2023年5月30日火曜日
プラスチック光ファイバ技術を応用、注射針レベルの極細ディスポーザブル内視鏡の開発に成功 慶大ら
2023年5月26日(金)
慶應義塾大とエア・ウォーター(大阪市)は共同で、
プラスチック光ファイバ技術を応用した極細硬性内視鏡の開発に世界で初めて成功した。
0.1ミリレベルで、かつ低コストで製作できるため注射針と同様にディスポーザブルにできる。
●極細、低コスト、低侵襲
今回開発した極細硬性内視鏡は、
先端に慶應フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)所長の小池康博教授が発明した「GI 型※1 POF ※2レンズ」が設置され、
体内の映像はこのレンズを通じて体外まで伝送できる。
0.1~0.5 mmの細さで製作でき、関節内部を低侵襲で観察可能だ。
低コストでの製造が可能で、注射針と同じように単回での使用(ディスポーザブル)が可能。
極細硬性内視鏡の使用により、患者の関節内を低侵襲で手術前後に直接観察でき、
迅速かつ正確な病状把握や、手術後の経過観察を効率よく行うことが可能となる。
従来の関節内視鏡検査は入院を伴う全身麻酔が必要だったが、
極細硬性内視鏡は局所麻酔で済むため外来や在宅での検査・治療が可能となり、
患者の肉体的負担、医療現場の負担が大幅に軽減される。
●GI 型 POF レンズとは
GI 型 POF は、中心軸の屈折率分布が最大で、周辺に向かうに従い徐々に二次分布的に減少する屈折率分布を有し、
入射した光はサインカーブを描きながらファイバ内を蛇行して伝送される。
GI 型 POF に平行光線を入れると、光はファイバ内で 1 点に収束し、それを繰り返しながら伝送されていく(図 1)。
平行光線が 1 点に集まるという現象は、凸レンズ作用を持っているということを示し、
GI 型 POF 内を伝送していく光は、ファイバ軸に沿って、いくつものレンズが並んだリレーレンズ内を伝送していくことに相当。
リレーレンズは、物体のイメージを遠くまで伝える作用を持ったデバイスであり、
これと同じレンズ作用を持つ GI 型 POF は、リレーレンズと同じように反対側に物体のイメージを結像させることができる。
GI 型 POF の屈折率分布を理想分布に近づけることにより、高精細な画像を伝送することが可能となる。
極細の硬性内視鏡としては従来、ガラス製光ファイバを束ねて映像を伝送するもの、
先端に極小カメラを搭載したものなどがあるが、
今回開発した極細硬性内視鏡は、先端に設置された「 GI型POFレンズ」を通して体内の映像を体外へ伝送できることが特長。
体外にカメラを設置する構造を取ることが可能となり、検査に合わせたカメラを選ぶことも可能になる。
GI 型POFレンズは、0.1~0.5 mmの細さで実現できる上、フレキシブルで折れにくく、
ガラス製に対して扱いが容易というメリットがある。
レンズをプラスチックで作ることができ、より低コストで、注射針と同様に先端部を単回で使用(ディスポーザブル)できる。
臨床使用のイメージ
臨床においては図のような機器構成をイメージしている。
患部への挿入部分となる先端の極細レンズ部は、外径 1.25 mm(太さ 18 ゲージの注射針と同等)の外筒管に、
外径 0.5 mmの GI 型 POF レンズを内蔵。
CMOS センサを搭載したペン型のカメラ部に極細レンズ部を連結することで、極細の硬性内視鏡になる。
カメラケーブルを PC に接続し、モニタに表示した内視鏡画像を見ながら検査を行う。
極細レンズ部は、低コストでの製造が可能となるため、
医療用注射針と同じように単回での使用(ディスポーザブル)も可能。
注射針と同じ細さであるため、局所麻酔下でも使用可能で、
使用後の縫合も不要な硬性内視鏡として、外来や処置室等での内視鏡検査も可能。
両者は今後、試作機の改善や前臨床評価を推し進め、2024 年の実用化を目指すとともに、
整形外科領域以外への応用や、検査だけでなく治療用途へも適用を拡大していきたい。
※1 GI(Graded Index)型
光ファイバのコアの屈折率分布に勾配(高い部分から低い部分まで連続している)があるもの。
反対に、コアの屈折率分布が一様なものを SI(Step Index)型と呼ぶ。
※2 POF(Plastic Optical Fiber)
ガラス材料の光学ファイバに対して、プラスチック材料の光学ファイバのこと。
https://medicalai.m3.com/news/230526-news-medittech