2024年1月29日月曜日
腸内細菌叢の多様性が「健常児の認知機能」を予測する
2024年1月6日(土)
米ウェルズリー大学などの研究チームは、
「腸内細菌叢の違いが、健常児の認知機能全般や脳構造と関連していること」を明らかにした。
研究は、Science Advancesに発表されたもので、
米国立衛生研究所の資金提供によるECHO(Environmental Influences on Child Health Outcome)プログラムの一環となる。
研究は、ロードアイランド州プロビデンスにある「The RESONANCEコホート」の健康な子ども381人を対象としたもの。
小児の腸内細菌叢と認知機能との関連を調査したところ、
Alistipes obesiやBlautia wexleraeなどの特定の腸内細菌種は、より高い認知機能と関連していた。
逆に、Ruminococcus gnavusのような種では、認知スコアの低い子どもにより多くみられていた。
同時に、機械学習モデルを用い、腸内微生物プロファイルが脳構造と認知能力の変動を予測できることを示しており、
神経発達における早期発見と介入戦略の可能性が強調されている。
本知見は、認知機能と脳発達のバイオマーカー開発に道を開くものとなり得る。
また、小児期における腸内環境の重要性を浮き彫りにし、
保護者や医療提供者が食事・生活習慣について考慮すべきことを示唆している。
チームはさらなる研究の推進を表明しており、異なる環境下における成果の再現性を調査するとしている。
参照論文:
Gut-resident microorganisms and their genes are associated with cognition and neuroanatomy in children
https://medicalai.m3.com/news/240106-news-mat
脳しんとうから選手や兵士を守れ、衝撃を計測するマウスピース
2024年1月22日(月)
2023年は、CRISPR遺伝子編集技術を利用した鎌状赤血球症の治療法が米国と英国で承認された。
2023年の遺伝子編集療法に関する記事を振り返りながら、この療法に残された課題を考える。
アスリートや兵士が脳しんとうを起こした場合、
最も有益な対応は、とにかく競技場から退出させるか、その活動から離脱させて回復させること。
なぜ衝撃によって脳しんとうが起こったり、起こらなかったりするのかなど、
頭部負傷については多くのことが謎のままである。
頭部への衝撃に関して、豊富な情報を提供してくれる可能性のある新しい測定装置が開発されている。
軍事活動や競技から離れる必要があることを速やかに警告することで、
兵士やアスリートを脳損傷から守ることができる。
頭部外傷の真のリスクが認識されるまで、長い年月がかかった。
プリベント・バイオメトリクス(Prevent Biometrics)のマイク・ショーグレン最高経営責任者(CEO)は、
「10年前でさえ、大きな打撃を受けた人は、立ち上がって競技を続行するか、そのまま活動を続けるように言われていました」。
「現在では、頭部への大きな衝撃の軽減と、脳しんとうのリスクを理解することが、
スポーツと軍において最も重要視されるようになっています」。
プリベント・バイオメトリクスは、頭部への衝撃を正確に測定・記録する新しいセンサーの開発に取り組んでいる企業の1つ。
このセンサーは、脳しんとうの可能性を特定し、累積的な影響を研究するためのデータを提供するのに役立つ。
同社のアダム・バーチ最高科学責任者(CSO)によると、
科学者たちは長い間、頭部外傷に関わる衝撃の力を測定しようとしてきた。
「数十年前は、頭部への衝撃を研究するためにルーブ・ゴールドバーグ・マシン(まんが家のルーブ・ゴールドバーグ が考えた、
簡単にできることをあえて面倒な仕組みの連鎖で実行する機械)のような複雑な装置を使わなければなりませんでした」。
「歯型を材料にし、硬い板とサイコロより大きなセンサーを装備したものを、
長さ10mのケーブルでコンピューターに接続して使うこともありました。
装着者はよだれを垂らすし、データは完璧ではありませんでしたが、それが手に入る最高のものでした」。
プリベント・バイオメトリクスが開発した装置である「インパクト・モニタリング・マウスガード(IMM)」は、
クリーブランド・クリニック(Cleveland Clinic)によって最初に考案された。
装着者の口内にフィットし、監視ツールと実用的なマウスピースの両方の役割を果たす。
IMMは衝撃の力、位置、方向、回数を計算し、そのデータをBluetooth経由で他の機器に送信して評価することができる。
プリベント・バイオメトリクスはIMMを用いて、2000人を超える空挺兵を被験者とした五点接地(パラシュート・ランディング・フォール:PLF)を研究。
五点接地は、米陸軍が空挺兵の降下訓練プログラムの一環として開発した着地手法である。
パラシュート降下した兵士は、まず足から着地し、横に倒れ、着地の衝撃をふくらはぎ、太もも、 尻、背中に沿って順次分散させる。
正しく実行すれば、地面着地時の衝撃が吸収される。
一歩間違えると、兵士の後頭部が地面に叩きつけられる可能性がある。
IMMのセンサーは、この現象が考えられていたよりもはるかに頻繁に発生していることを明らかにした。
「降下の約5パーセントで、著しい頭部への衝撃が見られました」とバーチCSOは明らかにした。
「これは公表されている空挺部隊の脳しんとう発生率の約30倍です」。
一連の検査により、IMMが脳しんとうを引き起こす可能性があると検知した事例で、
実際に脳しんとうが起こっていたことが確認された。
兵士は着地がうまくいかなかったとしても、そのまま起き上がって活動を続けることが多い。
そのため、これまでの公式発表の数字には、肉体的に自力で立ち上がることができない兵士の負傷のみが反映されていた。
スポーツでも同様で、アスリートは負傷を報告するよりも、「忘れて前へ進め」と励まされることが多い。
プリベント・バイオメトリクスは、ワールドラグビーと協力して大規模なプロジェクトを進めている。
このプロジェクトでは、選手を監視し、コーチは負傷した選手をフィールドから連れ出して評価してもらえる。
ボクシングやラクロスなど他のスポーツ向けに、バイオコア(Biocore)、オーブ(ORB)、ヒットIQ(HitIQ)といった
いくつかの計測器付きマウスピースが開発されている。
将来的には、多くの小さな衝撃の総合的な影響を評価し、
どのような状況下で深刻な累積傷害が引き起こされるのかを確認できるようにしたいとプリベント・バイオメトリクスは考えている。
「大きな衝撃だけでなく、小さな衝撃による総合的な影響を理解することも重要。
ボクシングの試合のようなものです。
第1ラウンドで受けた打撃は、その一発ではノックアウトに至らずとも、
最終的にノックアウトをもたらすかもしれません」(ショーグレンCEO)。
https://medicalai.m3.com/news/240122-news-mittr
アルツハイマー病の原因物質が毒性を示す過程の実時間観察に成功
2024年1月23日(火)
東京農工大学と三重大学の共同研究チームは、
アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβが、人工細胞膜中で毒性を持つ構造に変化する様子を
リアルタイムに観察することに成功。
膜中のコレステロールが毒性構造への変化を促進することや、カテキンが毒性構造を阻害することを見い出した。
アミロイドβ(Aβ)は凝集性が高く、単量体(モノマー)から中間体の重合体(オリゴマー)を経て、アミロイド線維を形成する。
中でも、Aβオリゴマーに強い細胞毒性があることがわかっている。
オリゴマーの細胞毒性機構の一つとしてチャネル(細胞膜を貫通する孔)形成があり、
神経細胞膜中に孔を開けることで細胞死を引き起こすが、
これまでAβが膜中でモノマーからオリゴマーに凝集していく過程は確認されていなかった。
研究チームは、マイクロデバイスを用いたチャネル電流計測によって、
Aβモノマーが脂質膜(人工細胞膜)中で、凝集してチャネルを形成していく過程を2時間にわたって観察。
膜中でAβモノマーが凝集してオリゴマー化し、チャネルを形成することを発見した。
続いて、神経細胞膜を模倣した人工細胞膜を用いて観察したところ、
膜中のコレステロールがAβの膜中でのチャネル形成を促進することがわかった。
さらに、Aβの凝集阻害剤であるカテキンの一種EGCGのAβチャネルへの作用を調べた結果、
EGCGはAβの凝集だけでなく、膜中に形成されたチャネルの活性も阻害することを見い出した。
今回の成果により、Aβと神経細胞膜との相互作用の解明が進み、アルツハイマー病の治療法開発に貢献することが期待される。
研究論文は、米国科学アカデミー紀要ネクサス(PNAS Nexus)に2023年12月14日付けで掲載。
https://medicalai.m3.com/news/240123-news-mittrNF2
脳波データを用いた「認知症自動判断AI」開発、精度は最高で91% 大阪大
2024年1月24日(水)
大阪大学の研究グループが、安静時の脳波を解析するAI(人工知能)を開発し、
健常もしくは認知症(アルツハイマー病、レビー小体型認知症、もしくは特発性正常圧水頭症) の識別が可能になったと発表。
開発したシステムは、AIの学習に利用していない施設の脳波データに対しても有効性が認められ、
さらに、認知症や軽度認知障害の原因 (背景病理) も推定できるという。
●国内最大規模の脳波認知症データセットを構築、性能を検証
脳波にAIを適用することで、アルツハイマー型認知症と健常者を識別、
あるいは認知症状の程度を推定することができるという先行研究は多く上がっている。
しかしこれらの多くは単施設かつ少数の脳波データを対象とした評価であり、
一般的に脳波データに関しては施設に特有の特徴が含まれていることが多いため、
他施設の脳波を正確に識別できないという課題がある。
また、脳波からは、現在多くの未判定の患者が存在すると思われる軽度認知障害(MCI)の背景病理を推定することは困難だった。
MCIの背景病理はMRI 検査や PET検査、脳脊髄液検査などの高価かつ侵襲的な検査、計測データを解釈するために
経験豊富な専門医の診断も必要であるため、
高齢社会の対応のひとつとして、精度を担保したうえでより安価、迅速な診断手法が求められている。
研究グループでは、三施設の専門医グループがMRI、PET、認知機能テストなどの包括的な診断を行うことで、
570名の被験者の背景病理を同定することにより、国内最大規模の脳波認知症データセットを構築した。
このデータセットを利用し、脳波マイクロステートを捉えるよう設計された AI モデルを構築、性能を検証した。
結果、1つの施設 (=大阪大学医学部附属病院) のみで脳波を学習したAI でも、
学習に用いていない施設 (=高知大学医学部附属病院と日本生命病院) の脳波を識別できることを確認した。
健常群と認知症群を、81–91 %の精度で識別できている。
認知症・軽度認知障害の背景病理の推定に関しては、
軽度認知障害の背景病理がアルツハイマー病群、レビー小体型認知症群、
もしくは特発性正常圧水頭症群かを72%の精度で推定することに成功した。
研究グループではこれらの結果により、認知症の早期発見が脳波によって可能になったとし、
また、軽度認知障害と認知症の間に共通する脳波特徴があることが示唆されたため、
これらの疾患の原因解明の糸口となる可能性があるとしている。
論文リンク:A deep learning model for the detection of various dementia and MCI pathologies based on resting-state electroencephalography data: A retrospective multicentre study(Neural Networks)
https://medicalai.m3.com/news/240124-news-medittech
阪大など、細胞老化を抑制する新たな分子メカニズムを解明
2024年1月18日(木)
大阪大学、奈良県立医科大学などの共同研究グループは、
細胞小器官であるミトコンドリアとリソソーム両者のクオリティーコントロールを介して、
細胞老化を抑制する新たな分子メカニズムを明らかにした。
近年、細胞老化や様々な加齢関連疾患において、
損傷を受けて機能低下したミトコンドリアやリソソームが共に蓄積していることが報告され、
細胞老化や様々な加齢関連疾患における共通した特徴であることがわかってきた。
しかし、ミトコンドリア、リソソームを制御する共通の機構があるのかどうか、
両者のクロストークの分子機構、またその老化における意義は不明であった。
研究チームは今回、オートファジー・リソソームの機能を制御するマスター転写因子「TFEB(Transcription Factor EB)」に着目。
ミトコンドリアとリソソームがストレスを受けた際の遺伝子発現変化を解析することで、
TFEBがヘキソキナーゼ・ファミリーのひとつ「HKDC1(hexokinase domain containing 1)」の発現を直接制御して、
両者のクオリティーコントロールに必須の働きを持つことを発見した。
さらに、HKDC1が傷ついたミトコンドリアのオートファジーによる除去および傷ついたリソソームの修復を促進し、
細胞を健康に保ち細胞の老化を抑制することを明らかにした。
研究成果は、TFEB-HKDC1経路の調節を介した老化抑制や加齢性疾患の治療法への応用に役立つことが期待される。
「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」に
2024年1月3日付けでオンライン公開された。
https://medicalai.m3.com/news/240118-news-mittrNF?dcf_doctor=false&portalId=mailmag&mmp=AI240126&mc.l=1009087026
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