2023年4月30日日曜日
記憶がうつ病などの精神疾患を発症させる仕組みを解明=東北大など
2023年4月27日(木)
東北大学と東京大学の研究グループは、
ストレスを受けたときの記憶が脳内で強化されすぎることが、うつ病などの精神疾患を発症させる一因であることを解明。
過剰な精神的ストレスを受けると、不安やうつの症状を発症するが、
その症状には大きな個体差があり、個体差が存在する理由は分かっていなかった。
研究グループは、過剰な精神的ストレスを受けた際の症状の個体差を説明する仕組みの候補として「記憶」に着目。
嫌なストレス記憶が脳内で強化されすぎることが、精神症状発症の一因になるという仮説を立てた。
そこで、記憶と情動の両方で重要な役割を果たす腹側海馬に注目して、
ストレス記憶が精神症状の発症にどのように関係するのかを調べた。
マウスはヒトと同じように、ほかの個体から攻撃されるようなストレス刺激を受けると、うつ状態に陥る。
今回の研究では、マウスを使った実験を試みた。
ストレスをかける前のマウスから腹側海馬の組織を微量採取し、遺伝子発現解析を実施した。
その結果、カルビンジンという遺伝子を強く発現していたマウスは、
ストレス刺激を受けるとうつ状態に陥りやすいと分かった。
腹側海馬のカルビンジン遺伝子を人為的に欠損させたマウスは、
ストレスを受けても症状を発症しにくいことも分かった。
マウスの腹側海馬に金属電極を埋め込んで、ストレスをかけたときの脳波の変化を観察した。
その結果、ストレス感受性が高いマウスは、ストレスを受けた後に腹側海馬で
「リップル波」と呼ぶ脳波を多く発していることが分かった。
カルビンジン遺伝子を欠損させたマウスや、ストレス抵抗性が高いマウスでは、
このような脳波の変化は確認できなかった。
脳波を常に計測して、リップル波を検出した直後に電気的なフィードバック刺激を流して、
リップル波だけを消失させるシステムを構築し、ストレスをかけたマウスが発するリップル波を消去したら、
うつ症状の発症を抑えることができた。
ストレスをかけたマウスを強制的にウォーキングマシンに乗せて運動させてみた結果、
腹側海馬のリップル波はほとんど観察できなくなった。
研究成果は4月20日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)誌にオンライン掲載。
海馬の構造やリップル波の機能はマウスとヒトの間で非常に類似しており、
今回明らかになった記憶が精神疾患を発症させる仕組み、
そして運動で発症を抑制できることはヒトでも共通する可能性がある。
https://medicalai.m3.com/news/230427-news-mittr
自己免疫疾患の病態を悪化させる物質を発見=阪大など
2023年4月30日(日)
大阪大学、サーモフィッシャーサイエンティフィック、関西医科大学の研究グループは、
自己免疫疾患の病態を悪化させる物質を発見した。
研究グループはこれまでに、COMMD3とCOMMD8の2種類のタンパク質の複合体である「COMMD3/8(コムディー・スリー・エイト)」が
B細胞の移動を促し、免疫応答を強めていることを解明している。
しかしCOMMD3/8が、自己免疫疾患の病態変化でどのような役割を果たしているのかは分かっていなかった。
研究グループは今回、代表的な自己免疫疾患である関節リウマチのモデルマウスを作成し、
モデルマウスの体内でCOMMD3/8を欠損させてみた。
その結果、関節炎の進行を抑えることができた。
この結果から、COMMD3/8が自己免疫疾患を悪化させていることが分かった。
研究グループはさらに、COMMD3/8の働きを抑える化合物を探索した。
その結果、セラストロールという化合物を発見した。
関節リウマチモデルマウスに投与してみたところ、
COMMD3/8を欠損させたときと同じように関節炎の進行を抑えることができた。
セラストロールは、抗炎症作用を持つ生薬であるライコウトウの主要な薬効成分だが、
その薬理作用は十分に解明されてはいなかった。
セラストロールを関節リウマチモデルマウスに投与した結果、
関節炎の進行を抑えられたという結果から、
セラストロールがCOMMD3/8を標的として自己免疫疾患の病態を改善することが分かった。
研究成果は4月1日、サイエンス・イミュノロジー(Science Immunology)誌に掲載。
今回の研究で発見したセラストロールを基に、COMMD3/8阻害剤を開発するなど、
COMMD3/8を標的とした自己免疫疾患の新たな治療法の開発が期待できる。
https://medicalai.m3.com/news/230430-news-mittr
2023年4月7日金曜日
AIは論文を評価できるか~研究者と査読者の終わりなき戦い~――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(112)
以前、私が紹介した記事(氾濫する「論文工場」との戦い、ChatGPTを用いた論文作成は手抜きか否か)では、
AI(ChatGPT)を用いた論文作成について紹介し、その能力と可能性について論じた。
では、論文の査読についてはどうか?
2022年12月のNature誌の記事では、AIを用いた査読についてはまだ発展途上だろう[1]。
幸か不幸か、私は数えるほどしか論文の査読を行ったことはない。
査読を行った先生のお話を伺うと、その作業は大変。
忙しい業務の合間を縫って論文を読み、実験方法を評価。
内容が満足できるものであれば、科学の発展にとって有意義だが、
貧弱な研究内容であった場合は、査読にかけた時間は無駄になってしまう。
おまけに、昨今の論文作成方法は「論文工場」や「AI論文」といった手段を用いて、
効率的に見栄えの良い論文を作成してくるため、多勢に無勢[2]。
そこで、AIを利用して査読者の負担を軽減する取り組みが加速している。
AIは、以前から査読を効率化するために検討されてきた。
オランダの研究者が開発した「statcheck」は、論文中の統計的な誤りを指摘するツール[3]。
画像データの加工を検知するソフトウェア「proofig」もあり、
一部の出版社は、データを加工している科学者をつかまえるためのソフトウェアを使用[4]。
論文工場から生まれた論文を見つける「papermill alarm」を公開している研究者も[5]。
今回、英国の主要な公的研究助成機関が委託した研究では、
英国のResearch Excellence Framework(REF)に提出される学術論文の査読を
アルゴリズムがどのように支援できるかが検討され、結果が2022年の12月に公表[6]。
●AIを用いた査読に関する研究
REFは、英国の高等教育機関で行われた研究に対する監査であり、
2022年5月に最新の結果が公表。
REFによって、英国内の157機関7万6000人を超える研究者による18万5000件超の研究成果が評価され、
約20億ポンド/年の資金が英国の教育機関にどのように配分されるかが決定される。
次回のREFは、2027年または2028年に実施される予定。
今回の研究では、AIによって評価プロセスの負担を軽減できるかどうかが検証された[1][7]。
研究では、15万本弱の科学論文の査読データを評価。
ウルヴァーハンプトン大学のデータサイエンティスト、マイク・テルウォール氏は、
REFの査読者が論文につけた評価と同様のスコアをアルゴリズムで得られるかどうか確認するため、
さまざまなAIプログラムをデータに用いている。
12月12日に発表された研究結果によると、AIシステムは72%の確率で人間の査読者と同じ評価を行った。
しかし、実用に堪えるレベルとなると、
AIシステムに望まれる精度は95%程度だろうとテルウォール氏は語っている。
●AIを使った査読の問題点
研究では、いくつかの問題点が指摘。
まず、AIシステムはREFに多くの論文、つまりサンプルが提出される機関からの評価には役立っていたものの、
論文数が少ない機関からの評価にはあまり役立たなかった。
論文査読特有の課題も。精度向上のためにはより広い規模でテストを行う必要があり、
すべての論文資料を利用することは困難。
査読者が付けたスコアは、後で決定に異議を唱えることができないよう削除されるため、
データを蓄積することが難しい点も指摘。
質の高いAIには、透明性を持ったデータが必要だが、
査読に関わるデータは、教育機関にとっては研究費の獲得にかかわる死活問題であり、AI開発は難航しそう。
研究政策学者でロンドンにあるResearch on Research Instituteのディレクターである
ジェームズ・ワイルズドン氏は、「研究対研究という観点から見た時、
これだけの努力をしたのにデータが削除されてしまうのは悲劇だが、
お金が絡んでいるため、大学が法的な異議を申し立てることを常に恐れている」[1]。
●査読におけるAIの活用法
テルウォール氏は、「私たちは、AIプログラムが、査読者が何らかの形で役に立つ情報を
提供できるかどうかを調べている」。
「査読者が論文を評価する際、考慮すべき点をAIが提案することができるかもしれない」と。
論文の評価が査読者の中で分かれた際、AIを審判として利用することも考えられるとテルウォール氏は指摘[7]。
「AIがREFのプロセスに関与することはもっともらしいように思えるが、
その役割が何であるかは完全には明らかではなく、
原稿に点数をつけるためにAIを使うことには反対だと述べるのは、
米国イリノイ州シカゴ大学で科学におけるAI技術の利用を研究しているイーモン・デュエード氏。
ドイツ・ミュンヘンのコンサルタント、アンナ・セヴェリン氏も、
「査読者の代わりにAIを活用すべきではない」とし、
「AIや機械学習が作業負荷の軽減に役立つ分野は、実際の査読プロセスを取り巻く管理業務やプロセス、サポート」[7]。
AIの応用方法のひとつは、適切な査読者を見つけること。
最近の分析では、研究者が査読の依頼を断ることが多くなる一方、
常に査読依頼を受け続けている一部には、偏見や利益相反のある人物が交じっている可能性があるため、
AIの活用が期待されると記事では述べられている[7]。
●あくまでAIは「効率化」のため
現在の欠点を考慮すると、テルウォール氏とそのチームは、
2027年または2028年に実施される予定の次のREFプロセスにおいて、
AIシステムを査読の補助に使用すべきではないが、
REFプロセスの評価に活用できるかもしれない[1]。
確かにAIの下す決断が意味のあるものだとしても、
評価項目がバレてしまうと対策がされてしまう。
これではまるで落語のような話になりそう。
論文の査読に関わる事務作業、たとえば著者の所属や業績に問題がないかどうかや
引用文献の内容の評価、共著者への連絡といった事務作業の軽減には役立ちそう。
研究のためには、研究費が必要。
研究費の獲得のためには、既存の研究や論文が評価されることが必要で、
テクニックの部分に研究者側・査読者側ともに振り回されているような印象がある。
面白い研究や壮大な研究にどんとお金がつけば良いとも思うが、
詐欺のような話も出てきそうで、都合のいい事にはならなそう…。
【参考】
[1] Nature. AI system not yet ready to help peer reviewers assess research quality
[2] Nature. Papermill alarm’ software flags potentially fake papers
[3] Statcheck
[4] Proofig
[5] Papermill Alarm API Documentation
[6]Can REF output quality scores be assigned by AI? Experimental evidence
[7] Nature. Should AI have a role in assessing research quality?
https://medicalai.m3.com/news/230330-series-kosaka112
iPS細胞からがんを攻撃するガンマ・デルタ T細胞を作製=神戸大
2023年4月2日(日)
神戸大学の研究チームは、ヒトiPS細胞から、ガンマ・デルタT細胞を作製することに成功した。
ガンマ・デルタ(ɤδ)T細胞は、さまざまな種類のがん細胞を攻撃し、
患者本人以外から採取したものであっても、がん細胞を攻撃できる特質を持つ。
こうした特質に注目して、ガンマ・デルタT細胞を体外で増幅培養して、
がんの免疫細胞療法に利用しようとする動きがあるが、
血液から作製するガンマ・デルタT細胞の増幅力には限界があり、
少数の提供者の血液から多数の患者の治療に十分な量まで細胞を増やすことは実現していない。
実現すれば、ガンマ・デルタT細胞を「既製品」のように製造し、流通させることができる。
研究チームは今回、無限の増殖脳と分化多能性を持つiPS細胞に注目。
同チームは、過去にガンマ・デルタT細胞からiPS細胞を作製することに成功し、
そのiPS細胞が血液細胞の元となる造血幹細胞に分化する能力があることを確認している。
しかし、そのiPS細胞から機能的なガンマ・デルタT細胞を作製できるかどうかは未確認のままだった。
iPS細胞から作製したガンマ・デルタT細胞は、
元の細胞の提供者以外でも大腸がん細胞、肝がん細胞、白血病細胞を攻撃することが確認できた。
この結果から、iPS細胞から作製したガンマ・デルタT細胞は、「別人」のがんの治療にも有効である可能性が高まった。
研究成果は3月23日、ステム・セル・リポーツ(Stem Cell Reports)誌にオンライン掲載。
今後、がん免疫細胞療法での利用を目指す。
iPS細胞が持つ、遺伝子操作が比較的容易という特徴から、
より高度な免疫細胞療法であるCAR-T療法やTCR-T療法にも応用できる可能性がある。
https://medicalai.m3.com/news/230402-news-mittr
2023年2月4日土曜日
パンデミックの流れを変えた mRNAワクチンの登場 2023年の展開は?
2023年1月31日(火)
メッセンジャーRNAワクチンは、新型コロナウイルスのパンデミックを乗り切る上で欠かせないものだった。
しかし、mRNAの可能性はそれだけではない。
他の多くの感染症に対応するワクチンや、あらゆるインフルエンザから人体を守るワクチン、
さらにはがんの治療に役立つワクチンも開発できる可能性がある。
2020年のことを思い出してほしい。
新型コロナウイルスの影響が次第に広がっていった時期のことだ。
命に関わる可能性のあるこの病気から身を守るために、私たちはマスクを着用し、
触れたものすべてを消毒し、他人との距離を置くしかないと警告されていた。
ありがたいことに、その裏ではもっと効果的な予防法の準備が進んでいた。
科学者たちは、まったく新しいワクチンを異例の速さで開発していたのだ。
1月には、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の塩基配列解読が終わり、
3月にはメッセンジャーRNA(mRNA)を使ったワクチンの臨床試験が始まった。
年末までには米国食品医薬品局(FDA)がワクチンの緊急使用許可を出し、ワクチン接種が本格的に始まった。
米国では、これまでに6億7000万回分以上のワクチンが人々に行き渡っている。
新薬としては驚異的なスピードだ。
実現できたのは、長年にわたる中核技術の研究があったからだ。
科学者や企業は、何十年も前からmRNAを利用した治療法やワクチンの開発に取り組んでいた。
最初に実験的な治療法が試されたのは、1990年代のこと。
げっ歯類を対象とした実験で、糖尿病やがんなどの病気を治療しようとするものだった。
mRNAワクチンは、ウイルスの一部を人体に注射するという方法に依存しない。
その代わりに遺伝子コードを注射し、人体がそのコードを使って関連するウイルスのタンパク質片を自分で作れるようにする。
この方法は全工程において、ウイルスの一部を使用する方法よりもはるかに迅速かつ簡潔なものだ。
実験室でウイルスを培養する必要はなく、それらのウイルスが作るタンパク質の精製も必要ない。
最初に承認されたmRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対するものだったが、
他の多くの病気に対しても同様のワクチンの開発を模索する動きがある。
マラリア、HIV、結核、ジカ熱などは、その可能性のあるほんの一部だ。
mRNAワクチンは、個々の患者に合わせたオーダーメイドのがん治療にも使えるかもしれない。
がん治療の場合、体内の腫瘍細胞を攻撃するように設計された特定の免疫反応を誘発する手法が考えられている。
承認された2種類の新型コロナワクチンのうちの1つを開発したバイオテクノロジー企業であるモデルナは、
RSV(RSウイルス)、HIV、ジカ熱、EBV(エプスタイン・バー・ウイルス)などをターゲットとするmRNAワクチンの開発を進めている。
もう1つの新型コロナワクチンをファイザーと共同で開発したバイオンテック(BioNTech)は、
結核、マラリア、HIV、帯状疱疹、インフルエンザのワクチン開発に向けて研究を進めている。
両社ともに、がんの治療法開発にも取り組んでいる。
他の多くの企業や大学の研究室も、この動きに同調し始めた。
●自家製ワクチン
メッセンジャーRNA自体は、人体に入るとDNAによって読み込まれ、
タンパク質を作り出すのに使われるらせん構造の遺伝子コードである。
実験室で作られるワクチン用のmRNAは、特定のタンパク質をコードする(特定のタンパク質を作るための情報を持たせる)ことができる。
免疫系に認識させるように訓練したいタンパク質だ。
新型コロナウイルス・ワクチンの場合、
病気の原因となるSARS-CoV-2ウイルスの外殻に存在するスパイク・タンパク質がコードされている。
このmRNAは、脂質ナノ粒子という小さな粒子状の膜の中に収められる。
体内に無事に送り届けるためだ。
mRNAを使ったワクチンの研究に、いち早く取り組んできたペンシルベニア大学のカタリン・カリコ非常勤教授によれば、
このワクチンは安価かつすばやく、簡単に作れる。
非常に効率的でもある。
mRNAを細胞に入れると、30分後にはもうタンパク質が生成されています」と、カリコ教授。
そのようなタンパク質に一度さらされたことのある免疫系は、
同じタンパク質を持つウイルスに遭遇した際に強力な反応を起こしやすくなるというのが、
このワクチンの基本的な考え方だ。
新型コロナウイルスの場合、私たちを感染から守るタンパク質である抗体の生成が、
免疫系の反応を引き起こす主な要因になると考えられている。
訓練された免疫細胞も重要な役割を果たす。
理論的には、あらゆるタンパク質を標的とするmRNAを作ることができる。
そのため、どんな感染症でも標的になり得る。
現在、多くの感染症に対するmRNAワクチンの臨床試験が実施されている。
mRNAワクチン技術にとって刺激的な時代なのだ。
●万能防御
次に、臨床現場へ投入されるのはどのmRNAワクチンか、正確に予測するのは難しい。
現在のところ大きな期待が寄せられているのは、インフルエンザ・ワクチンだ。
複数のインフルエンザ株に対して予防効果があるだけでなく、
新型コロナウイルスからも防御できる万能ワクチンが現れるかもしれない。
現在のインフルエンザ・ワクチンは、ウイルスが含有するタンパク質を免疫系に導入することで機能する。
免疫系が反応を起こし、ウイルスの倒し方を学ぶのだ。
このタンパク質を作るには、数カ月かけて卵の中でウイルスを増殖させる必要がある。
ブリティッシュ・コロンビア大学でRNAを研究しているアンナ・ブレイクニー助教授によると、
10月にワクチンを使えるようにするには、2月には製造を始めなければならない。
北半球の科学者たちは毎年、南半球で起こったことを参考にして、
北半球で流行しそうなインフルエンザ株がどれかを予測している。
予測が常に的中するとは限らない。
インフルエンザ・ウイルスは卵の中にいる間でさえも、時間とともに変異する可能性がある。
その結果、「ワクチンの効果は低いことが知られています」とブレイクニー助教授。
米国疾病予防管理センター(CDC)の推計によると、
2019~2020年に米国で使用されたインフルエンザ・ワクチンの有効率は39%だが、
2004~2005年のインフルエンザ・シーズンで使用されたワクチンの有効率は10%。
mRNAワクチンは、比較的短時間で作ることができる。
「RNAワクチンは1カ月で完成できると考えていいでしょう」と、ブレイクニー助教授。
10月に流行しそうなインフルエンザ株を予測するために、9月までじっくり考えることができる。
その結果、標的をより正確に絞れるはずだ。
他にももう1つ、潜在的なメリットがある。
複数の種類のウイルスを対象に、それぞれのタンパク質をコードするmRNAの作成が可能なことだ。
複数のインフルエンザ株から防御するワクチンを作れるかもしれない。
ペンシルバニア大学のノルベルト・パルディ助教授たちは、万能インフルエンザ・ワクチンの開発に取り組んでいる。
このワクチンによって、ヒトを病気にさせる可能性のある、
あらゆる種類のインフルエンザから防御できる可能性がある、とパルディ助教授は考えている。
パルディ助教授のチームは最近、このワクチンが、インフルエンザの20種類の亜型から
マウスとフェレットを守る可能性があることを示した。
あらゆるコロナウイルスから防御するmRNAワクチンの開発に取り組んでいる研究室もある。
複数のタンパク質をコードできれば、1回の注射で複数の病気から守れる可能性がある。
モデルナはすでに、新型コロナウイルス、インフルエンザ、RSウイルスを標的とするワクチンの臨床試験を始めている。
将来にはさらに進歩し、理論的にはたった1回か2回の注射で20種類のウイルスから
防御できるようになるかもしれないと、カリコ教授。
●がんワクチン
新型コロナウイルスを標的とするmRNAワクチンの開発が始まる前から、
研究者たちはがんの治療にmRNAを利用する方法を模索してきた。
がん治療の場合、手法は少し異なっており、mRNAは「ワクチン療法」として機能することになる。
ウイルスのタンパク質を認識できるようにするのと同じように、
免疫系を訓練することにより、がん細胞のタンパク質も認識できるようになる可能性がある。
理論的には、この方法は完全に個々の患者専用にカスタマイズすることが可能だ。
科学者は、特定の個人の腫瘍細胞を調べ、その人自身の免疫システムががん細胞を撃退するのを助けるような、
カスタム・メイドの治療法を作り出せるだろう。
「RNAのすばらしい応用です。そこには大きな可能性があると思います」(ブレイクニー助教授)。
これまで、がんワクチンを作るのは難しかった。
原因の1つが、多くの場合、明確な標的となるタンパク質が存在しないこと。
新型コロナウイルスのスパイク・タンパク質のように、ウイルスの外殻に存在するタンパク質のmRNAは作ることができる。
カリコ教授は、私たち自身の細胞が腫瘍を形成する場合、
新型コロナウイルスのような明確な標的が存在しないことが多い。
がん細胞の場合、コロナウイルスから人体を守るために必要な免疫反応とは異なる種類の免疫反応が必要になるだろう。
「少々異なるワクチンを考え出す必要があるでしょう」と、パルディ助教授。
いくつかの臨床試験が進行中だが、「ブレークスルーはまだ起こっていません」(パルディ助教授)。
●次のパンデミック
mRNAワクチンは非常に有望ではあるが、少なくとも現在の技術では、世の中のあらゆる病気を防ぎ、
治療できるものではなさそうだ。
スウェーデンのストックホルムにあるカロリンスカ研究所の免疫学者であるカリン・ロア教授は、
mRNAワクチンの一部は低温冷凍庫で保管する必要がある点を指摘する。
世界にはそうした選択肢をとれない地域もある。
病気によっては、より難しい問題が伴うこともある。
感染症から防御するには、ワクチンのmRNAが関連するタンパク質をコードしなければならない。
そのタンパク質が重要なシグナルとなって、免疫系に対し、認識して防御すべきものを伝えるのだ。
新型コロナウイルスなど一部のウイルスの場合、
そのようなタンパク質を見つけることは非常に簡単だ。
他のウイルスの場合、それほど簡単ではない。
細菌感染を防ぐワクチンを作ろうとすると、良い標的を見つけるのが難しいかもしれない、とブレイクニー助教授。
HIVでもそれが難しかった。
「HIVに対して本当に有効な免疫反応を誘発する種類のタンパク質は、まだ見つかっていません」。
「mRNAワクチンがすべての解決策になるという印象を与えたくありません」と、ロア教授。
ブレイクニー助教授も同意見である。
「私たちは、これらのワクチンが発揮し得る効果を目の当たりにしてきました。それはとてもすばらしいこと」と、ブレイクニー助教授。
「しかし、一夜にして全てのワクチンがRNAワクチンになるとは思いません」。
それでも、楽しみなことはたくさんある。
2023年は、最新の新型コロナウイルス・ワクチンの登場が期待できる。
研究者たちは、近い将来、さらに多くの種類のmRNAワクチンを臨床の現場に投入したいと考えている。
「今後2~3年のうちに、他の感染症のmRNAワクチンも承認されることを本当に願っています」と、パルディ助教授。
パルディ助教授は、次の世界的な病気の大流行に備え、対応策を練っている。
次の大流行には、インフルエンザ・ウイルスが関与する可能性が高いと言われている。
次のパンデミックがいつ起こるのかはわからないが、「私たちはそれに備えなければなりません」と、パルディ助教授。
「パンデミックの最中にワクチン開発を始めてもすでに手遅れであることは、火を見るよりも明らかなのですから」。
This article is provided by MIT TECHNOLOGY REVIEW Japan Copyright ©2022, MIT TECHNOLOGY REVIEW Japan.
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2023年1月18日水曜日
100分の1濃度の抗がん剤でがん細胞死滅に成功、光誘導による新手法開発 大阪公立大
100分の1濃度の抗がん剤でがん細胞死滅に成功、光誘導による新手法開発 大阪公立大
2023年1月9日(月)
副作用をおさえ奏効率を上げる観点から、必要最低量の薬剤を患部にのみ選択的に届ける
「Drag Delivery System(ドラッグデリバリーシステム)」の研究開発が盛んだが、
大阪公立大学の研究グループが、赤外光による誘導をベースとした新手法で、
従来の100分の1の濃度でがん細胞を死滅させることに成功した。
研究グループでは臨床応用のほか、創薬プロセスの効率化にも寄与するとしている。
研究成果を発表したのは、大阪公立大学 研究推進機構 協創研究センター LAC-SYS研究所の中瀬 生彦 所長補佐、
飯田 琢也 所長、床波 志保 副所長らの研究グループ。
今回、超放射の補助による光誘起対流を用い、
細胞透過性ペプチド(CPP)を含む生体機能性分子の細胞膜への集積と透過性向上を実現し、
1000分の1程度のnmol/L(10-9 モル/リットル)レベルでの光誘起集合のドラッグデリバリーシステムへの応用を実証した(図1~図2)。
細胞培養液中の生細胞の周りに光発熱集合を誘起するために、
プラズモニック超放射※1を示す高密度に金ナノ粒子を固定したガラスボトムディッシュ※2、
または金薄膜をコーティングしたガラスボトムディッシュに、
生体へほとんど吸収されずダメージを与えない波長1064 nmの赤外レーザー(出力:100 mW~400 mW)を10倍対物レンズで100秒間集光し、
基板上の細胞から100μmほど離れた位置にある目的の生細胞付近に分子を濃縮させた。
細胞内小器官であるミトコンドリアだけを染色する「MitoTracker」という低分子を用いた実験では、
従来の自然の細胞内導入では500 nmol/L以上必要であり、
図1のレーザー照射点から離れた場所での比較実験結果から、
100分の1に相当する5 nmol/Lや1000分の1に相当する500 pmol/Lのような低濃度では、
ほとんど細胞内に入らずミトコンドリアを染色できていないことが確認できる。
一方、レーザー照射点付近の実験結果では、わずか1000分の1の濃度である500 pmol/Lでも
光誘起バブル近傍の細胞内のミトコンドリアだけを選択的に染色できることを明らかにした(図1)。
さらに、光誘導加速により従来法よりも100分の1の濃度に相当する50 n mol/LのR8-PADを用いて
細胞死への誘導に成功した(図2)。
研究グループはこの成果について、
プレシジョン・メディスン(精密医療)やテーラーメード医療など創薬・医療分野へのブレークスルーを与え得るものであるほか、
高価な新薬の細胞試験における薬剤量を大幅に削減することによる低コスト化や、
創薬プロセスの加速にもつながるとしており、
現在、研究成果の基礎部分の特許取得を進めている。
今後は製薬企業らとの共同研究も視野に入れる。
※1 プラズモニック超放射
金属は、その内部を電子が自由に走り回ることができるため、
高い導電性や金属光沢を示すことは良く知られている。
一方で、金属から成る100ナノメートル(nm: ナノメートル=100万分の1ミリメートル)以下のサイズ、
いわゆる金属ナノ粒子では内部の表面近傍に束縛された自由電子が「局在表面プラズモン」と呼ばれる状態を形成する。
金属ナノ粒子が高密度に集積すると、各粒子中の局在表面プラズモンが光電磁場を介して
相互作用することで光散乱効率が高まると同時にスペクトル幅が増大し、
分極間相互作用による長波長シフトも起こる。
例えば、可視域に含まれる500~600ナノメートルに共鳴波長を有する金ナノ粒子が高密度に集積した場合、
赤外波長のレーザーに対する散乱だけでなく吸収も増大することを、これまでの理論研究で明らかにしている。
※2 ガラスボトムディッシュ
細胞培養用の小型容器で、中心付近に直径12mm程度の小さな円形の1 mm程度の深さの窪みがあり、
その部分に細胞と培養液を保持できる。
論文リンク:Light-induced condensation of biofunctional molecules around targeted living cells to accelerate cytosolic delivery(Nano Letters)
https://medicalai.m3.com/news/230109-news-medittech
皮膚に貼り付けられる光学センサーを開発、継続的な血流モニタリングが容易に カリフォルニア大
皮膚に貼り付けられる光学センサーを開発、継続的な血流モニタリングが容易に カリフォルニア大
2023年1月13日(金)
カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが、
ヘモグロビンを含む深部組織の生体分子をモニターできる電子パッチを開発した。
医療関係者は悪性腫瘍、臓器機能不全、脳や腸の出血など、
生命を脅かす状態を発見するのに役立つ重要な情報に、これまでにないほどアクセスできるようになるとしている。
体内の血液循環のモニタリングは、重篤なものを含む疾患の兆候をとらえるのに非常に役立つ。
循環が悪くなると臓器の機能低下が起こり、心筋梗塞や四肢の血管疾患など、
さまざまな病気を引き起こす可能性が高まるし、
脳や腹部、嚢胞などに異常な血液が貯留している場合は、脳出血や内臓出血、悪性腫瘍の可能性が高まる。
もし血流の継続的なモニタリングが手軽にできれば、現在よりも確実に適切かつ早期の医療的介入が可能になる。
研究グループが今回開発したパッチ型のセンサーは、
皮膚に快適に貼り付けることができ、非侵襲的な長期モニタリングが可能だ。
柔らかいシリコーンポリマーマトリックスに、レーザーダイオードと圧電トランスデューサーのアレイを備え、
レーザーダイオードはパルスレーザーを組織内に照射し、組織内の生体分子が光エネルギーを吸収、周囲の媒体に音響波を放射する。
皮膚表面の生体分子のみを感知する他のウェアラブル電気化学デバイスとは異なり、
皮膚下数センチの深部組織でヘモグロビンの3次元マッピングをミリメートル以下の空間分解能で行うことができる。
照射する波長は拡張および変更が可能で、検出可能な分子の範囲を拡大でき、臨床応用の可能性も視野に入る。
「体内のヘモグロビンの量と位置は、血液の流れや特定の部位への蓄積に関する重要な情報を提供する」と、
カリフォルニア大学サンディエゴ校のナノ工学科教授で本研究の責任著者であるSheng Xu氏は述べ、
今後、ウェアラブルデバイス化や体幹温度モニタリングの可能性についても検討する予定だ。
論文リンク:A photoacoustic patch for three-dimensional imaging of hemoglobin and core temperature(nature communications)
https://medicalai.m3.com/news/230113-news-medittech
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