2020年7月25日土曜日
唾液PCR検査で無症状感染者をチェック 入国者や濃厚接触者は公費負担
サイエンスポータル 2020年7月21日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のPCR検査について
厚生労働省は、有症者だけでなく、無症状の人を対象にした検査にも
唾液を使うことを承認した。
海外からの入国者や濃厚接触者の検査には公費負担する。
唾液PCR検査は、鼻の奥の粘液を綿棒で採取する従来の方法よりも
簡単、安全に検体を採取でき、結果も短時間で判明する。
同省は、空港の検疫所などでの水際対策に活用したい。
厚労省は東京都内で無症状の感染者数十人を対象に、
従来の方法と唾液を用いた方法の双方について検査精度を検証、
結果はほぼ一致した。
空港の検疫所で入国検査を受ける無症状の人や、
感染者の濃厚接触者らの感染の有無を調べるPCR検査の検体に
唾液を用いても問題ないとの結論。
6月2日以降、有症者の発症後9日までに限って唾液PCR検査を認めていた。
厚生科学審議会の感染症部会は、今回の検証結果を受け、
無症状の人にも唾液を用いたPCR検査を行うことについて問題はないと判断。
加藤勝信厚生労働相が17日の閣議後記者会見で、
海外からの入国者や濃厚接触者の検査には公費負担するなどの方針。
海外からの帰国者のうち、7月16日、17日の2日間に男性6人、女性3人の計9人が
無症状ながらCOVID-19陽性と判定。
年代は20代から60代と幅広く、同省は今後の感染拡大防止上、
こうした無症状感染者を水際でチェックする必要があると判断。
簡便な唾液PCR検査の活用に踏み切った。
以前は、唾液に含まれるウイルス量は鼻の粘液よりも少ないとみられ、
唾液PCR検査の精度は低いとの指摘も。
厚労省研究班が、COVID-19の感染者約90人から採取した唾液を使っての精度を
従来の方法と比べると、発症から9日以内なら判定結果がほぼ一致。
北海道大学の研究でも、唾液を使った方法の有効性が確認。
米食品医薬品局(FDA)も、唾液を使った検査キットの緊急使用許可を
5月初旬に出し、現在広く活用。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長)は、
無症状の人に対する検査のあり方について議論。
16日の会合では検査対象を
(1)有症状者、
(2)無症状で感染リスクが高いとみられる人、
(3)無症状で感染リスクが低いとみられる人―の3つに分類。
症状が無い(2)(3)のうち、(2)については公費負担、
(3)については企業や個人の費用負担を前提に検査を受けることに道を開く方針で合意。
感染拡大を防止するためには、無症状の人を広範囲に検査する体制を
確立すべきと指摘する専門家も多い。
http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2020/07/20200721_01.html
2020年7月13日月曜日
「コロナ後の社会で、スポーツの価値とは」 日本学術会議フォーラム、議論白熱
サイエンスポータル 2020年6月30日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、在宅時間が長くなり、
健康維持の観点から、スポーツの在り方が注目。
コンピューターゲームの対戦を競技として捉える「eスポーツ」が普及し、
若者の心身への影響が議論。
東京五輪・パラリンピックの開催が来年に延期された今、
社会はスポーツが持つ多様な価値や課題を、改めて見つめる必要に迫られている。
日本学術会議は学術フォーラム「人生におけるスポーツの価値と科学的エビデンス
新型コロナ感染収束後の社会のために」を、6月18日に開催。
スポーツ庁からスポーツの価値をテーマに審議依頼を受けた同会議が、
回答をとりまとめたのに合わせ、内容の公表と講演などを盛り込んだイベント。
◆「科学的根拠に立脚した練習を」など盛り込む
審議は、鈴木大地スポーツ庁長官が2018年11月、
「科学的エビデンスに基づく『スポーツの価値』の普及の在り方に関する審議について」
として、次の4つの課題について学術会議に依頼。
(1)日常生活でスポーツに親しむことが個人や社会にどう貢献するか、
科学的知見の整理、
(2)伝統や慣習、組織や精神文化との関係も含め、
スポーツの価値を高めるためのスポーツ界と科学の関係の検討、
(3)科学技術や情報技術の変化がスポーツの価値にどう影響するかの科学的知見の整理、
(4)スポーツ政策でEBPM(Evidence-Based Policy Making、証拠に基づく政策立案)を
推進する体制整備の提案。
学術会議は、委員会を設置。
科学技術振興機構の渡辺美代子副理事を委員長とする有識者ら16人。
(1)スポーツは心身の健康や体力増強、学習・認知能力の伸張に好影響を与え、
医療費抑制などで社会にも寄与する。
障害者を含む多様な人々が参画し、画一的でない実践を促すことが必要、
(2)科学的根拠に立脚した練習やコーチングにより、
経験主体のスポーツに高度な合理性を与えられる。
研究と応用が、人間の選別につながらないよう倫理面の配慮が不可欠、
(3)競技人口が急増しているeスポーツなど、身体運動を超えた新たな価値に配慮が必要。
ゲーム依存の防止策、組織やルールの確立などが急務、
(4)政策に反映できる科学的根拠の共有が重要。
各機関や現場で収集されたさまざまなデータを共有し包括的に分析するため、
各省庁や諸機関、学協会などのネットワークを活用する仕組みが必要。
◆スポーツは「社会の基礎を作る」
委員会は、「提言」も取りまとめた。
データを国立スポーツ科学センターに一元化する体制整備や、
科学的根拠に基づく指導によって暴力を削減、最小化する取り組み−−などを盛り込んだ。
鈴木氏は「審議依頼時、スポーツ界はセクハラ、パワハラ、ガバナンス(統治、管理)の
欠如など、ありとあらゆる問題の最中だった。
情熱的な指導と暴力の境目はどこか、eスポーツはスポーツなのか。
今後も学術会議との関係を強固にし、さまざまな課題を解決したい」
学術会議の山極壽一会長が「スポーツは科学的根拠だけでなく、
社会的意義も非常に重要。信頼するコーチや仲間の中でスポーツをすることで
信頼感を醸成し、生きる喜びを感じる。社会の基礎を作ってくれる。
学術としてスポーツを考えていくことが重要だ」
◆「引退までの苦しい道のり」経験告白も
基調講演では、脳性まひを持ちながら障害と社会の関係について研究する、
東京大学の熊谷晋一郎准教授。
五輪でヒーローが生まれるが「その陰で、成功できなかった人がたくさんいることを
忘れてはならない」と、元五輪バスケットボール選手、小磯典子さんの言葉を紹介。
スポーツは勝敗ではなく、人が社会で課された重荷を降ろして自由になり、
継続的に成長できるものであることが重要だ。
神戸大学医学部病院「ネット・ゲーム依存外来」で診療を続ける曽良一郎教授は
「eスポーツをスポーツと称するなら、心身の健全な発育に貢献することが求められる」と提起。
食欲が抑えられ、低体重となった若者などのゲーム依存の症例を紹介、
脳内のメカニズムが薬物依存のケースに似ていると指摘。
社会に対しては、ゲーム依存への警鐘がゲーム自体の制限の主張だと
誤解されているとアピール。
eスポーツは健康対策と経済活動の両立を図るべきだが、
ゲームの影響のデータが社会で共有されていないなど、多くの課題がある。
新型コロナウイルスによる休校が続いたことで、回復が妨げられたり、
予備軍が依存症に進んだりすることに強い危機感を示した。
日本スポーツ振興センター・ハイパフォーマンススポーツセンターの勝田隆センター長は、
新型コロナウイルスの影響を受けたスポーツ活動の再開にあたって、
「現場の皮膚感覚だけでなく、科学的に考えるサポートが重要だ」
ネットを含めさまざまな情報が飛び交うが、
「どんな機関や人が出しているものなのか。信頼性を重視してほしい」と呼び掛けた。
順天堂大学の室伏由佳講師は、2004年アテネ五輪出場などを果たした陸上選手時代、
過度の「都市伝説のような」トレーニングを重ねてスポーツ障害に陥ったと、
自身の経験を振り返った。
腰痛や貧血、婦人科疾患などに悩みながら、競技成績が良かったため対処を後回しに。
「引退までの苦しい道のり」の経験を告白し、メンタルヘルスや心理にも配慮した
選手のサポートの重要性を強調した。
1988年ソウル五輪シンクロナイズドスイミング銅メダリスト、
国際オリンピック委員会マーケティング委員会の田中ウルヴェ京委員は、
選手のメンタルトレーニングや心理コンサルティングに取り組んでいる。
選手の引退後のキャリア支援について講演。
「勝って得られる自信と、結果を得る過程にある自信は別のもの。
トップクラスの選手は、この2種類の自信を小さいころから鍛えており、
これらは引退後のセカンドキャリアでも生きるものだ」
引退時は、「競技を振り返り、今後の自分に何が有益、有害で、
何を転換しなければならないかを考える"棚卸し"作業が必要だ」
◆コロナ拡大で「競うことの意味変わる」
パネルディスカッションには、委員を含む7人が参加。
中京大学の來田享子教授は、「スポーツが社会と切り離せないことを強く認識した。
社会から光を当てると、そもそもスポーツに近づけない人がいることや、
各競技に良さと課題があることに気づく。提言はこうしたことを強調できた」
五輪の歴史に詳しい來田氏は「(近代オリンピックを提唱した)クーベルタンの
時代には人々の物理的距離が大きく、4年に1度集まることには特別な意味があった。
今は世界の移動が簡単になり、デジタル技術も発達し、集まることの意味が変化している。
新型コロナウイルスの拡大により、競うこと、体を近づけて互いに感じることの意味も変わる」
「スポーツのルールの捉え方も変わっていい。
国の経済状態が違えば、トレーニング環境や栄養状態も違うのに、
私たちはそのことに基本的に目をつぶり、スポーツのルールは公平だと言いくるめてきた。
これまで意識されなかった不公平さを乗り越えられると、
これまでとは違う人々が表彰台に上がるかもしれない」
バイオメカニクスや生体計測が専門の早稲田大学の川上泰雄教授は、
トップアスリートを支えて得た実感に基づいて、「万全の健康を保っている選手は意外に少ない。
多くが、けがや障害と付き合いながら競技生活を続けている。
将来を担う子供がこうならないよう、適切なスポーツ活動の確立を」と警鐘。
子供の発達障害に詳しいお茶の水女子大学の神尾陽子客員教授は
「教育が画一から個別へとシフトする中、スポーツ教育も画一的なままで
ドロップアウトする子供が出ないよう、教育者がスキルを身に着けてほしい」
国立情報学研究所の喜連川優所長は、「選手には引退まで、
コンサルタントがいていいなあと感動した。
大学の研究者なんて、そんな心配をしてくれる方は誰もいない」
「アスリートではない人がスポーツをすると、人生がどう変容するか。
そちらにも目を向けては」
◆勝負だけでない五輪の価値、見えるように
ディスカッションの進行役は、1988年ソウル五輪柔道銅メダリストで
日本オリンピック委員会理事、筑波大学の山口香教授。
「延期された五輪・パラリンピックでは、勝ち負けだけでない何かが、
きっと出てくる期待を感じる。でもいざ始まったらやはり、
日本人がメダルを取るのだといった話に、戻ってしまう気もする」と複雑な思い。
田中氏は「メディアには見えやすいもの、伝わりやすいものを報道する視点がある。
スポーツの人間は『五輪は結果主義ではない』と言わなければ。
五輪の価値はエクセレンス(卓越性)、リスペクト(敬意)、フレンドシップ(友情)
と決まっているが、見えにくい。
コロナの影響で、このオリンピズムを子供たちに伝えられていない」と、
もどかしさを口にした。
「来年に五輪があるかないかは、不確実性というストレスだ。
コロナの影響はコントロールできないので、私は現場では
『2024年のパリを目指そう』と言っている。
毎日鍛える理由が必要で、明確なものに視点を置かないとやっていけないからだ」
來田氏は「競技をしようと思っていた機会がずれてしまうのは、選手にはとてもしんどい」
「延期の1年の間に、勝ち負けだけでない、五輪の見えにくい価値を
見せていくことがあってよい。
クーベルタンは芸術や音楽などの創造的な営みの中に、
スポーツと共通する価値をみていた」
山極氏は「学術とスポーツは、南極と北極くらい離れていると思っていたが、
今日は赤道まで来ている感じがした。
コロナ後の新たな科学のあり方の、突破口が開かれるように思う」
人間の身体能力の頂点を見せてくれるトップアスリートは、いつの時代も憧れの存在だ。
スポーツの価値が多様化しても、この価値観は何らかの形で残るだろう。
スポーツ文化が成熟した社会では、彼らには競技成績だけでなく、
心身の健康管理の面で人々のモデルとなる役割も求められるようになる。
http://scienceportal.jst.go.jp/reports/other/20200630_01.html
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