2023年5月30日火曜日

3Dプリンタで作成した神経で患者回復、世界初 京大病院

2023年5月17日(水) 京都大学医学部附属病院は、末梢神経損傷に対する新しい治療法として、 バイオ3Dプリンタを用いた神経再生技術の開発に世界で初めて成功した。 3人の患者に移植され、全員の経過は良好で仕事に復帰している。 神経が損傷した場合、 現在は患者自身の健康な神経を取り出して患部に移植する治療法(自家神経移植)が主流だが、 採取された部分に痛みが残る場合があるなどデメリットも大きな課題。 京都大学医学部附属病院整形外科では、 末梢神経損傷に対して人工神経を用いた治療研究を実施してきたが、 これまで自家神経移植と比較して良好な結果を得られていなかった。 今回、バイオ3Dプリンタ(サイフューズ製)を使い、 細胞のみで作製した3次元神経導管を患部に移植し、経過観察する臨床試験を行った。 3人の患者の腹部の皮膚の一部を提供してもらい、 そこからもととなる細胞を培養したうえで、 サイフューズの開発した臨床用バイオ3Dプリンタで3次元神経導管を作製、 患者に移植し、移植後12ヶ月まで観察を行った。 結果、移植を受けた3名の患者全てにおいて知覚神経の回復が見られ、 とくに副作用や問題になる合併症の発生はなく経過も良好なため、仕事復帰できた。 臨床試験の担当医は、「末梢神経損傷を受傷したことによって、思うように手が使えなくなって仕事に復帰できなかったり、 移植のため神経を採取されて痛みが残ってしまった患者さんが多数おられます。 今回の結果から、三次元神経導管移植は将来的に末梢神経損傷の治療法の選択肢の1つになり、 苦しんでおられる多くの患者さんが元どおりに社会復帰できるようになると思います」。 https://medicalai.m3.com/news/230517-news-medittech

AIとメタボロミクスによるパーキンソン病の発症予測

2023年5月22日(月) 米ボストン大学などの研究チームは、 患者のバイオマーカー分析に基づき、症状が発現する数年前からパーキンソン病の発症を予測するAIツールを開発した。 研究成果はこのほど、ACS Central Scienceから発表。 チームの研究論文によると、 「Classification and Ranking Analysis using Neural network generates Knowledge from Mass Spectrometry(CRANK-MS)」 と呼ばれるこのツールは、ニューラルネットワークを活用してメタボロームデータを解析するもの。 メタボロームは生体内に含まれる代謝物質の総体を指し、これを対象としたメタボローム解析は近年、 ゲノムやトランスクリプトーム、プロテオームなどとともに、生命現象を詳細に理解する手法として幅広く利用されている。 メタボロームは、特定の疾患や症状に対してバイオマーカーとして利用することができるが、 パーキンソン病を診断するための特異的な血液検査や検査項目は現在存在していない。 チームは質量分析によるメタボローム解析により、後にパーキンソン病を発症する患者の代謝物プロファイルの違いについて、 臨床診断の最大15年前まで明らかにしており、 現在の臨床スタンダードよりも非常に早い段階でパーキンソン病を診断できる可能性が示唆されている。 チームは、これらの知見をもとに、メタボロームデータ全体を分析する、 非定型的なアプローチにより高精度な予測モデルを導出した。 チームは今後、より大規模な患者コホートでのモデル検証を経て、 CRANK-MSを他の疾患にも適用し、新たなバイオマーカーの発見に役立てることができる。 参照論文: Interpretable Machine Learning on Metabolomics Data Reveals Biomarkers for Parkinson’s Disease https://medicalai.m3.com/news/230522-news-mat1

「筋肉内の脂肪蓄積」は健康リスクを示すか?

2023年5月24日(水) これまでにも「身体の特定部位における脂肪蓄積」を、 疾患リスクと紐づけた上での体組成指標として測定する試みが行われてきた。 「筋肉内脂肪蓄積(myosteatosis)」も、健康リスクの新たな指標として注目を集めているが、 無症候患者の健康リスク評価にどう役立つかは十分に解明されていない。 ベルギーのルーヴァン・カトリック大学の研究チームは、 CT画像からAIツールによって体組成指標を抽出し、筋肉内脂肪蓄積と死亡リスクの関係を明らかにした。 Radiologyに発表された同研究では、畳み込みニューラルネットワークの一種である「U-net」を用いて、 無症候の成人が受けた大腸がん検診におけるCT画像から体組成指標を抽出し、 8.8年(中央値)の追跡期間内における死亡率および心血管イベント発生率との関係を解析した。 その結果、筋肉内脂肪蓄積は主要な有害事象リスクの上昇と有意な相関があり、 死亡した研究対象症例の55%に同所見が認められていた。 筋肉内脂肪蓄積の死亡リスクは、喫煙や2型糖尿病に関連する死亡リスクと同等であることも示されている。 研究チームでは今後、筋肉内脂肪蓄積が単に健康状態悪化を示すバイオマーカーなのか、 それとも死亡リスクの上昇と直接の因果関係があるのかを明らかにしたい。 著者のMaxime Nachit博士は、 「興味深いことに、筋肉内脂肪蓄積と死亡リスクの関連性は、加齢や肥満の指標とは無関係であった。 筋肉内脂肪蓄積は、単なる高齢や、他部位への脂肪の過剰付加では説明できないことを意味する」。 参照論文: AI-based CT Body Composition Identifies Myosteatosis as Key Mortality Predictor in Asymptomatic Adults https://medicalai.m3.com/news/230524-news-mat2

プラスチック光ファイバ技術を応用、注射針レベルの極細ディスポーザブル内視鏡の開発に成功 慶大ら

2023年5月26日(金) 慶應義塾大とエア・ウォーター(大阪市)は共同で、 プラスチック光ファイバ技術を応用した極細硬性内視鏡の開発に世界で初めて成功した。 0.1ミリレベルで、かつ低コストで製作できるため注射針と同様にディスポーザブルにできる。 ●極細、低コスト、低侵襲 今回開発した極細硬性内視鏡は、 先端に慶應フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)所長の小池康博教授が発明した「GI 型※1 POF ※2レンズ」が設置され、 体内の映像はこのレンズを通じて体外まで伝送できる。 0.1~0.5 mmの細さで製作でき、関節内部を低侵襲で観察可能だ。 低コストでの製造が可能で、注射針と同じように単回での使用(ディスポーザブル)が可能。 極細硬性内視鏡の使用により、患者の関節内を低侵襲で手術前後に直接観察でき、 迅速かつ正確な病状把握や、手術後の経過観察を効率よく行うことが可能となる。 従来の関節内視鏡検査は入院を伴う全身麻酔が必要だったが、 極細硬性内視鏡は局所麻酔で済むため外来や在宅での検査・治療が可能となり、 患者の肉体的負担、医療現場の負担が大幅に軽減される。 ●GI 型 POF レンズとは GI 型 POF は、中心軸の屈折率分布が最大で、周辺に向かうに従い徐々に二次分布的に減少する屈折率分布を有し、 入射した光はサインカーブを描きながらファイバ内を蛇行して伝送される。 GI 型 POF に平行光線を入れると、光はファイバ内で 1 点に収束し、それを繰り返しながら伝送されていく(図 1)。 平行光線が 1 点に集まるという現象は、凸レンズ作用を持っているということを示し、 GI 型 POF 内を伝送していく光は、ファイバ軸に沿って、いくつものレンズが並んだリレーレンズ内を伝送していくことに相当。 リレーレンズは、物体のイメージを遠くまで伝える作用を持ったデバイスであり、 これと同じレンズ作用を持つ GI 型 POF は、リレーレンズと同じように反対側に物体のイメージを結像させることができる。 GI 型 POF の屈折率分布を理想分布に近づけることにより、高精細な画像を伝送することが可能となる。 極細の硬性内視鏡としては従来、ガラス製光ファイバを束ねて映像を伝送するもの、 先端に極小カメラを搭載したものなどがあるが、 今回開発した極細硬性内視鏡は、先端に設置された「 GI型POFレンズ」を通して体内の映像を体外へ伝送できることが特長。 体外にカメラを設置する構造を取ることが可能となり、検査に合わせたカメラを選ぶことも可能になる。 GI 型POFレンズは、0.1~0.5 mmの細さで実現できる上、フレキシブルで折れにくく、 ガラス製に対して扱いが容易というメリットがある。 レンズをプラスチックで作ることができ、より低コストで、注射針と同様に先端部を単回で使用(ディスポーザブル)できる。 臨床使用のイメージ 臨床においては図のような機器構成をイメージしている。 患部への挿入部分となる先端の極細レンズ部は、外径 1.25 mm(太さ 18 ゲージの注射針と同等)の外筒管に、 外径 0.5 mmの GI 型 POF レンズを内蔵。 CMOS センサを搭載したペン型のカメラ部に極細レンズ部を連結することで、極細の硬性内視鏡になる。 カメラケーブルを PC に接続し、モニタに表示した内視鏡画像を見ながら検査を行う。 極細レンズ部は、低コストでの製造が可能となるため、 医療用注射針と同じように単回での使用(ディスポーザブル)も可能。 注射針と同じ細さであるため、局所麻酔下でも使用可能で、 使用後の縫合も不要な硬性内視鏡として、外来や処置室等での内視鏡検査も可能。 両者は今後、試作機の改善や前臨床評価を推し進め、2024 年の実用化を目指すとともに、 整形外科領域以外への応用や、検査だけでなく治療用途へも適用を拡大していきたい。 ※1 GI(Graded Index)型 光ファイバのコアの屈折率分布に勾配(高い部分から低い部分まで連続している)があるもの。 反対に、コアの屈折率分布が一様なものを SI(Step Index)型と呼ぶ。 ※2 POF(Plastic Optical Fiber) ガラス材料の光学ファイバに対して、プラスチック材料の光学ファイバのこと。 https://medicalai.m3.com/news/230526-news-medittech

腸内微生物叢のシーケンシング・データから性別や属性を推定

2023年5月28日(日) 大阪大学、理化学研究所、東京大学、愛知県がんセンター、吹田市民病院、大阪南医療センターの研究グループは、 ヒトの腸内微生物叢のシーケンシング・データに含まれるわずかなヒトゲノム由来配列情報から、 個人の遺伝子多型情報を再構築することに成功した。 研究グループはまず、腸内微生物叢シーケンシング・データに含まれるヒトゲノム由来配列のうち、 ヒトのX・Y染色体に由来するものを利用して性別を推定。 343名の訓練用データセットで訓練したロジスティック回帰モデルを利用して、 113名分のデータを解析したところ、97.3%の確率で成功した。 腸内微生物叢シーケンシング・データ中のヒトゲノム由来配列と、同一個人に由来する遺伝子多型データを 紐付けることができるか検証した。 343名分のシーケンシング・データと遺伝子多型データを使って検証したところ、 93.3%の確率で紐付けることができた。 個人が属する人種集団を推定する検証でも、80〜98%の正答率が得られた。 研究チームは、高深度腸内微生物叢シーケンシング・データ中のヒトゲノム由来配列から、遺伝子多型情報を取得した。 高深度腸内微生物叢シーケンシング・データ中のヒトゲノム由来配列の量は、 一般的なヒト全ゲノムシークエンシングデータなどと比較すると少ない。 そのため、研究チームは「two-step imputation法」によって外部の参照ゲノム配列データを利用し、 集団中に比較的高頻度に存在する遺伝子多型情報をゲノム領域全体にわたって再構築した。 外部の参照データを利用しなかった場合、ゲノム領域全体の情報を得ることは難しいものの、 一部の集団中にごく低頻度にしか存在しない遺伝子多型の情報を取得できることが分かった。 研究成果は5月16日、ネイチャー・マイクロバイオロジー(Nature Microbiology)誌にオンライン掲載。 研究成果は、法医学分野での活用や、個別化医療への応用が期待できる。 https://medicalai.m3.com/news/230528-news-mittr