2022年2月4日金曜日
COVID-19に罹らない人を探す世界規模の計画が始動
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220209
原文:Nature (2021-10-29) | doi: 10.1038/d41586-021-02978-6 | The search for people who never get COVID
SARS-CoV-2感染に対して生まれながらに抵抗性のある人を探す、国際的なプロジェクトが始まった。
こうした人を調べれば、新しい治療法の開発につながると期待されるからだ。
パンデミック(世界的大流行)を引き起こした新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)に対し、
生まれつき抵抗性があったら、どうだろう?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患したり、このウイルスを広げたりする心配をしなくていいかもしれない。
このような特性を有する人を、研究者たちは探している。
研究に協力してほしいと思っている。
もしかすると、あなたも候補者かもしれない。
国際的な研究チームは、SARS-CoV-2の感染に抵抗性を与える遺伝的要因を有する人を世界的に探し始め、
その戦略を2021年10月にNature Immunology で発表した(E. Andreakos et al. Nature Immunol. https://doi.org/g4sh; 2021)。
このような人を見つけ、感染を防いでいる遺伝子を特定することが、COVID-19からの防御だけでなく、
感染の伝播も防ぐ「ウイルス遮断薬」の開発につながる。
「素晴らしいアイデアです。賢いやり方です」と、フレデリック国立がん研究所(米国メリーランド州ベセスダ)の
免疫遺伝学者Mary Carringtonは言う。
「成功が保証されているわけではありません。
このコロナウイルス科ベータコロナウイルス属のSARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性が存在するとしても、
その形質を持つ人は『ほんの一握り』かもしれません」と、
ルーバン・カトリック大学(ベルギー)の小児免疫学者で医師であるIsabelle Meyts。
彼女はこの取り組みを支えるコンソーシアムの一員である。
「問題は、抵抗性を示す人をどのように見つけるかです。
これは非常に難しいことですから、『やり遂げる』という強い意思が必要です」と、
テキサス大学サンアントニオ健康科学センター(米国)の感染症専門医Sunil Ahuja。
この論文の著者らは、該当者を探し出せると自信を持っている。
「1人見つかるだけでも、この戦略で最も重要なことは達成されるのです」と、
研究に参加するアテネアカデミー生物医学研究財団(ギリシャ)の免疫学者Evangelos Andreakos。
最初の段階は、対象を絞り込むことである。
COVID-19患者と長期間にわたって濃厚接触している人の中から、
ワクチン接種などの予防措置を取っていないのにSARS-CoV-2感染検査で陽性にならない、
あるいはこのウイルスに感染した細胞を除去する免疫応答が起こっていない人を探す。
特に興味深いのは、感染したパートナーと家やベッドを共有する人である。
こうしたカップルは「不一致カップル」として知られる。
Andreakosらの研究チームは、ブラジルやギリシャなどの世界10カ所の研究センターに属する研究者で構成され、
こうした基準をクリアした有力候補者を約500人、既に確保している。
彼らが論文を発表して以降、ロシアやインド在住の人も含む少なくとも600人から「私も該当する」との申し出があった。
この研究の共著者であるロックフェラー大学(米国ニューヨーク)の遺伝学者Jean-Laurent Casanovaは、この反応に本当に驚いた。
「SARS-CoV-2に曝露されても明らかに感染していない人が、自ら連絡をくれるなんて、思いもしなかった」。
目標は、少なくとも1000人の候補者を確保することである。
研究チームは既にデータの解析を開始している、とAndreakos。
候補者が多量のSARS-CoV-2に曝露されたことを証明するのは難しい。
「この研究はほぼ不可能かもしれません」とAhuja。
カップルの一方が無症状の濃厚接触者である場合、感染したパートナーが生きたウイルスを大量に排出していたことを確認する必要がある。
Ahujaによれば、不一致カップルは珍しくないが、これらの基準を満たしていて、
定期的に検査を受けているカップルが見つかることはめったにない。
現在では多くの人がワクチン接種済みのため、SARS-CoV-2に対する遺伝的抵抗性は目に見えなくなっている可能性があり、
この研究の候補者確保はいっそう難しくなっていると付け加える。
候補者を絞り込んだら、次は、抵抗性に関連する遺伝子を見つけ出すために、候補者のゲノムを感染者のゲノムと比較する。
抵抗性に関連すると考えられる全ての遺伝子を細胞や動物のモデルで研究し、
抵抗性との因果関係を確認することで、作用機序が確立されるのだ。
Casanovaの研究チームは、重症COVID-19への感受性を高める稀な変異をこれまでに特定しているが、
現在、研究は抵抗性を調べる段階に移っている(2021年11月号「COVID患者の重症化・死亡に自己抗体が関連か」参照)。
他の研究グループは、ゲノムワイド関連解析(GWAS)と呼ばれる遺伝学的研究で、
数万人のDNAにおいて一塩基変化(通常は弱い生物学的効果しかない)を調べ、
感染のしやすさ(感受性)の低下に関連する有望な候補変異を特定している
(2021年9月号「COVIDのリスクに関連する遺伝的バリアントが分かってきた」参照)。
「このような変化の1つは、血液型O型の原因遺伝子に見られます。
その防御効果は小さく、防御の仕組みも分かっていません」と、Carrington。
この最新のプロジェクトを支える研究者らは、明らかになる可能性のある抵抗性機構がどんなものか、仮説を立ててきた。
最も疑う余地がない機構と考えられるのは、一部の人には、SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に利用する
機能的なアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体がない、というもの。
査読前論文ではあるが、あるGWAS研究から、ACE2遺伝子の発現を低下させると考えられる1つの稀な変異が
感染リスクの低下に関連し得ることが明らかになった(J. E. Horowitz et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/ghqgn5; 2021)。
この種の抵抗性機構は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)でこれまでに観察されている。
HIVはCCR5受容体を利用して白血球に侵入する。
AhujaとCarringtonは1990年代初頭から、白血球上のCCR5受容体の機能を喪失させる稀な変異の特定に役立つ研究に関わってきた。
「この知識は本当に役に立っています」とCarrington。
この知識からHIVの遮断薬という分類クラスが開発された。
2人の患者は、CCR5の抵抗性遺伝子を2コピー持つドナーから骨髄移植を受けた後、
HIVが明らかに除去された(2019年5月号「幹細胞移植後にHIVが消滅した第2の症例」参照)。
このような機構によらずにSARS-CoV-2抵抗性を示す人の体内では、
SARS-CoV-2に対する非常に強力な免疫応答が起こっている可能性があり、
それは鼻の内側を覆う細胞周囲で特に顕著なのかもしれない。
そうした人たちの中には、ウイルスの複製と新しいウイルス粒子への再格納を阻止する遺伝子や、
細胞内のウイルスRNAを分解する遺伝子の機能を増強する変異を持つ人がいるかもしれないと、Andreakos。
Andreakosは、今後も課題はあるが、生まれつきSARS-CoV-2に抵抗性である人を見つけ出すことについて楽観的である。
「私たちは、こうした人を見つけ出せる自信があります」
ガラスはカーボンニュートラルな未来にとっての隠れた宝石だ
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220249
原文:Nature (2021-11-03) | doi: 10.1038/d41586-021-02992-8 | Glass is the hidden gem in a carbon-neutral future
ガラスは、リサイクルしても劣化しないし、カーボンフリーのガラスも製造可能だ。
それなのに、なぜ各国でガラスが地中に埋められてしまうのだろうか?
ガラスは、その特性を失わずに、無限にリサイクルできる。
それなのに、欧州諸国を除く大部分の国々が、いまだにガラスの大半をトン単位で埋め立て処分しているのはなぜか?
米国環境保護庁(EPA)によると、米国だけで2018年に約700万tのガラスが埋め立て処分場に運び込まれ、
それが一般固形廃棄物全体の5.2%を占めている。
プラスチックの使用量を削減しようという動きが、特に液体を入れる容器のための新素材探しを加速させている。
しかし、ガラスという既存の素材が、ネットゼロカーボン経済の主役になり得る。
ガラスの製造により、世界中で少なくとも年間8600万tの二酸化炭素(CO2)が発生。
そのほとんどは、ガラスをリサイクルすることで解消できる。
既存の技術を使って、ガラス製造工程を超低炭素にできる可能性もある。
今必要なのは、各国がガラスの埋め立て処分をやめ、ガラスのリサイクルを義務化することだ。
ガラスは、石灰石と砂とソーダ灰を混ぜて1500℃に加熱して作られる。
加熱工程は、天然ガスを熱源とし、ガラス製造時のCO2排出量の75〜85%を占めている。
残りの排出量は、原材料の化学反応によって生じる副産物による。
これらの原材料の一部は、粉砕された再生ガラス(カレット)で代替ができる。
カレットを溶かしても、CO2は排出されない。
ガラスを溶かすための炉は、原材料を溶かす場合ほど激しく燃やす必要がないため、さらにCO2排出量を削減できる。
ブリュッセルに本部を置く業界団体、欧州ガラスびん連合(The European Container Glass Federation;FEVE)によると、
炉に入れるカレットを10%増やすと、原材料だけでガラスを作る場合と比べてCO2排出量が5%減少する。
他のリサイクル方法と同様、いくつかの注意点がある。
窓ガラスに使われる板ガラスは、他の多くの用途に使われるガラスと異なり、不純物を含むことが許されない。
ジャムの瓶を溶かして窓ガラスを作ることはできない。
板ガラスのカレットは、さらに板ガラスを作るために使用できる。
いくつかの問題については、さらなる研究が必要になる。
政府が適切な資源を配分するためには、ガラスの回収とリサイクルのシステムを強化した場合の金銭的コストを知っておく必要がある。
ガラスはプラスチックよりも重いため、ガラスを代替品として使用すると、
輸送コストや排出量が増える可能性が非常に高く、その点も理解する必要がある。
ガラスのリサイクルに関して、欧州は世界で最も進んだ地域で、他の地域に水をあけており、さらなる高みを目指している。
研究者は、欧州のリサイクル制度がどのようにして生まれたのか、
その長所と短所、他の国にとっての教訓があるかどうかを調べることができる。
EU加盟国(27カ国)と英国では、ボトルなどの容器に用いられるガラスの4分の3がリサイクルのために回収。
その結果、EU内で製造される新しいガラスには、既に約52%のリサイクル材料が含まれている。
ガラス容器業界は、2030年までにEUで廃棄される容器ガラスの90%を回収するという目標を掲げている。
それ以外の国々は、必要とされるレベルに達していない。
ほとんどの国々が自国の活動を報告していないこともあって、
ガラスのリサイクルに関するデータを見つけるのは困難だ。
ガラスのリサイクルに関するデータを収集している国際機関もないようだ。
これは変える必要がある。
回収率とリサイクル率を上昇させるための各国の取り組みは進んでいる。
米国では、ガラス容器のリサイクル率は平均31%にすぎないが、
米国バージニア州アーリントンに本部を置く業界団体であるGlass Packaging Instituteは、
2030年までに50%に引き上げることを目指している(ガラスくず全体の56%を回収しなければならない)。
ヨハネスブルク(南アフリカ共和国)に本部があるGlass Recycling Companyが実施しているプロジェクトでは、
リターナブルびん(回収後に洗浄して繰り返し使用するびん)の利用促進などによって、
南アフリカ共和国全体のリサイクル率を、2005~06年の18%から2018~19年には42%まで高めた。
その他の国々(例えば、ブラジル、中国、インド)では、当局が沈黙しており、計画や意欲すらも明らかにしていない。
廃棄物を削減する法律とガラスの埋め立て処分を最終的に禁止する法律を備えた国を増やす必要がある。
そうすれば、ガラスをリサイクルする意欲が自然に高まる。
欧州では、廃棄される建築・建設資材の70%をリサイクルすることが既に義務付けられている。
残りの30%は、道路材料やその他の基本的な建築工程で骨材として使用されているが、これは貴重な資源の莫大な浪費だ。
製造時に混合した化学物質を溶かすプロセスを脱炭素化することでも、CO2排出量を削減できる。
FEVEが推進するFurnace for the Future(「未来の炉」の意味)という実証プロジェクトでは、
エネルギー源を天然ガスから電気に置き換えたハイブリッド電気炉を用いて再生ガラスのカレットを加熱し、ガラスを製造している。
この電力源を完全に脱炭素化することができれば、ガラスの製造工程全体で実質的にカーボンフリーが実現する。
ガラスは必要不可欠な素材だ。
ガラスの製造工程のカーボンフリー化は、比較的短期間で実現可能である。
ガラスを適切に回収してリサイクルするための法律と、埋め立て処理されないようにするための法律が必要だ。
地域社会や企業によるガラスの回収とリサイクルのためのインフラ作りを支援する必要もある。
解決策はもう出揃っており、比較的単純な解決策だ。
その実行が必要なのだ。
実行されれば、ガラスのグラスで祝杯を挙げることができるだろう。
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