況からは大きな前進。 復権に向けた手ごたえは感じている。 客観的に見たら、まだまだ圧倒的にナイキ。 アシックスが巻き返したとは言っても多少であって、この程度で喜んでいる場合じゃない。 夏までには、より進化させたメタスピード2を発売する。 さらに勢いをつけて、2023年の正月の駅伝はもっと大きくシェアを取り戻したい。 ――ナイキの厚底シューズが登場したのが2017年で、三菱商事の役員だった廣田さんがアシックスの社長に就任したのが翌2018年の3月。 危機感を抱き始めたのはいつぐらいから? 就任1年目の2018年の途中から。 国内外のトップ選手がナイキの厚底シューズを履いて、すごいタイムを立て続けに出し始めていた。 国内の実業団や大学の選手たちも多くが履くようになって、 2019年の正月の2大駅伝はナイキに着用率で大きな差をつけられた。 その時は危機感を抱きながらも、私が細かく口を挟むことは控え、社員たちの頑張りを見守ろうと。 開発の現場は、どうしても今までのシューズの改良型でという発想から抜けきれない。 アシックスの存在感がますます薄れていってしまった。 ●動き出した“頂上奪還”作戦 ――それで痺れを切らし、2019年12月に10人の社員たちを会議室に集めて、 部門を横断する社長直轄プロジェクトの立ち上げを告げた。 その年の11月、出張先のアメリカのホテルで眠れずにいろんなことを考えていたら、だんだん悔しさが込み上げてきた。 創業者の鬼塚喜八郎は「頂上から攻めよ」と言っていたのに、 今のアシックスはその頂上のトップアスリートたちのところで完全に負けている。 やはりこれはあってはならんことだ。 こうなったら社長直轄でやるしかないと。 今振り返ると、社長直轄の部門横断プロジェクトにしてよかった。 意思決定が早い。 そうじゃなかったら、これだけのすごい靴を1年と少しで開発するのは無理だった。 今回のプロジェクトでは、トップアスリートたちと一緒になって理想のシューズを作るという点にこだわった。 その過程で、ストライド走法の選手用とピッチ走法の選手用の2つになった。 「選手が走り方を靴に合わせるのではなく、選手の走り方に合わせた靴を作るべき」という考えからで、 こうした点もアシックスらしいと思う。 ――メタスピードを世界のトップ選手に履いてもらうには契約の壁も。 世界記録を持つエリウド・キプチョゲ選手を始め、マラソン世界ランキング上位のアフリカ人選手たちは みなナイキ、アディダスがスポンサー契約を結んで囲い込んでいる。 世界ランキング上位の選手との契約にはお金がかかるし、資金力のあるナイキなどにすでに押さえられている。 未来のメダリストの育成に力を入れ始め、2020年にケニアで「頂上キャンプ(ASICS CHOJO CAMP)」を立ち上げた。 アフリカ全土から将来有望な若いランナーを集め、優秀な指導者の下で練習してもらう合宿所。 アフリカ、特にケニアやエチオピアには、ものすごい可能性を秘めた若い選手たちがたくさんいる。 そういう選手たちが50人ほど集まり、頂上キャンプで日々練習に励んでいる。 その中から、大きなレースでメタスピードを履いて表彰台にのぼる選手も出始めており、 今後の世界での活躍を大いに期待している。 アメリカでも、同様のキャンプを今年立ち上げる予定だ。 ●海外市場では販売好調 ――直近の四半期決算を見ると、足元の業績自体は非常に好調。 いくつかの要因がある。 まず、アメリカでのカジュアル路線の失敗を経て、 コアはあくまでランニングシューズであって、ここを徹底的に強くして、 「日米欧の市場でトップをとる」という方向性と目標を社内で明確にした。 本社と海外販社が同じ方向を向き、一丸となって販売強化に取り組んできた成果が出始めている。 商品力もこの1、2年で確実に上がった。 「ゲルカヤノ」を始めとする一般市民ランナー向けの代表的なシューズがモデルチェンジでより強力になったし、 バウンス(弾む)系の「ノヴァブラスト」など、若い世代を意識した新たな商品が出てきてラインナップも充実した。 総合的な競争力が上がってきたところ、コロナ下での健康対策として屋外でランニングをする人が世界的に増え、 その追い風にうまく乗ることができている。 2021年の第3四半期(1~9月)決算では、 欧米など海外でのランニングシューズの販売が、コロナ前の2019年と比べても大きく伸びた。 ――国内では、ランニングシューズ市場の多くを占める一般市民ランナー用でもナイキ人気が高まり、 アシックスは販売で苦戦を強いられている。 国内と海外では状況がずいぶん違う。 アスリート用に関して言えば、海外でもやはり今はナイキが非常に強い。 そうした頂上からのシャワー効果がどこまで一般市民ランナーに及んでいるかというと、 日本と海外では大きな違いがある。 ランニング人口が世界最大のアメリカを例に取ると、 全米各地のランニング専門店で一番売れているブランドは、昔も今もブルックス。 今は2位の座を、当社とホカオネオネが競っている。 アメリカに次いで大きなヨーロッパ市場では、アシックスが近年ずっと販売首位で、 シェアが35%ぐらいにまで上がってきた。 ヨーロッパでも上位を争う主要なライバルは、ブルックスなどランニングを専門とするメーカーが中心。 一方、国内は一般のランニング愛好家の間でも、ナイキのシェアが非常に高くなった。 国民性の違いもあるだろうが、何と言っても注目度の高い箱根駅伝の影響が大きいと思う。 ナイキの厚底が出てきてから、箱根駅伝でのシューズの戦いにも関心が集まって、 そこでのナイキ旋風がメディアで大々的に取り上げられた。 販売への影響は大きかったと思う。 ●頂上にこだわる理由はプライド ――頂上のトップアスリートの世界で再び勝てば、大学生ランナーたちも箱根駅伝で履くようになって、 ひいては一般市民ランナー向けの販売シェアも取り戻せると? そう期待している。 商業的な部分も当然あるが、頂上にこだわる一番の理由は、アシックスとしてのプライド。 この会社は、トップ選手を始めとするアスリートたちとともに歩んできた歴史があり、それが大きな誇り。 何としても頂上を再び取り戻し、アシックスのシューズを履いた選手に表彰台に立ってほしい。 頂上をとってこそのアシックスだ。 ――正月の駅伝ではアディダスも巻き返すなど、ライバル他社も「打倒ナイキ」に向けて動いている。 どの会社も、最新のテクノロジーを駆使したレース用のシューズを開発して、 ナイキの牙城を崩そうと必死になっている。 まさに戦国時代。 ちょっとシェアを取り返したぐらいで安心していたら、 頂上を奪い返すどころか、あっという間に競争から脱落する。 挑戦者として動きを止めず、頂上での勝利を目指して、前へ前へと進んでいく。 すでに社内では「メタスピード2」の開発を終え、その次の「3」に向けて動き始めている。 頂上を巡る戦いは熾烈だが、アシックスはランニングシューズをコアとするメーカー。 そのプライドにかけても、ここで負けるわけにはいかない。 https://premium.toyokeizai.net/articles/-/29544