2021年7月18日日曜日
ピアノ演奏から自動で楽譜作成、世界初「実用に近いレベル」に 京大
2021.06.23
ピアノ演奏の音声から自動で楽譜を書き起こす(採譜する)技術を、
世界で初めて実用に近いレベルに高めた、と京都大学の研究グループが発表。
機械学習を独自に応用して実現した。
ピアノは人気が高い楽器だが音が複雑で、自動採譜が特に困難とされてきた。
情報や知能の研究と芸術分野を融合し、音楽文化に貢献する成果。
世界に広く普及したピアノは長年、自動採譜研究の関心の的となってきた。
例えば、両手の指で演奏して複数の高さの音が同時に続く「多重音高」のため、
一つ一つの音の聞き分けは特に難しい。
ピアノで高精度の採譜が実現すれば、手法をさまざまな楽器に応用する道が開ける。
研究グループは機械学習を活用し、次の2つの手法を統合したピアノの自動採譜システムを開発。
(1)各時点の音の高さや強さ、打鍵の有無を推定するため、
この分野で編み出されてきた複雑な計算モデルに独自の改良を加え、精度を高めた。
これにより「会議で複数人が同時に話す声を認識するような問題を解いた」。
(2)既存のさまざまな音楽に頻出するリズムの傾向を、統計解析をした上で学習。
演奏者特有のテンポの揺れや和音のばらつきなどがあってもリズムを認識し、
整った楽譜ができるようにした。
これら2手法の統合は、従来は困難だった。
曲を局所的に捉えるだけでなく、Aメロ、Bメロ、サビのような曲の中の大局的な構造も考慮し、
拍子や小節線の位置などの推定の精度を高めた。
一連の工夫の結果、採譜の誤りが従来に比べ半減。
「ピアノを弾く多くの人が使えることに同意した」実用に近いレベルの楽譜が実現した。
今後は、さらに多くのデータによる機械学習で精度を高めるほか、
強弱記号や装飾記号など、より細かい要素の認識も目指す。
歌声、ギターやドラムなどにも応用でき、多様な楽器編成の曲の自動採譜にもつながると期待。
研究グループの京都大学白眉センターの中村栄太特定助教(情報学)は
「数十年来の課題だったが、部分的に実用レベルを達成したのは画期的。
実用化すれば、ネット上の音声から楽譜を生成して手軽に練習できるなどして、
音楽文化を豊かにするだろう」
著作権上の問題や、専門家らの収入源である採譜の仕事が減るといった課題が生まれる恐れもあり、
「健全な発展に向け、法整備や技術の社会実装についての議論が必要だ」と提起。
成果は、米国の情報科学誌「インフォメーションサイエンシズ」電子版に3月13日に掲載、
京都大学が6月15日に発表。
研究は日本学術振興会科学研究費助成事業、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業などの支援を受けた。
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20210623_n01/index.html
血液数滴でアルツハイマー型認知症を診断、島津がノーベル賞技術を応用した世界初の装置
2021.06.29
島津製作所(京都市)は、血液数滴でアルツハイマー型認知症の進行度を判定する
世界初の装置の販売を始めた。
2002年にノーベル化学賞を受賞した同社の田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローが開発した技術を応用。
血液採取で済むため、これまでの方法より患者の負担が小さく、コストも安く済む。
国内の認知症患者は、2020年に約600万人と推計されているが、
その6割以上をアルツハイマー型が占める。
発症する20年も前から、脳内に「アミロイドβ(Aβ)」と呼ばれるタンパク質が蓄積することが知られている。
その蓄積具合を調べて重症度などを診断する検査法として、
放射線を用いる「陽電子放射断層撮影(PET)」や腰から針を刺す「脳脊髄液検査」があったが、
患者の負担が大きかった。
田中氏も参加した島津製作所と国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の共同研究グループは、
同時に多くの種類の物質を測れる質量分析手法を応用。
血液中にわずかに存在し、Aβ量と相関する成分を検出する方法を2018年に考案。
検体は血液数滴、約0.5ミリリットルでも判定可能。
研究グループは、その後も実用化研究を続けて、
検査装置「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」(アミロイドMS CL)を完成させ、
昨年12月に医療機器の製造販売承認を受けて今回、販売開始にこぎつけた。
質量分析は長い間、小さな分子しか適用できなかった。
田中氏は試料のタンパク質にコバルトとグリセリンの混合物を混ぜ、
そこにレーザーを当ててイオン化させると高分子のタンパク質も質量分析できることを発見。
ノーベル化学賞の受賞対象になった。
「アミロイドMS CL」にはこの技術が使われている。
アルツハイマー型認知症については、日本の製薬大手エーザイと米製薬大手バイオジェンが共同開発した
「アデュカヌマブ」が6月初めに米食品医薬品局(FDA)の承認を受け、Aβを減らす効果に期待が高まっている。
日本国内で承認、販売されるかどうかは未定だ。
現状では進行を遅らせたり、症状進行に伴う不安などを抑えたりする投薬の治療が中心で、
早期発見が何より重要とされる。
田中氏によると、症状の進行度を血液に含まれるバイオマーカーで測る機器は世界初。
同氏は「今後も改良を重ね、世界的な課題となっている認知症治療の分野で貢献していきたい」
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20210629_n01/index.html
朝食でタンパク質をしっかり取るのが筋肉量増加に効果的 早大研究で判
2021.07.15
朝食でのタンパク質摂取は筋肉量の増加に効果的であることが、
マウスや高齢者を対象にした研究で分かった、と早稲田大学の研究グループが発表。
筋肉量の維持・増加は育ち盛りの子供や活動が低下しがちな高齢者に重要だが、
タンパク質を多く含む充実した朝食が大切であることを伝える興味深い成果だ。
食事から摂取するタンパク質は、骨格筋の合成や筋肉量の維持・増加に重要であることは
広く知られているが、摂取する時間帯が筋肉量増加に与える影響についてはよく分かっていなかった。
長崎大学医歯薬学総合研究科の青山晋也助教(研究当時は早稲田大学重点領域研究機構次席研究員)、
早稲田大学理工学術院の柴田重信教授、金鉉基講師らの研究グループは、
タンパク質を摂取するタイミングと筋肉量の増加効果の関係を明らかにする研究を始めた。
青山さんらは、マウスに1日2回(「起床後に朝食、就寝前に夕食」)、2グラムずつえさを与える飼育を開始し、
1日にえさに含まれるタンパク質の割合を決めた上で、朝夕食に含まれるタンパク質量を変化させた。
その結果、朝食に多くのタンパク質を摂取させたマウスは、夕食に多く摂取させたマウスや、
朝夕食に同じ量を摂取させたマウスよりも筋肉量の増加率が有意に高かった。
次に、筋肉の合成を高める作用が強いアミノ酸として知られる「分岐鎖アミノ酸」に着目。
筋肉量増加との関係を調べたところ、分岐鎖アミノ酸を添加したえさを朝食に与えた方が、
夕食に与えるよりも筋肉量が増加しやすいことが分かった。
分岐鎖アミノ酸以外のアミノ酸を添加した実験ではこの違いはなかったことから、
朝食でのタンパク質摂取による筋肉量の増加には
分岐鎖アミノ酸が大きな役割を担っていることが明らかになった。
分岐鎖アミノ酸は、側鎖に分岐した構造を持つアミノ酸の総称。
バリン、ロイシン、イソロイシンが知られる。
バリンはクロマグロや牛・豚レバーなどに、ロイシンはカツオや鶏卵などに、
イソロイシンはクロマグロや豚ロースの赤身、鶏卵などに多く含まれ、いずれも必須アミノ酸だ。
また、朝食でのタンパク質摂取がなぜ筋肉量の増加に効果的なのかを明らかにするために
体内時計(1周期約24時間の概日時計)に注目。
体内時計はさまざまな細胞に存在し、数十種類の「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子群により構成されるが、
この時計遺伝子がタンパク質摂取のタイミングによる筋肉量増加効果の違いに関係していると推測。
時計遺伝子Clockに変異の入ったマウスや、時計遺伝子Bmal1を筋肉で欠損したマウスをつくり実験した。
その結果、これらのマウスでは朝食にタンパク質を摂取させても筋肉量の増加効果は見られなかった。
朝食でのタンパク質摂取と筋肉量の増加効果には、体内時計が関わっていることが確認できた。
研究グループは、65歳以上の高齢女性60人を対象に、
3食のタンパク質の摂取量と骨格筋機能との関係を2017年10月から2018年2月まで調査した。
タンパク質量は筋肉量を維持・増加させるために必要とされる1日、体重1キロ当たり1.0~1.2グラムを目安にした。
その結果、夕食で多くのタンパク質を摂取している人と比べ、
朝食で多くのタンパク質を摂取している人の方が、骨格筋肉量の指標である「骨格筋指数」
(四肢の筋肉量のキログラム数を身長のメートル数の2乗で割った値)や握力が有意に高かった。
人間でも朝のタンパク質摂取が筋肉量の維持・増加に有効である可能性があるとした上で、
多くの国の食事調査では朝食のタンパク質摂取量は少なく、
不足しがちであることから、今後は朝食でも摂取しやすいタンパク質豊富なメニューなどの開発も望まれる。
研究は、国家研究プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の
「次世代農林水産業創造技術」などの支援を受けて行われ、
研究成果は6日付の米科学誌「セル・リポーツ」電子版に掲載。
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20210715_n01/
2021年7月9日金曜日
新型コロナウイルスの「多種の変異株の感染を阻害できる」スーパー抗体を開発、富山大学
2021年6月22日(火)
富山大学の研究グループが、
1つの抗体で新型コロナウイルスの多種の変異株にも対応できる中和抗体を、
人工的に作成することに成功した。
独自に「スーパー中和抗体」と命名し、
世界最速レベルで抗体を作成できると実用化に自信をみせている。
富山大学の医学系と遺伝子情報工学系の複数の研究者からなるグループ。
同大学は、抗体の作成や評価に関する14の国内外の特許を保持しており
「世界最速レベルで抗体を作製し性能評価できる技術」を持っている。
それらの技術を組み合わせれば、従来2ヵ月以上かかるプロセスを1~2週間で完了できるとし、
今回新型コロナウイルスの増殖を防御する中和抗体を実験的に作成する取り組みを行った。
具体的には、まず新型コロナウイルス感染症の回復患者の血清中の中和活性を測定し、
防御力の強い中和抗体を持つ患者を選定。
次にその患者の血中細胞のなかから、ウイルスと強く結合する抗体を作成している細胞を選び出し、
その中から抗体遺伝子を取り出して、遺伝子組換え抗体を作成した。
研究グループでは、この抗体の中からさらに感染防御力に優れた抗体を特定し、
最終的に多種の変異株の感染を防御する「スーパー中和抗体 28K」を取得することに成功した。
この抗体に関してはすでに特許を申請済みで、以下の新型コロナウイルスの様々な株に対応できる。
野生株:武漢で最初に発見された SARS-CoV-2 ウイルスの原型
B.1.1.7(Alpha, 英国):スパイク蛋白質の RBD に N501Y 変異を有する
B.1.351(Beta, 南アフリカ):スパイク蛋白質の RBD に K417N/E484K/N501Y 変異を有する
B.1.617.1(Kappa,インド):スパイク蛋白質の RBD に L452R/E484Q 変異を有する
B.1.617.2(Delta, インド):スパイク蛋白質の RBD に L452R/T478K 変異を有する
B.1.427/429(Epsilon,カリフォルニア):スパイク蛋白質の RBD に L452R 変異を有する
P.1(Gamma, ブラジル)についても B.1.351(Beta, 南アフリカ)と同じ変異部位に変異を有するため、
同様に感染防御できると想定されるが、実験による確認はしていない。
研究グループでは、このスーパー抗体を軽症・中等症から急激にウイルスが増殖し
重症化に移行する段階で迅速に投与すれば、重症化を強力に抑制できる。
開発したこの抗体は、既存の変異部位を避け「新型コロナウイルスの感染にとって重要な部分と結合する」と
推定されるため、新たな変異株に対しても防御できる可能性があり、
今後現れる別の新たな変異株流行をも早期に制圧できる可能性を秘めている。
富山大学は今後、製薬会社との共同事業化等により実用化に向けた対応を急ぎたいとしている。
https://medicalai.m3.com/news/210622-news-medittech
唾液検査で大腸がんを検出、検出時間1分で精度83.4% 慶大先端生命研が開発
2021年7月9日(金)
慶應義塾大学先端生命科学研究所(慶大先端生命研)は、
新たに開発した多検体同時測定技術を活用し、
唾液中のがんマーカーであるポリアミン類を1検体あたり1分で測定することに成功した。
大腸がん患者と健常者の検体を用いた検証では、
83.4%の精度でがんを検出できたとする結果も発表。
この数値は、既存の大腸がんのバイオマーカーより精度が高く、
患者負担を軽減し、かつより精度の高い検査の実用化が期待される。
成果を発表したのは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授、
五十嵐香織技術員らの研究グループ。
今回研究グループが採用したポリアミン類は、大腸がん、膵臓がんなどのがん患者の唾液や尿で
急激に増加することが知られているが、既存の方法では1検体の測定に10分以上必要とされている。
この時間と費用のハードルを突破するため、
研究グループは既存の測定法である「CE-MS法」※1を拡張した「多検体同時測定 CE-MS 法」を開発。
具体的な手法は、まずキャピラリー(毛細管)に唾液検体40検体分を1度に順次注入するというもの
(図1ではa 黄色、赤、緑、青の4 検体)。
泳動バッファ(BGE)も交互に順次注入し、その後電圧をかける。
唾液中のポリアミン類などのイオンは質量分析計(MS)方向に移動するが、
唾液検体にかかる電圧とBGEにかかる電圧に違いが出るため、それぞれの移動速度にも違いが生じ、
結果、ポリアミン類などのイオンは各検体と BGE の境界でスタックされる(図 1b)。
その後、検体とBGE の液が混合すると印加電圧は一定になるため(図 1c)、
一定の移動速度でポリアミン類などは MS に向かい、それぞれの化合物が持つ固有の質量で検出される(図 1d)。
研究グループではこの測定法の応用として、
東京医大で採取された健常者 20 例、大腸がん患者 20 例、計 40 検体の唾液中ポリアミンを測定。
結果は、どのポリアミンも健常者と比べ大腸がん患者で高値を示し、
40 検体を40 分(サンプル注入 20 分、測定 20 分)で分析できた。
検証として、健常者 57 例、大腸良性ポリープ患者 26 例、大腸がん患者 276 例から採取した
唾液中のポリアミン類を測定したところ(図4)、
健常者や大腸良性ポリープ患者に比べ、大腸がん患者で 3 種類のポリアミン濃度が有意に高くなっていることが判明。
3つのうち「N1-アセチルスペルミン」に関しては、
大腸がん患者を 83.4%の精度で非がん患者と区別できることが分かった。
この精度は、既存の大腸がんの血液マーカーである CEA、CA19-9、NSE など(精度 56-77%)より高い精度で
大腸がんを診断できることを示している。
研究グループの杉本昌弘教授らは、唾液検査を主幹事業とするベンチャー「サリバテック」を創業、
同社へ技術移転することで既存検査の大幅なコストダウン、大規模化を実現できると見込んでいる。
グループの曽我朋義教授は「本法は唾液のポリアミン測定による大腸がんの診断の大規模・迅速分析を実現した。
ポリアミン以外の低分子マーカーの臨床応用も実現する測定技術であると考えている」
研究成果は、論文として分析化学誌『Journal of Chromatography A』電子版に掲載。
※1 キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)法
試料を細長いキャピラリー(内径 50μm、長さ 1m)に導入後、その両端に高電圧を加えることにより、
イオン性を持つ物質がキャピラリー内を異なった速度で移動する原理を利用して分離後、
質量分析計に導入し各物質の同定、定量を行う方法。
外部リンク(論文):High-throughput screening of salivary polyamine markers for discrimination of colorectal cancer by multisegment injection capillary electrophoresis tandem mass spectrometry(Journal of Chromatography A)
https://medicalai.m3.com/news/210709-news-medittech
女子サッカー選手は脳損傷のリスクが高い
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210708
原文:Nature (2021-04-30) | doi: 10.1038/d41586-021-01184-8 | Head-injury risk higher for female soccer players, massive survey finds
米国の高校生アスリートにおける脳震盪の発生率とその原因に関するデータから、
男女間で顕著な違いがあることが明らかになった。
ペンシルベニア大学ペレルマン医学系大学院(米国フィラデルフィア)、
ミシガン州立大学(米国イーストランシング)、グラスゴー大学(英国)の研究チームが、
米国ミシガン州の高校に通う約4万3000人の男子サッカー選手と
約3万9000人の女子サッカー選手の3年間の調査データを分析し、
その結果を4月27日付でJAMA Network Openに発表。
スポーツに関連した頭部損傷の発生率は男女間で顕著な差があり、
女子の脳震盪の発生率は男子の1.88倍である。
今回の研究を主導したグラスゴー大学の神経病理学者William Stewartは、
研究者たちは以前から男子よりも女子の方が頭部を負傷することが多く、
回復に要する時間も長いのではないかと考えていたが、具体的なデータが不足していた。
「女性アスリートに関する研究はほとんど行われていないのです」
ミシガン州高等学校体育協会が、2016年度から2018年度にかけてスポーツ傷害に関する
大量のデータを収集したことで、女性アスリートの脳震盪のリスクが本当に高いのかどうかを
検証することが可能になった(「脳震盪のリスク」参照)。
「男子と女子の間には、確かに違いがありました」とStewartは言う。
脳震盪の原因も、男女で大きな差があった。
男子は、他の選手と激突して脳震盪を起こすことが最も多く、
報告された脳震盪の半数近くがこの形で起きていた。
女子の場合、ボールやゴールポストなどの物と衝突して脳震盪を起こすことが多かった。
男子は女子に比べて、頭部損傷が疑われた直後にプレーから外されることが多かった。
Stewartは、女子の頭部損傷のメカニズムが男子と異なっていることは重要な発見であると考え、
「これは、女子の脳震盪がフィールドであまり気付かれなかった理由の1つかもしれません」。
試合中に潜在的な頭部損傷を発見する方法から、
選手を治療する方法やプレーに復帰させる時期まで、現在使用されている脳震盪管理システムは、
ほぼ男性アスリートを対象とした研究のみに基づいて規定されている。
脳震盪の管理については、現行のような男性基準の画一的なアプローチではなく、
性別に応じたアプローチを検討する必要があるかもしれない。
サッカーでのヘディングを制限することや、女子の試合では医学的な訓練を受けたスタッフを
多めに配置したりすることなどが考えられる。
スウォンジー大学(英国)でバイオメカニクスと頭部損傷を研究しているLiz Williamsは、
2020年に女性ラグビー選手とその負傷歴に関する国際的な大規模調査を実施。
彼女はStewartの調査結果に全く驚かず、
「私たちの発見はどれも同じです。女性は男性よりも脳損傷を受けやすいのです。
個人的には、脳損傷の発生率は報告されている数字よりも高いと考えています」。
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v18/n7/%E5%A5%B3%E5%AD%90%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E9%81%B8%E6%89%8B%E3%81%AF%E8%84%B3%E6%90%8D%E5%82%B7%E3%81%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%8C%E9%AB%98%E3%81%84/108199
変異株COVID-19にも有効、点鼻型ハイブリッド抗
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210711
原文:Nature (2021-06-04) | doi: 10.1038/d41586-021-01481-2 | Antibody-laden nasal spray could provide COVID protection — and treatment
経鼻送達可能なハイブリッド抗体が作製された。
この抗体を投与すると、SARS-CoV-2に感染したマウスで
肺に存在するウイルスの量を急激に減少させることができた。
バイオエンジニアリングによって作られた抗体は、
ウイルスがマウスの肺に定着するのを阻止することができる。
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の変異株に対抗するために設計された
抗体を鼻腔内に噴霧すると、多くの変異株に対して強力な防御効果が得られることが、
まずはマウスで確認された。
効果を示した変異株には、懸念される変異株(VOC)と位置付けられている
アルファ株(B.1.1.7;旧英国型)やガンマ株(P.1;旧ブラジル型)、
ベータ株(B.1.351;旧南アフリカ型)のほか、21の変異株が含まれている。
パンデミック(世界的流行)の初期から、
科学者たちはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症;SARS-CoV-2によって引き起こされる感染症)の
治療薬となる抗体を開発しようと努力してきた。
現在、数種類の抗体薬が後期臨床試験に入っており、
米国などの規制当局により緊急時の使用が承認されているものもいくつかある
(2021年6月号「COVID-19の抗体治療に、先入観を覆す有望な結果」参照)。
しかし、テキサス大学ヒューストン健康科学センター(米国)の抗体工学者であるZhiqiang Anは、
医師の間では抗体治療はあまり人気がないと話す。
一因として、現時点で入手可能な抗体薬が点滴によって投与するタイプのものである。
ウイルスが主に存在している気道に直接送達するわけではないため、
効果を得るには大量の投与が必要となるのである。
SARS-CoV-2変異株の中に、既存の一部の抗体に耐性があるように思われるものが出現していることも問題だ。
Anらは、鼻の中に直接送達できる抗体の開発に着手した。
彼らは健康な人々から採取した抗体ライブラリーを調べ、
その中からSARS-CoV-2が細胞に付着・侵入する際に使用する部分を認識できる抗体に着目。
有望そうな候補の1つはIgG抗体。
IgG抗体は感染後に出現する時期は比較的遅いものの、
侵入してくる病原体に合わせて正確に作られているからだ。
研究チームは、SARS-CoV-2に対する中和作用を持つIgG抗体(左上)のFv部を、
IgM抗体とIgA抗体に導入して、ハイブリッド抗体を作製した。
SARS-CoV-2を標的とするIgG抗体の抗原結合部位である可変部断片(Fv)を、
IgM抗体という別の種類の分子のFv領域に組み込んだ。
IgM抗体は、幅広い種類の感染症に対して最初に応答する抗体である。
研究チームが作製したIgM抗体は、20種類以上のSARS-CoV-2変異株に対して、
IgG単独よりもはるかに強い「中和」効果を発揮した。
研究チームは、改変したIgM抗体を感染の6時間前または6時間後にマウスの鼻に噴霧すると、
感染から2日後にマウスの肺に存在しているウイルスの量が急激に減少した。
ソルボンヌ大学(フランス・パリ)の免疫学者であるGuy Gorochovは、
この研究は「エンジニアリングの偉業」だと称賛する一方、
この抗体がヒトの体内でどのくらい持続するかなど、明らかにすべきことがまだ残っている。
Anは、この抗体の鼻腔スプレーが、SARS-CoV-2に曝露した人々が使える化学的マスクのようなものとして、
ワクチンでは十分な防御ができない人々のための追加の防御策として利用されることを想定。
IgM分子は比較的安定しているので、薬局で購入して緊急時に備えて保管しておくこともできるかもしれない。
Anの研究に協力したバイオテクノロジー企業IGM Biosciences(米国カリフォルニア州マウンテンビュー)は、
この抗体の臨床試験を行う予定。
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v18/n7/%E5%A4%89%E7%95%B0%E6%A0%AACOVID-19%E3%81%AB%E3%82%82%E6%9C%89%E5%8A%B9%E3%80%81%E7%82%B9%E9%BC%BB%E5%9E%8B%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%89%E6%8A%97%E4%BD%93/108201
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